新型コロナウイルス感染症に長期間苦しむ人には「角膜の神経損傷」が起きているとの研究結果

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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、軽症であってもさまざまな症状が長期間継続するケースがあり、これは「Long Covid(ロングCOVID)」とも呼ばれています。そんなロングCOVIDを経験する患者の角膜では、「神経細胞の損傷」や「免疫細胞の増加」といった異変が見られるとの研究結果が報告されました。

Corneal confocal microscopy identifies corneal nerve fibre loss and increased dendritic cells in patients with long COVID | British Journal of Ophthalmology
https://bjo.bmj.com/content/early/2021/07/08/bjophthalmol-2021-319450

Nerve damage in cornea could be sign of ‘long COVID,’ study hints | Live Science
https://www.livescience.com/nerve-damage-cornea-long-covid.html

Something in Patients’ Eyes Could Reveal The Presence of ‘Long COVID’, Doctors Say
https://www.sciencealert.com/something-in-your-eyes-may-reveal-if-you-ve-got-long-covid-scientists-say

ロングCOVIDの事例は数多く報告されており、退院後に日常生活に支障を来すケースも多いとのこと。2021年3月に発表された研究では、思考能力の低下・頭痛・体のしびれ・味覚障害・嗅覚障害・筋肉痛・めまい・視界のぼやけ・耳鳴りといった神経学的な症状が、ロングCOVIDの患者に現れていることが示されました。

新型コロナウイルス感染症に長期間苦んだ患者の85%が経験している症状とは? – GIGAZINE


カタールの医療系単科大学・Weill Cornell Medicine-QatarのRayaz Malik博士は、ロングCOVIDの症状が「神経細胞の細胞体から伸びる神経線維の損傷」によって引き起こされている可能性があると考えました。

Malik博士らの研究チームは、多発性硬化症などの神経変性疾患や糖尿病の患者において見られる神経線維の損傷や喪失を研究しており、ロングCOVIDの患者が報告する症状は神経線維を損傷した患者と似ているとのこと。神経線維は痛みや体温などの感覚情報を伝えたり、筋肉を動かしたりする上で重要なため、神経線維の損傷はさまざまな症状を引き起こします。

ロングCOVIDの患者に見られる症状と神経線維の損傷との関係を調べるため、研究チームは角膜共焦点顕微鏡(CCM)と呼ばれる非侵襲的な手法による調査を行いました。研究チームは、調査の1カ月~6カ月前にCOVID-19から回復した40人の被験者とCOVID-19の病歴がない30人の健康な被験者を集め、CCMで角膜の神経細胞のスナップショットを撮影しました。また、COVID-19の元患者はロングCOVIDの症状に関する質問にも回答し、40人中22人が頭痛・めまい・体のしびれといった長引く症状があったと報告し、13人が感染から12週間が経過しても症状が続いたと回答したとのこと。


研究チームは角膜のスナップショットから角膜内にある神経線維の総数を調べ、繊維の長さや分岐の程度についても評価しました。角膜で神経線維の損傷が見られた場合、体の他の部位でも同様の損傷が見られることが多いそうで、Malik博士は「角膜は体の他の場所における神経損傷の、非常に優れたバロメーターのようなものです」と述べています。

神経線維の損傷について評価した結果、COVID-19の後にロングCOVIDの症状が続いた患者は、ロングCOVIDの症状が見られなかった患者と比較して、角膜における神経線維の損傷が有意に多いことが判明。また、神経線維の損傷の度合いはロングCOVIDの重症度と関連しており、損傷がひどいほどロングCOVIDの症状も深刻だったそうです。

また、COVID-19の元患者と健康な被験者の角膜を比較したところ、COVID-19から回復した被験者では角膜に存在する樹状細胞という免疫細胞の数が多いことがわかりました。健康な被験者と比較して、ロングCOVIDを経験していない元COVID-19患者は2倍、ロングCOVIDを経験した被験者は5倍も樹状細胞の数が多かったとのこと。

樹状細胞はウイルスや細菌などの抗原を取り込んで、実際に侵入した抗原と戦う免疫細胞を活性化させる役割を持っています。そのため、ロングCOVIDを経験した被験者の角膜で多量の樹状細胞が確認されたことは、新型コロナウイルスの感染後も免疫プロセスが進行した結果、免疫応答の暴走によって神経線維が損傷した可能性があると示唆しています。


今回の研究はあくまでも観察研究であり、実際に免疫応答が神経線維の損傷を引き起こしたかどうかは不明です。しかし、
2020年に医学誌のPAINに発表された予備的なレポートでも、ロングCOVIDが神経線維の損傷を伴うことが示唆されています。このレポートは、COVID-19による神経へのダメージはウイルスの感染ではなく、免疫応答で生じる炎症が原因だとする既存の証拠があると指摘しています。

PAINに掲載されたレポートの著者であるハーバード大学のAnne Louise Oaklander博士は、「(新型コロナウイルスの)感染は、敵と戦う免疫細胞の活動を加速させ、巻き添えの被害が発生するでしょう」とコメントし、神経線維の損傷は免疫細胞によって引き起こされている可能性があると主張。Malik博士らの研究結果は、ロングCOVIDにおける神経線維の損傷に関する新たな証拠を提供し、原因や治療法の理解に役立つとのこと。

なお、今回の研究で使用されたCCMは主に研究目的で使用されており、一般的な病院でロングCOVIDの診断に使われる可能性は低いそうです。そのため、臨床的には足の皮膚サンプルを採取し、問診の結果と照合する方法がスタンダードになる可能性があります。


今回の研究は被験者のサンプル数が少ないため、Malik博士はより大規模な調査が必要であることを認めており、今後はより大規模なグループで同様の調査を行うことを計画しています。また、今回の被験者をフォローアップして、角膜における神経細胞の状態がどのように変化するのかも確認する予定だとのことです。

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