ナチス宣伝相ゲッベルスもビックリ

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当方は「嘘」に強い関心がある。「嘘」が好きというのではない。「嘘」を言う人間の心理に興味があるのだ。このコラム欄でも米Foxの心理サスペンス番組「Lie to me」(邦題「ライ・トゥ・ミー」嘘は真実を語る)の内容を紹介し、マイクロ・エクスプレッション(微表情)について語った。嘘を言う時、人は必ず何らかの変化、顔の表情、体全体の仕草などに現れるという前提から、嘘を言ったか否かを判別する心理学が今、人気を呼んでいる。フェイク・ニュースが氾濫する現代、「嘘」かどうかを見分けるノウハウを身に着ける必要があるからだろう(「『嘘』を言ってごらん」2020年2月18日参考)。

▲ナチス政権下の宣伝相ゲッベルス(Wikipediaより)

TV長期シリーズとなった米TV番組「スーパーナチュラル」(Supernatural)では霊が現れ、人々に本当のことを喋らせる魔法をかける。すると、社会は大混乱。人は自身の本音を語り出すからだ。人は通常、平気で嘘を言う。そして「嘘」は社会の秩序維持に欠かせないことが明らかになる。「嘘」を賛美するつもりはないが、「嘘」にも一定の役割があることを改めて感じる。

ところで「嘘を100回言えば本当になる」と発言した人物がいた。ナチス・ヒトラー政権の宣伝相だったヨーゼフ・ゲッベルスだ。彼は演説の名手で聴衆を巧みに操作していく。ヒトラーに信頼されたゲッベルスはヒトラーの世界制覇の野望を助ける宣伝相となっていく。そのゲッベルスから洗礼を受けたのではないだろうが、中国共産党指導者は頻繁に「嘘」をいう。世界にフェイク・ニュースを垂れ流しているのだ。

問題は、ゲッベルスは「嘘も100回いえば……」といって、同じ「嘘」を根気よく喋らないと「本当」に昇進しないと諭していたが、中国共産党政権は根気がない、というか、100回も同じ嘘を言っている時間がない。冷静に考えれば「嘘」と分かる「嘘」をここにきて連発しているのだ。

最近、大きな話題を呼んだ中国発嘘は、スイスの生物学者を登場させ、新型コロナウイルスが中国のウイルス研究所から流出したものではなく、米国発だというニュースだ。同学者は米国と世界保健機関(WHO)のウイルス起源調査を批判し、中国の主張を裏付けている。もちろん、中国の国営メディアはその発言を大々的に報道したことは言うまでもない。

ところで、スイスの生物学者と指摘されたこともあって、スイス側がその生物学者「ウィルソン・エドワーズ」という人物の所在を調べたが、そのような名前の生物学者が見当たらなかった。北京のスイス大使館は10日、ツイッターで、「ウィルソン・エドワーズという名のスイス人は実在しない。同名で発表された学術論文や出版物は存在しない」と、中国の嘘を指摘したが、北京を直接糾弾することを避け、「ウィルソン・エドワーズさんがおられましたら、お会いしたいです」としゃれたやり方で笑い飛ばしている。

ゲッベルスは、「成果をもたらさない宣伝は効果がない。上品な宣伝も必要ではない。大衆を獲得することが重要だ。そのためには手段を選ばない」と述べたという。その教えを中国共産党指導者が模倣しているのかもしれないが、余りにも幼稚な「嘘」だ。中国共産党指導者には時間がないのかもしれないが、欧米社会ではそれらの発言内容をルーペをかけて調べる学者やジャーナリストが多数いるから、中国の即製「嘘」は直ぐに見破られる。

今年7月、ポンペオ米前国務長官が2020年6月に米陸軍士官学校ウェストポイントの士官候補生らを前に内部向けに語ったとされるスピーチが報じられたことがある。内容は新型コロナウイルスは米陸軍が作ったものだというものだ。同前長官は、「明らかに偽情報だ」と指摘している。こんな「嘘」は余りにも幼稚だが、この情報を読んだ多くの人々に影響を与えることも事実だ。フェイク・ニュースの狙いもそこにある。

ゲッベルスがいうように「嘘」は上品である必要はないが、架空のスイス生物学者を登場させたり、敵国の指導者の語ってもない演説内容を事実として報じる中国共産党指導部の「嘘」は滑稽なほど直接的で、工夫が足りない。ゲッベルスも中国発「嘘」には呆れてしまうだろう。

独裁者、政治家、そして宗教指導者、聖職者もフェイク・ニュースを流す時代だ。中国共産党指導者だけを批判することは公平ではないかもしれない。明らかな点は「嘘」を見破るノウハウを身に着けることだろう。特に中国発の新型コロナウイルスが世界に感染を広めた後、多くのフェイク・ニュースが出現してきた。ウイルスワクチンの接種が始まると、欧米製のワクチンの有効性などを疑わせるロシアや中国発のフェイク・ニュースが大量に流されている(「『RT』愛読者はワクチン接種を避ける?」2021年1月20日参考)。

当方は欧州の北朝鮮関連ニュースをフォローしてきた。ある日、知人の北朝鮮外交官が、「君、欧米で流れている北情報の90%以上は偽情報だよ」と笑いながら語ったことを忘れることができない。

その後、当方は北情報の是非を判断する一つの法則を考えた。誰かが北の極秘情報だといって“長々”とその情報を話し出したら疑え、だ。「嘘」は相手を説得するために長い説明が必要となるからだ。事実はシンプルで本来長い説明は要らない。この法則はこれまで結構、役立っている。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2021年8月16日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。