田舎の木造駅舎は、都会への旅立ちを見送り、帰郷を温かく迎えてくれる──福岡県田川郡赤村には、まさにそんなストーリーを想像してしまう駅舎がある。九州最古の木造駅舎、平成筑豊鉄道田川線の「油須原駅(ゆすばるえき)」だ。
古き良き時代の風景がそのまま残る駅、そして沿線の風景は、わざわざ見に行く価値がある……とはいえ、なかなか気軽に旅行には行けないと思うので、記事を通じてぜひ現地のぬくもりを感じてみてほしい。1895年(明治28年)、開業当時のままの駅舎をどうぞ。
・油須原駅
木製看板には「平成筑豊鉄道会社 油須原駅」と書いてある。そして「手荷物預所(あずかりしょ)自転車」と書かれた看板も設置されているが……現在は無人駅なので誰かに預けることはできない。よく見ると、自転車の「転」の漢字が旧字体だ。渋すぎィィ。
待合室にある伝言板の「伝」の漢字も旧字体。右から左に「板言傳」と読ませている。ちなみに現在は、伝言板を使って油須原駅の歴史等が紹介しているようだ。昔は伝言板でメッセージのやり取りが行われていたのだろう。最近はほとんど見かけなくなってしまった。
改札の頭上に設置されている発車時刻表は、いつの時代のものなのだろうか。行き先に書いてある「大瀧」「藤之木」がよく分からない。松井田本線とは一体……もしかしたらどこかでゲットした古いものを取り付けているのかもしれない。
運賃表にもナゼか「信濃鐡道」と書いてあるから、おそらく油須原駅とは関係ないのだろう。雰囲気重視で掲示したに違いない。ま、それでもいい。
・補助機関車を切り離す駅
さて、油須原駅は、石炭を輸送する目的で設立された豊州(ほうしゅう)鉄道の駅。田川地区で石炭を積んだ重い列車は、うしろに補助機関車をつけて上り坂を進んでいたが、油須原駅から先は下り坂となるため、補助機関車をここで切り離していたという。
そのため「駅構内が広い」というのが特徴なのだとか。なるほど、たしかに広く感じる。
おそらく景色も当時のままだろう。大自然の中にぽつんと佇んでいるから、四季折々の素敵な景色を楽しめるはずだ。沿線の景色ものどかで癒される。見事なロケーションだなァ。
・ドラマのロケ地としても有名
ちなみに少し前になるが、フジテレビ系月9ドラマ『東京タワー 〜オカンとボクと、時々、オトン〜』では、主人公の「ボク(速水もこみちさん)」が旅立つ駅として使われたらしい。たしかに旅立ちを演出するのにもってこいの駅だと言える……てか、まさか!
さっきの謎すぎる案内板は、もしかすると撮影のために取り付けられたものなのかも。むしろ、そうでなきゃ本当に何?
・戦前から生き抜いている木造駅舎
油須原駅の駅舎とホームは現在、地域の方々や平成筑豊鉄道社員ボランティアにより構内清掃、整備が行われており、戦前から生き抜いた木造駅舎はキレイな状態が維持されている。めちゃくちゃノスタルジックな雰囲気が味わえるから、ぜひ覚えておいてくれたまえ。
そして、いつかぜひ現地に足を運んでみてほしい。車でも電車でもどちらでもどうぞ。
・今回ご紹介したスポットの詳細データ
名称 油須原駅
住所 福岡県田川郡赤村赤4865-2
執筆:砂子間正貫
Photo:RocketNews24.