朝ドラ登場人物の名字を調べました
NHK朝の連続テレビ小説は、日本各地の県を舞台としている。
例えば、現在放送中の『おかえりモネ』は、宮城と東京が舞台で、ひとつ前の『おちょやん』は、大阪と京都を舞台にしていた。
朝ドラは、なんとなく惰性的にダラダラ見続けているが、いつも登場人物の名字が気になっている。
そこで、連続テレビ小説で気になった作品に登場した人物の名字を調べてみた。
NHK朝の連続テレビ小説とはどんな感じのドラマ?
「連続テレビ小説」といちいち言うのはめんどくさいので、以降、朝ドラというが、朝ドラを一度も見たことがない人のために、どんなドラマなのか、ざっくりと説明しておきたい。知っている人は飛ばして読んでいただいてもかまわない。
朝ドラの地上波での放送は、NHK総合で朝8時から15分間、再放送は昼12時45分から。月曜から金曜にかけて放送されおり、土曜は一週間の振り返りと次週の予告編が放送されている。
毎年、3月〜4月ごろにNHK東京制作のシリーズが、9月〜10月ごろにNHK大阪制作のシリーズがそれぞれスタートする。
たいていは主人公が女性で、家族や家族みたいなひとたちに見まもられながら、故郷となる土地で成長し、(この部分をぼくは勝手に「故郷パート」と呼んでいる)さまざまな人に出会い、何かにめざめ、何かを目指して都会に出たり出なかったりしつつ、挫折や喜びを繰り返して成長していく姿を、半年かけて放送している。
東京制作の場合、東日本が故郷になる場合が多く、大阪制作の場合、西日本が故郷になることが多い気がする。(もちろん例外はある)そして、主人公が行く「都会」も、東京制作の場合は東京、大阪制作の場合は大阪……というパターンが多い。
朝ドラは、今や地方にとっては、地域おこしのきっかけとして重要視されていて、朝ドラを「誘致」する自治体もある。昨年放送された『エール』も、誘致の結果だと言われている。
また、朝ドラが地方を重要視しているのは、セリフに使われる方言にもあらわれていて、主演俳優は、舞台となる地方出身でなければ、その地方の方言を特訓しなければならないし、方言指導のひともほぼ毎回関わっている。
ことほどさように、朝ドラと地方というのは、切っても切り離せない関係がある。
名字の地域性はどうなのか
ところで、みなさまご存知のように、名字にも地域性がある。
東京には鈴木さんや佐藤さんが多いし、大阪には田中さんや山本さんが多い。これは県ごとにもそういう地域性はあって、愛媛には村上や越智が多い、とか、宮崎には黒木や甲斐が多い、といった傾向がある。
例えば、青森が舞台のドラマで、登場人物の名字が、鈴木、山本、伊藤、加藤みたいな感じだと、青森らしい雰囲気はない。でもこれが、相馬、工藤、葛西、成田みたいな名字だとリアルな雰囲気が出てくるし、地元の人もみてて「あーっ」となる。
さて、朝ドラの登場人物である。
朝ドラの故郷パートに登場する地元の人たちや、都会パート(主人公が都会に出たときなどはこう呼んでいる)で出会う出身地がはっきりしている人たちの名字に、地域性はどれだけ反映されているのかが、まえから気になっていた。
そこで今回、ぼくが気になった朝ドラの、登場人物の名字と出身県を調べ、その名字が出身とされる県にどれだけいるのかを調べてみた。
そのデータが、こちら。
まず、朝ドラ登場人物の出身県は、基本的に舞台となった県としている。また、都会パートでの登場人物は、ドラマ内で出身県が言及されるなどした場合のみピックアップの対象とした。
なお、名字データは、こちらのサイトのデータを元にしている。このサイトの名字データは、2007年頃の全国電話帳のデータであることにご留意いただきたい。
朝ドラ登場人物名字の地元率とは?
朝ドラ登場人物名字の地元率は、どのように算出するのか。まず、朝ドラの登場人物のなかから登場回数の多い、または、ぼくが見ていて重要だとおもった人物を10人選び出し、名字と出身県を調べる。
次に、全国に存在するその名字の件数のうち、登場人物の出身県とされる県に、その名字がどれほど集まっているのかを割合で算出した。
伝えたいことが、いまいち伝わってないような気がするので、今放送中の『おかえりモネ』を例にとって説明してみたい。
清原果耶演じる主人公の永浦百音は、宮城県気仙沼市出身の女性で、気象予報士を目指し、周囲のサポートをうけつつ試験に合格し、東京の気象予報会社へ就職。現在は東京を舞台にした都会パートを放送中だが、名字データでは、主に、宮城県での故郷パートに登場した人たちの名字をピックアップした。
主人公の永浦という名字は、日本全国に182件(電話帳に掲載されている数なので人ではない)あるが、そのうち百音の出身である宮城県には64件の永浦さんがいる。つまり、全国の永浦さんのうち、約35.2%の永浦さんが宮城県にいることが推定される、というわけだ。
永浦は、わりとありそうな名字ではあるが、全国に182件というのは非常に少なく、稀少姓である。しかもそのうちの35%が宮城県に集中している。それ以外は、北海道、東京、福岡あたりに20件づつあるほどなので、全国の永浦さんのほとんどは宮城県にいると考えてさしつかえないだろう。
なお、宮城県内の永浦さんのほとんどは登米市に集中している。劇中で、藤竜也演じる百音の祖父と、夏木マリ演じる登米市の素封家、新田サヤカが古くからの知り合いという設定になっているが、もしかしたら、百音の永浦家は登米市にルーツがあるのかもしれない。
ただし、ぼくは朝ドラをあまりまじめに見ていないので、もしかしたらすでにそのような話があり、それを見逃している可能性はある。
さて、登場人物別の地元率のグラフを見てほしい。
『おかえりモネ』を熱心に視聴している皆さま方にとっては、百音と恋仲になりそうな医師の菅波さんが入っておらず、ちょい役の田中さんが入っているのはなぜか、とお思いになったかもしれない。
これは、菅波さんは宮城出身ではなく、劇中で何県出身なのか言及されていないためだ。(もしかしたら、出身県に関する話がどこかで出てきているかもしれないが、ぼくが見逃している可能性はある)
ちなみに、菅波は福島県に多い名字なので、今後、菅波さんも実は福島出身で……という展開があるかもしれないが、ないかもしれない。
百音の幼馴染のうち、漁師になった、りょーちんこと及川亮の及川、同級生の早坂はどちらも宮城県への集中が顕著で宮城っぽい名字といえる。
また森林組合に出入りする山番頭の熊谷さんも、岩手県南部に多い名字で、県境を越えた宮城県気仙沼市では小野寺に次いで2番目に多い名字だ。
一方、寺の息子の後藤三生の後藤、百音の親友、野村明日美の野村はともに宮城には少ない名字だ。全国の分布をみると、どちらの名字も愛知県に多い名字となっている。
後藤も野村も、なぜか愛知県に多い名字でそろえてきているが、これは意図的なものなのかどうなのかはわからない。
『おかえりモネ』は、全体的にみて、主人公や友人などの名字で宮城らしさは出てはいるものの、それ以外で宮城にあまりいない名字の人がちょくちょくはいっており、地元率の平均を下げ、結果12.4%ということになった。
ただし、この12.4%はそんなに悪い数字でもない。
名字の地元感が低い『エール』
『エール』は、福島県出身の作曲家、古関裕而の生涯をモチーフにしたテレビドラマだ。古関裕而は「栄冠は君に輝く」や「東京オリンピックマーチ」を作曲したことで知られる。
ドラマ内では、古関裕而をモデルにした主人公、古山裕一を窪田正孝が演じ。古関裕而と文通で知り合い、そのまま結婚する内山金子をモデルにしたヒロイン、関内音を二階堂ふみが演じた。
古山も関内も、モデルの名字を微妙にもじって命名されている。そのため、名字の地域性はまったく考慮されていない……はずなのだが、古山に関しては、福島県に217件ほど存在する。
これは、多いというほどではないのだが、モデルとなった古関の福島県内での件数、115件より多い。
関内音は、愛知県の豊橋出身ということになっている。関内は、愛知県には3件しかないものの、福島県には17件存在するという逆転現象が発生している。
古山も関内も、おそらく古関と内山の漢字をそれぞれ入れ替えただけのものだろう。そこに深い意味はないと思われるが、若干因縁めいたものを感じてしまう。
古関裕而の同級生で、のちに歌手となった伊藤久男をモデルにした佐藤久志(山崎育三郎)の佐藤は、福島県でいちばんおおい名字だ。
全国の佐藤さんのうち、7%近くが、福島県にいると推定される。100人佐藤さんがいると、そのうち7人ぐらいは福島出身ということになる。
県別名字総件数における「佐藤」の割合をみてみると、さすがに東北地方は真っ青である。
日本で一番多いと言われる名字だけあって、なかなかの存在感がある。
ただし『エール』には、佐藤以外に福島の地域性を考慮したと思しき名字はあまりない。
強引な方法で裕一を養子にしようとした権藤茂兵衛(風間杜夫)の権藤などは、そのほとんどが福岡県に集中する名字だ。これは完全に「ゴンドー」の語感で決めたものだろう。
その結果、『エール』の名字地元率の平均は2.2%となった。今回調べた数件の朝ドラでは最低であった。
とはいえ、名字地元率が低いからといって、作品がつまらないというわけではない。名字の地域性は、あくまでドラマの雰囲気を盛り上げる一要素でしかないことは申し添えておきたい。
存在しない名字も登場する『半分、青い。』
2018年の朝ドラ『半分、青い。』は、『あすなろ白書』や『ロングバケーション』、『ビューティフルライフ』などで人気の脚本家、北川悦吏子氏が担当した。
岐阜県と東京を舞台に、主人公の楡野鈴愛(にれのすずめ、演・永野芽郁)が、その奔放な発想力を生かし、漫画家を目指したり、扇風機を作ったりするドラマだ。
ドラマの紹介はこれぐらいにして、登場人物の名字地元率をみてみたい。
まず、主人公の楡野(にれの)と主人公の幼馴染の女の子、木田原(きだはら)は、データ上では存在が確認されない名字だった。上の表では、データ処理の都合上1と入力されているが、ゼロである。
北杜夫の小説に『楡家の人びと』というものがあるが、楡さんであれば、全国に約30件ほど確認できる(もちろん稀少姓)。しかし、楡野は見つからなかった。木田原もありそうだがデータ上にはない名字だ。
そして、友人たちの萩尾も西園寺もそれぞれ、萩尾は福岡県、西園寺は愛媛県に多く、岐阜県には非常に少ないか、存在しない。
『半分、青い。』は、名字の地域性はまったく考慮せずに設定を考えたのかな……と思いきや、東京で、漫画家のアシスタントをしているときの同僚の名字、小宮は東京にわりと多い名字で、17.9%という高い地元率を叩き出した。
主人公の師匠となる漫画家、秋風羽織(豊川悦司)の本名が、実は美濃権太(みのごんた)で、秋風先生が興奮すると河内弁になる……というくだりが劇中にあった。
彼が、大阪出身であることを確実に示すセリフかなにかがあったかどうか、ぼくはあまり覚えていないので断言できないが、河内弁をしゃべるということであれば、秋風羽織、本名美濃権太は大阪出身ということにしていいのではないか。で、調べると偶然にも美濃という名字は、大阪や兵庫に実際多い。
美濃という名字を放送で見た時は「岐阜にかけたのかな」なんて思っていたけれど、ここにきて地元っぽい名字を選んでつけた可能性もでてきた。が、たぶん偶然だろう。
『半分、青い。』は、名字に岐阜の地元感は感じられないものの、上京してからの登場人物が、微妙に地域性を帯びており、結果、平均は4.3%ということになった。
地元名字朝ドラの金字塔『ひよっこ』
さて、今までとはうってかわって、名字の地域性がめちゃくちゃ出ている朝ドラを見ていきたい。
ぼくが勝手に「地元名字朝ドラの金字塔!」と、認定している朝ドラがある。2017年に放送された『ひよっこ』だ。
『ひよっこ』は、茨城で育った女の子、谷田部みね子(有村架純)が、集団就職で東京に出て、工場で働いたり、レストランで仕事しながら、なんやかんやで成長して結婚する。
まずは、地元名字率の表をみてほしい。
まず主人公の名前、谷田部がめちゃくちゃ茨城感のある名字である。全国の谷田部さん1303件のうち、37%ほどが、茨城県に居ることが推定される。おそらく谷田部はつくば市の旧谷田部町がルーツだろう。
幼馴染で、のちに女優となる助川時子の助川も、茨城に多い名字で、全国の助川さんのほぼ半分が茨城にいるという地元率の高さだ。
みね子の叔父さん小祝(こいわい)にいたっては、全国の半分以上の小祝さんが茨城に集中している。小祝は、おそらく小岩井を何らかの理由で変えたのがルーツではないか。なお、小岩井はほぼ長野県に集中している。
『ひよっこ』がすごいのは、地元っぽい名字の選び方だ。いずれも、全国で2000件以下の稀少姓から選んでいる。つまり、名字ガチ勢でなければ知らないような名字をあえて使っている。
さらに唸ってしまうのは、みね子が東京のラジオ工場に就職したさいに出会う、集団就職で地方から上京してきた女の子たちの名字だ。
福島出身の青天目(なばため)、青森出身の兼平、山形出身の秋葉、秋田出身の夏井、いずれの名字も名字地元率10%を越えており、特に青天目にかんしては56%を越えている。
福島出身の女の子の名字に、難読姓の青天目(なばため)さんあたりを使うところは、さすがの名字ガチ勢だ。この名字は、栃木県益子町の地名「生天目(なばため)」がルーツと思われるが、青天目と書いて「なばため」と読む青天目さんは、福島県南部、いわき市に集中している。
今回は、みね子を中心とした友人や同僚を中心にピックアップした。だが、今回カウントしなかった、茨城出身の警察官の綿引や、高校の恩師、田神あたりの名字も、茨城県に集中しているので、これをカウントしていれば、名字地元率はもっと跳ね上がっていただろう。
岡田惠和脚本作品は名字の地域性を意識しているのか『おひさま』『ちゅらさん』を検証
『ひよっこ』登場人物の名字は、だれが決めたのかわからないが、名字ガチ勢であるか、名字についてかなり詳しく調べて設定しているのは確実だ。
『ひよっこ』の脚本は、岡田惠和(よしかず)氏だが、岡田氏は『ひよっこ』の前に二作、朝ドラの脚本を担当している。『ちゅらさん』と『おひさま』だ。それらの名字地元率もみてみよう。
『おひさま』は、2011年に放送された朝ドラで、幼少期に東京から長野の安曇野に引っ越してきた主人公の須藤陽子(井上真央)が、安曇野でさまざまな人たちに出会い、最終的に蕎麦屋を開店する半生をえがく。
主人公の名字は、須藤だが、須藤が多いのは群馬県である。
主人公の父親、須藤良一(寺脇康文)は、もともと東京で飛行機の技術者をしていた設定になっているが、もしかしたら実は群馬出身で、東京で飛行機の技術者をしていた前は中島飛行機に勤めていた……という勝手な設定を想像してしまった。
陽子と出会い、結婚する蕎麦屋の丸山和成(高良健吾)の丸山は、長野、新潟にとても多い名字だ。全国の丸山さんのうち、長野に16%の丸山さんが住んでいるが、長野県内では4番目に多い名字だ。
近所に住むひとたちの名字、宮澤、宮下あたりも、長野に多い名字を採用しており、名字の地域性に多少配慮した設定となっているのかもしれない。
ただ、それ以外で長野らしい名字はあまり出てこず、平均としては7.8%にとどまっている。
続いて『ちゅらさん』をみてみよう。
2001年に放送され、大ヒットしたドラマで、パート4まで続編が作られた。ウィキペディアを見ると、このドラマがきっかけとなってゴーヤーが広まった、と書いてある。
沖縄の小浜島出身の古波蔵恵里(国仲涼子)が、なんやかんやあって上京し、いろいろ努力して看護婦となる。というストーリーだ。あらすじ紹介がかなり薄いのは、ぼくが『ちゅらさん』をほとんどみていないからだ。申し訳ない。
さて、名字地元率をみてみたい。
沖縄が舞台となっているだけあって、名字の地元率が軒並み80%を超えるという化け物みたいなドラマである。古波蔵、島袋、与那原、兼城など、聞いただけで南国の風が吹き抜けるような名字たちだ。
恵里と結婚する上村文也(小橋賢児)は、東京からやってくる(ですよね?)ので、出身地は東京にしたが、上村はもともと新潟、熊本、鹿児島に多い名字である。
東京で出会う人たちについては、出身県と名字のちぐはぐさ(北海道、秋田、石川に多い池端なのに長野出身など)が目立つものの、80%オーバーの沖縄パワーが炸裂し、平均の名字地元率38.3%という驚くべき数字となった。
これらのドラマの登場人物の名前を、脚本の岡田氏が決めているのであれば、沖縄はすこし特殊すぎるということもあるが、長野を舞台にした作品の脚本を書くにあたって、主人公と結婚する重要人物に「丸山」という長野らしい名字をあてたのは、なかなかの慧眼であったと思うし、つづいて執筆した作品でも、茨城らしい名字(しかも稀少姓)をたくさん採用するあたり、岡田氏は地元名字朝ドラの旗手と言ってよいのではないか。
人が集まると、名字に地域性がでるのでは?
たとえば、高校野球の出場校の出場メンバーに並ぶ名字を調べれば、その高校が、全国から選手を集めている高校か、地元の生徒だけの高校か、判断できるのではという気がする。
また、HKT、SKE、NMB、NGTといった地方のアイドルグループの名字を調べると、どれだけその地方の人がいるのかわかってくるのではないか。
そんな気がしている。