[再]仙台には珍しいポストとすごい崖がある ~新幹線の駅にひとり置き去り~

デイリーポータルZ

仙台といえば、東北最大の都市であり、想い出は帰らず、楽天は優勝する。そんなイメージだ(つまりあやふやということです)。

下調べもせず、突然日帰りで仙台に行った人は何をすることになるのか。1日の記録です。

※この記事は年末年始とくべつ企画「新幹線の駅でひとりだけ置き去りにされたい」の記事です。

東京駅から新幹線で出発し、くじ引きのようにしてひとりずつ降りていくという企画に参加した。

いまここで参加しなかったらもう二度とこんなことをやるチャンスはないだろう。人生は短い。トンチキなことは、それができるうちにやっておきたい。

発案者であるライター安藤さんが手にもつ切符を一人ずつひいていく。くりこま高原、いわて沼宮内、といったなじみのない駅名を聞いて不安になるなか、ぼくがひいたのは…。

仙台だ!
やった!

口々に「あたりだね!」と言われる。ぼくもそう思う。見るものに困ることはないだろう。というか、むしろ多すぎる。

新幹線の車内。駅弁を食べたりして楽しげにしていたが、次第にちくりと不安になってきた。

仙台のようなあまりにも有名な街に突然行って、新たに書くに足る何かを発見できるのだろうか。それとも、よく知られた場所を自分なりに楽しんだほうがいいだろうか。

東京から1時間半。適度に旅情を感じる距離で、ひとり下車した。さあ、どうする。

10時 地図を見て記憶がよみがえる

車内では検索が禁じられていた。降りて最初にしたのは、地図をみることだった。仙台ってどんなところだっけ。

仙台駅があって、西に中心市街地と青葉山があるんだったな。海の方には塩釜市があるのか。

ん、塩釜…?

ぶわっと記憶がよみがえった。そうだ、塩釜に行きたいところがあったんだ。細かい話になって恐縮だが、ちょっとだけ説明させてほしい。

塩釜市には郵便差出箱6号がある

突然ですが、郵便ポストは正式名称を郵便差出箱といい、そのデザインには基本的に1号から14号までの14種類があるのをご存知ですか。

ご存知でなければぜひ知ってください

よく見るのは13号で、東京だと6割以上がこれになっている。そしてもっとも少ないのが5号と6号で、関東地方にはもとより一本もなく、全国にも数本しかない超レアポストとなっているのだ。ぼくは見たことがないので上の写真でも空欄になっている。

その貴重な6号が、本塩釜駅の近くにあるのだ。それを地図をみて思い出した。仙台市内ではないが、電車で移動するのは自由だと伝えられていた。行って見てみたい。

さっそくJR仙石線で本塩釜駅に到着。

塩釜駅前はこんな風景。6号ポストは近くにあるはず。のんびりと歩いていく。

マンションの広告看板を見かけた。「正統を継ぐ品格」みたいに謳いあげられてもおかしくない場所に「11年ぶりの新築分譲マンション」とあった。切実。

歴史のありそうな町屋造りのこちらの建物は現在はカフェになっているそうだが…

「クリスマスがどうにも似合わないので」という理由で閉まっていた。おもしろすぎる。

12時 ついに目的のポストを発見

そのカフェの奥で、ついに目的のポスト(郵便差出箱6号)を見つけた。

おおお
かわいい!

ついに出会えた郵便差出箱6号。足がないのが最大の特徴だ。ずんぐりしていてかわいい。全国の郵便ポストを集めた「ポストマップ」というサイトにもたった5件しか登録されていない。そのうちの1つだ。

郵便物を回収する扉が左側にあるように見えるが、実は右側にも扉がある。

ぐうぜん配達員さんが来て右側の扉を開けていたので、手紙は右側から回収するようだ。じゃあ左側の扉はなにかというと、おそらく「保管箱」の扉だろう。

6号が使われ始めたのは昭和34年。郵便物の増加に伴って、配達員が荷物を一度に持ちきれないようになった。そういうときに荷物を一時的に置いておくための箱が保管箱だ。そして6号は郵便箱と保管箱が一体となったタイプなのだ。

ご主人に話を伺う

このポストは「額縁・手芸のやまだ屋」というお店の前にある。お店の方はなにかご存知ないだろうか。

ご主人に話を伺った。

店主の伊勢誠一さん

お店の前のポストを見るために東京から来たんですと伝えると、さも当然といったふうに「ああ、たまにインターネットを見て来る人がいるよ。」とおっしゃった。

まじか! わざわざ見にくるのはぼくくらいだろうと思い上がっていたのが恥ずかしい。

ー いつ頃からこのポストはここにあるんですか。

30年くらい前からかな。もともとは丸いポストだったんだけどその後これになったの。

創業130周年のやまだ屋にとっては、30年前など最近の出来事だろう

最初はもうちょっと小さいやつになる予定だったんだけど、もっとちゃんとしたのがいいっていったらこれを持ってきたのさ。

そんな事情があったとは。足元まで荷物が入る大容量タイプの6号は、ご主人には頼もしく見えたことだろう。

感心していると「これをあげるよ」といってポストの歴史が書かれた資料をいただいた。

わざわざ印刷して準備しているということは、結構な人が見に来るのだろうか。

お店にはご主人の手による小物が並んでいた。お土産に一ついただいて、駅まで帰ることにした。

アイス屋さんになぜか賽銭箱?

甘いもの好きの勘として、このお店はおいしそう

途中でアイス屋さんに立ち寄った。「Fruits Laboratory」と言うお店。

なにこれ

店内をふと見るとスターウォーズの「ヨーダ」が升を持っていた。そしてなぜか大量の小銭が入っている。

ご主人に聞いたところ、厄除けでもらった升をなんとなく持たせておいたら誰かがお金を入れ始めたのだという。すごい。そんなことあるのか。

ブラッドオレンジ。うまい。

今では海外の人がインスタグラムに投稿したりしているそうだ。升に入りきらなくなったら寄付でもしようかなと言っていた。

13時 東北地方の港町だったことを思い出す

駅前に戻ると、港には歩道橋のようなやたら大きな構造物があった。話には聞いていたが、これが津波避難デッキか。

登ってみた。案内板によると高さは最大6.5メートル。2011年にはこのあたりは2メートルの高さまで浸水したそうだ。塩釜は東北の港町だったと思い出した。

14時 仙台へ戻って青葉山方面へ

ふたたび仙台に戻った時にはすでに14時になっていた。日没まで2時間半しかない。明るいうちにいろいろと歩いておこう。

でも、どこへ行こう。

個人的には、平坦な場所より高低差のある土地のほうが好きだ。仙台は西のほうに坂があるはずなので、そっちに行ってみよう。

仙台から地下鉄東西線で西へ二駅。国際センター駅にやってきた。

国際センターはとてもきれいな駅だった。降りてみると、背の高い並木道が続いている。

調べてみると奥は東北大学で、なんというか国立大学ってこうだよなーというイメージのとおりだ。敷地が広くて、周縁はまるで林のようになっている。

しばらく歩くと急に景色がひらけた。

おおお。これが広瀬川か。

やっぱりいい景色だ。ここだけを見れば、東京でも多摩川が似た景色かなーと思えるけど、

この崖。東京だと川のすぐそばがこんな崖っていう場所はなかなかない。うらやましい。

強いて言えば神田川の御茶ノ水渓谷が近いけど、あれは奇しくも仙台藩の人たちが手で掘ったものだからなあ。もしかして掘りながら広瀬川の崖を思い出してたんだろうか。

15時 すごい峡谷(へくり沢)に出会う

広瀬川を渡ってすぐのところに、やばい眺めがあった。

なにこれ。明らかに川跡。そしてすごい谷。東京では同じような場所はちょっと思いつかない。がんばって荒木町くらいだろうか。

道の反対側にはこの地形に関する案内板が立てられていた。へくり沢というそうだ。広瀬川に合流する川だったけど今では下水道になっているとのこと。

ていうか待てよ、ここたぶんブラタモリの仙台編で見たことあるな。東京スリバチ学会の皆川会長が案内してた気がする。そうか、ここだったのか。

案内板にしたがってへくり沢を上流に遡ってみる。最初はいい感じの崖っぷりだけど、

こちらの、クリスチーネ剛田を彷彿させるマンションの向こうで峡谷は急に終わっていた。案内板によると戦災復興期に瓦礫で埋められてしまったのだそうだ。

なるほど。銀座にあった三十間堀という川も同様だと聞いたことがある。

16時 さらに暗渠(あんきょ)が出現

すっかり埋まってしまったへくり沢を辿っていくと、途中で怪しげな道が現れた。これはあなた暗渠でしょ。この下、水路だったでしょと言わんばかりの道だ。

近くをみると果たして「四ツ谷用水」と書かれた案内板があった。仙台の城下町に広瀬川から引いた用水だそうだ。やはりそうだったか。

右側が四ツ谷用水、左に下るのがへくり沢。つまりここは、水路の立体交差点だったのだという。しかしここもタモリさん歩いてたような気がするな。

辿っていくと、目に見える用水跡は奥のマンションで途切れていた。その向こうは東北大学のさっきとは別のキャンパスになっていた。残念。

17時 帰路へ

暗くなってしまったのでもう仙台駅へ戻ろう。暗渠じゃなくてふつうの道を通ってふつうに帰ろう。

そしてぼくは東京に戻った。塩釜と仙台の滞在時間、合わせて10時間。とにかく歩き回って疲れたが、楽しかったとしかいいようがない。

仙台には置き去りにされても問題ない

今回の企画は「新幹線の駅にひとり置き去り」である。ふだん降りないような駅にひとり取り残されたらどうやって過ごそう。そんな趣旨だと思う。

それでいうと、仙台は心配ない。むしろ置き去りにされたいし、できれば宿泊したい。そんな街だった。

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