缶詰だけのバーベキュー「缶ベキュー」。コンビニ食材だけで作る野外鍋「お鍋キュー」。コンビニで豆腐を買い、サラダ用のドレッシングをかければどこでも小粋な味の冷奴が食べられる「野良豆腐」等々ーー。
この「酒の知恵」の数々は、すべてイッチーさんという人物が考えだしたものだ。
イッチーさんはバンド「チミドロ」(酒の穴のひとり、スズキナオさんも所属するバンド)のメンバー。以前からずっと詳しく話を聞いてみたいと思いつつ、たまにイベントなどで顔を合わせるだけだった。普通の友達でありながら、実はすごい「酒偉人」でもある彼に、ステイホームなこの機会にあらためて、じっくりとお話を聞かせてもらおうと思います。(冒頭文:パリッコ)
出身地、親戚のこと
スズキナオ(以下、ナ) イッチーは何年生まれだっけ? 出身地は千葉だっけか 。
イッチー(以下、イ) 1978年4月19日ですね。生まれは実は僕、横浜なんですよ。だけど1歳のころに千葉に引っ越してきてるんで、ほぼほぼ千葉です。うちは両親とも上京組で、父が九州、母が群馬から出てきて、父の会社が東京に本社、横浜に支社があったのかな? その支社で働いてたので、横浜に住んでたと聞いてます。その後、子供もふたりできて、もう少し広い家に住みたいと探して、千葉に引っ越したらしい。
パリッコ(以下、パ) そのふたりめがイッチーさん?
イ ですね。上に兄貴がいるんですけど、ぜんぜん仲良くないっていうか、別に仲が悪いわけじゃないけど、あんまり趣味が合わない感じで。
パ へー! なんか、サーフボードとかお下がりでもらってるイメージなのに。
イ ぜんぜん。兄はお酒も、缶ビール1、2本も飲んだら「じゃあ僕は先に寝るよ」っていう。
ナ 正反対のタイプだ。イッチーはどんな子供時代を過ごしてたの?
イ 小学校3年まで、千葉の団地に住んでたんですよ。そこには同じような年代の子たちがたくさんいたんで、団地のなかにある公園でみんなでわーっと遊んでみたいな。でもやっぱり、兄とはあんまり遊んでなかったな。
パ お兄さんはすごく勉強ができたとか?
イ あ、僕に比べればものすごく優秀ですね。大学院も出てるし。今は車関係の仕事をしていて、海外赴任も多いし。僕はボンクラなんで。
パ はは。イッチーさんは今はどんな仕事してるんでしたっけ?
イ デザイン関係です。
ナ イッチーといえば大酒飲みというイメージがあるけど、それはどこから来てるんだろう。お父さんはお酒好きなの?
イ もう本当に、お酒まみれの人。九州の炭鉱町出身で、根っからの酒飲みですよ。うちの母とは職場で出会ったらしいんですけど、母が言うには、「あの人いっつも目が赤かった」って。
パ ははは。常に酒入ってた。
イ でも、群馬出身の母も酒好きだし、どっちの親戚一同もみんな好きで。九州のばあちゃんなんか、今101歳なんだけど、最近まで毎朝「デルカップ」を1杯飲んでたらしくて。クイッとやってから畑仕事に行くっていう。
パ かっこいいな。
ナ それが長寿の秘訣なのかもね。
イ そうそう。デルカップと、鶏の手羽が好きなんですよ。脂たっぷりの。
パ それ聞いちゃったら真似するしかない。
イ 母方の群馬のほうの家もみんな絵に描いたような酒飲みだったらしくて。冬になるとこたつから出たくないんですよ。酒を作るのもめんどくさいくらい。だから、ひとり1本でかいペットボトルの「大五郎」を自分の横に置いて、石油ストーブの上に置いてあるやかんのお湯で割って飲むっていう。
ナ ははは。じゃあお母さんも飲むんだ。
イ 飲めば飲める。だけど昔は、家事もやらなきゃいけないし、際限なく飲むというタイプじゃなかった。ただ、今は子育ても落ち着いて親父とふたりなんで、こないだ実家に帰ったら、ストロングチューハイの500mlの缶が冷蔵庫にむっちゃ並んでて、「なんでこんなに買ってんの?」って聞いたら、「普通のだと酔わないのよねぇ」って。
パ わはは! 勝てないな〜。
イ 「ビールなんかいっぱい飲むとおしっこになっちゃうから、ストロングがちょうどいいのよ」って。
パ 群馬スタイルだ!
ナ お酒に対してオープンな両親だったんだな。
生鮭を抱いて
ナ イッチー自身の昔のお酒の思い出っていうと?
イ 専門学校時代は、千葉から高円寺の専門学校に通ってたんです。そこでは手描きのアニメーションとかを専攻して、一応一生懸命やってたんだけど、就職氷河期だったし、そもそも就職なんてできるわけないよなって感じで、ろくに就職活動もしてなかった。そんなとき友達から「築地でセールスプロモーションの仕事があるから、よかったら紹介するよ」って言われて、卒業と同時にバイトで入ったんです。それが今の就職先なんですけど。
パ へー。長く勤めてるんですね。
イ 本当に築地市場の目の前にある会社なんですけど、当時は徹夜なんかも珍しくないような時代で。朝まで仕事して、4時くらいに外に出ると、屋台が出てるんですよ。当時の築地らへんは、リヤカースタイルの屋台が、夜中の2時3時くらいからぞろぞろ出はじめたの。仕事終わりの漁師さんが朝イチで一杯やれるような屋台ね。そこでよく飲んでましたね。6時くらいまで飲んで、帰って寝て、また午後イチから仕事、みたいな。
パ へー! すごい世界だ。
イ あるとき、隣で飲んでた漁師さんが、「おう、これやるよ!」って生の鮭を丸々1本くれたのね。それで、朝の6時に裸の生鮭を手に持って横須賀線に乗りこんだんです。でもこっちは酔っぱらってるから、はっと気づいたら、生鮭を抱いたまま寝てて、思いっきり乗り過ごしてて、ヤベー! とかいって折り返しの通勤電車にのって。そのころには鮭もあったまっちゃって、口からむっちゃ血がたれてるみたいな。
ナ 相当大変な状況。
パ 今だったら確実にSNSに写真アップされるやつだ。
イ 当時は実家暮らしだったんで、母に「これもらったから、さばいといてよ。おれもう仕事行くから」って渡して。鮭の血だらけの服で。それが最初の酒のトラウマって感じですね。こういうのはダメだなっていう。
パ 寝過ごしエピソードにのっかってる要素がすごすぎるから……ふふ、共感もできないし。
ナ ただただ聞いたことのない話。
イ とにかく酒の飲みかたがわかってなくて、飲めば常にベロベロに酔っぱらってたっていう時代ですね。
いろいろ気づいた「新島」でのキャンプ体験
イ それから大きかったのが、初めて島でキャンプをした経験。
ナ 島でのキャンプというのは?
イ 25、6の時かな。知り合いにサーファーの人がいて、伊豆諸島の「新島」って島に行く機会があったんです。僕は昔からバンドをやっていて、その人もバンドマンの先輩で、同じライブイベントに出た日だったかな、打ち上げでなんか意気投合して「今からオレんち来いよ!」って言われて、行って、朝までライブビデオ見たりしてたんです。
パ 青春だ。
イ で、朝、「オレ、明日からサーフィンしに新島に行くから、お前も一緒に来いよ!」って言われて、「じゃあ、行きます!」って。
ナ はは。突然の展開。
イ ちょうど夏休みだったんだよね。「とにかく明日、埠頭に来てくれ。そしたらあとはオレがエスコートするから」と。で、僕はサーフィンなんてやったことないし、島に行くとかも初めてだったから、とりあえずトートバッグに「黒霧島」を1本入れて向かったんです。
パ さすが。酒は最優先事項ですもんね。
イ ね! で、その人は慣れたもんで、バックパックにテント、それから僕のぶんと合わせて2枚のサーフボード持ってきてくれてて、「あれ? お前すげぇ身軽だな」って。
パ ははは。気合いの差が。
イ 「いやでも、酒持ってきましたよ!」ってカバン見せたら「お前マジかよ……まぁいいやいいや」って。それでのったのが「さるびあ丸」というフェリーだったんですけど、これが想像してた世界とぜんぜん違った。船内にはいろんな国の人がいて、当時は特にブラジル人が多くて、もうみんなわいわい騒いでる。
ナ 華やかな世界なんだ。
イ そう。で、お酒の飲みかたもちょっと違ったの。僕がそれまでやってた、ただベロベロになるっていうんじゃなくて、会話と一緒にお酒をたしなむという感じ。外国人と日本人が入り混じって、「君はどこまで行くんだい?」みたいに、主に英語でコミュニケーションしてる。こういう世界があったんだ! って衝撃を受けましたね。
イ で、最初はみんなビールとかワインを飲んでるんだけど、船にのってる時間が8時間とか10時間とかになるんで、朝4時くらいにみんな、手持ちの酒がなくなってくるんですよ。そこで僕の黒霧島が「ちょっとそれ飲ませてくれ!」みたいに人気を集めはじめて。またみんなでわいわい飲んで。
ナ 楽しそうだなー。
イ そんなこんなでたどり着いた真夏の新島なんですけど、とにかく暑っついのよ。着くなり、こっちの自販機でビール飲んで、あっちの自販機でビール飲んで、つめてぇ〜! みたいな。
パ 先輩がテントを持ってたということは、宿に泊まるわけではないんですよね?
イ そう。無料で使える「フリーキャンプサイト」で、テント泊です。そこで1週間過ごしたんですよ。
ナ 1週間も野営するわけだ。
イ そうそう。で、先輩には「じゃあオレはサーフィン行ってくるから、お前てきとうにやってろ!」って、ほっとかれて。
パ サーフィン教えてくれるわけじゃないんすね。
イ はは。そうなんです。「まぁ、板だけは渡しとくから」みたいな。だからすることといったら、そこから歩いてビール買える自販機をチェックして回るくらいしかなくて。でもやっぱり、どこも歩いて40分くらいかかるんです。そこで買って、冷たいビールうまいな〜って飲みながら帰ってきて、なくなったらまた40分歩いて買いに行くっていう。
パ 新島の無駄づかい!
イ そうそう。そんな感じで過ごしてたら、いつのまにか帰りの船賃もなくなってて。あと、免許証も海に流されてて。
ナ はははは。いつの間に流されたのよ。
イ とにかくなにもかもなくなってて。でも新島警察署で事情を説明したらお金を貸してもらえて、帰れたんです。もちろん帰ってからすぐに返したんだけど。その時、念の為少し余裕を持ってお金借りといたから、船が東京に着いてから家に帰るまでの間に、冷たい缶ビールが1缶買えて、それがめっちゃくちゃうまくて!
ナ ひどいな!
イ 制約のなかでなんとか買えた酒って、こんなにうまいんだなって。
パ そこでメシを食わないのもすごい。
イ はは。その経験から、人生って相当なことがあってもなんとかなるんだなって気づいて。キャンプもゼロベースというか、自分で持っていける荷物の量、酒の量って限られてくるんですよね。そのなかでなんとかやりくりしていくのが楽しいというか。
移動時間が酒の知恵を生んだ
イ あとね、僕が東京出身のナオくんやパリッコさんと決定的に違うところは、僕はずっと千葉なんで、通勤通学にしても、東京に遊びに行くにしても、どうしても長距離移動になるんですよ。片道1時間半とか平気でかかる暮らしをずっとしてきてて。
ナ うんうん。
イ その時間が、惜しいんですよね。もうやることなさすぎるし、仕事帰りなら「酒飲みてえ」って思う。で、飲むとすると缶1本じゃ足りないでしょ。それで「なんとか冷たさをキープしたまま2本飲む方法はないか?」みたいな、酒に関する知恵というのかな。そういうものが必要だと気づきはじめたんです。
パ はは。酒知恵。そのあたり詳しく聞きたいです。
イ 初めは最後部の、人があまりいない車両で飲んだりしたこともあったけど、やっぱり他の人のじゃまになってないかなってうしろめたさがあって。ただ、お酒を飲んでいる人はちらほらいたんですよ。遅い時間の千葉方面の電車って。
パ 帰りの電車ですよね。そうだろうなぁ。
イ 柿の種のにおいがしてきたり。においってすごく気をつけないといけないんですよね。僕も昔は電車で缶ビールを飲んでみたりしたけど、もうちょっと誰のじゃまにもならないようにスマートに飲めないかなと。それで模索して、保冷の水筒を試してみたり、100円ショップとか行ったりして。子ども用の、ペットボトルにつけるストローあるじゃないですか、ああいうのも試してみたけど、むちゃくちゃストローから酒が噴き出てくるんですよね。炭酸がプシューって。
ナ ははは。そんなことが起きるんだ。
イ うまくいかなくて、そういうトライ&エラーをくり返してきました。
ナ トライ&エラーっていうと立派だけど、やってることは本当にしょうもないっていう。
パ 人から見たらその成功も全部エラーですからね。電車でなにやってんだっていう。
イ ですよ。なんか、お腹もすくからなんかアテも食べたいけど、食べ物って基本においがあるじゃないですか。結論、ジップロックにナッツを入れておいて、食べるときだけ開けてすぐ閉めるっていうのがいいなって気づいたり。
ナ ははは。生活感のある知恵だな。
イ 特にいいなと思ったのが、ペットボトル用の真空保冷ボトル。
パ どう使うんですか?
イ 朝、家の最寄りの西友で炭酸水を買うんですよ。それは仕事中に飲んで、帰りにそのペットボトルに、チューハイとかハイボールを買って入れて帰る。冷たいままで持ち帰れるし、フタをあけてひと口飲んですぐ密閉できる。飲んでるときも、いかにも酒飲んでますという印象にならないし。
パ スマートだ。
ナ ちょっと飲みたいときに少しだけ飲めるのが重要なんだよね。この前、イッチーが教えてくれたワンカップのフタの知恵。あのフタが発泡酒の缶にぴったりハマるから便利だっていうのをTwitterに書いたら、「まず、酒にフタをしなきゃいけないような状況が私にはあり得ません」みたいな真面目な意見があったんだ。外で飲むなんてっていう。
イ ははは。そうかもしれないな。
ナ ただ、電車はあれだけど、たとえば公園を散歩しながら、それこそチェアリングのときとか、お酒を持ち歩くことあるんだよね。
パ まぁ我々は頻繁にありますよね。
イ そういうとき、特に炭酸系だと開けちゃうと飲まなきゃいけないっていう気持ちがすごくあるじゃないですか。フタさえあれば無理に飲まなくてもいいっていう。
ナ イッチーの知恵といえば思い出す「缶ベキュー」は、やっぱりひとりキャンプの流れから生まれたんだよね?
イ そうそうそう。缶を火にかければ、あとは何もいらないからね。とにかく荷物がいろいろあると大変だから。
パ 食材と調味料兼ねてますもんね。
イ それでも強いて、いちばん便利な調味料ってなんだろうとかも考えていろいろ試したんだけど、これさえ持っていけば大丈夫っていうのが、自分のなかでは味噌なの。味噌さえあればなんでもうまい。なんでも深みのある味になるっていう。
パ あー、たしかに醤油は重いし、塩だと味気ないしっていう。
イ 味噌って保存食だから常温でもある程度の保存がきくしね。そういう考え方がけっこうポイントなんですよ。僕にサーフィンを教えてくれた先輩はよく、キャンプに米を持ってきたんですよ。米って水分含ませなきゃ軽いじゃんって。僕的には炊きかたが難しいそうとか思ってたんだけど、その人はすごい適当に「30分ぐらい炊けば大丈夫だよ」とかいって、やってみると、ちゃんと炊きあがってるの。
パ それがうまいんだ。
イ うまいっていうか、腹ペコになってるから何食ったってうまいんだけど。
パ はは。でも確かに米、携帯にはいいかもしれないですね。
イ そう。で、先輩は「米があれば酒と交換できるから」って、近くでキャンプしてる人たちに「俺、米を持ってるんですけど、お酒が飲みたいんです」って交渉し、て本当にお酒をもらってきたりして。なんか、そういうことなんだなって。
ナ ははは。物々交換。
パ でもそれ、最大の知恵かもしれないですね。「米を持っておけば酒と替えられる」っていう。酒を持っていかずとも。
イ 酒は米より重いですからね。
ナ 酒が飲みたいから米を持っていくって、なんか昔話みたいな発想だよね。しかしこの知恵、使い道がすごい狭いな。
パ ははは。登山家がリュックの中身を数グラム単位で軽くするみたいな話がありますけど、それをすごい程度の低いレベルでやってるっていう。
バイブスの中心は「ちくわ」
イ やっぱりキャンプがベースにあるんで、できるだけシンプルにっていう。ナオくんはすごい驚いてたけど、コンビニで豆腐を買って道で食べるっていうのとか。
ナ そうそう、「野良豆腐」ね。イッチーがコンビニで豆腐を買って、サラダ用の別売りドレッシングをかけて公園で食べていて。それが美味しいの。外豆腐とか野良豆腐とか言って。
イ コンビニ行けば豆腐は売ってるし、タレも売ってるしみたいな。
パ はは。ドレッシングをタレ呼ばわり。
ナ あれで豆腐に味がつけられるんだなって驚いたの。サラダに使うものとしか考えてなかったから。イッチーはそういう発想の転換が得意なんだよな。
パ 我々の視野が狭いんでしょうね。
ナ よく考えたら豆腐ほど外でパッと食べられるものってないんですよね。スプーンをもらってドレッシングかければすぐに食べられる。ゴミもあまり出ないし。
パ いわばプリンと一緒だ。そこになかなか気づけないですよね。
ナ イッチーはそこらへんが柔軟というか、コンビニも利用するし、ストイックに本格キャンプにこだわるわけでもないし、とにかく手もとにあるものでなんとかするっていう。
パ そう聞くと、イッチーさんって知恵をたくさん蓄えてるっていうんじゃなくて、その場その場で「あ、これあるならこうすればいいじゃん」っていう、応用力が強いんですね。
イ ありがとうございます。僕ね、全部のバイブスの中心は「ちくわ」なんですよ。
ナ ははは。わからない。バイブスの中心?ちくわ?
イ だって、ちくわなんて、日本のビーフジャーキーじゃないですか
パ ……。
ナ ……うん。
パ もう少し聞いてから判断します。
イ 買ってそのまま食えるし、焦げめあるし、なかに何か突っこんでもうまいし。なにしたってうまいじゃないですか。たとえばカマボコって、家に持って帰ってからじゃないと食えないじゃないですか。
パ たしかに。
イ ちくわって、開けたらもう、歩きながら食べられるでしょ。
パ そう考えるとちくわって、穴開いてるのヤバいですね。で、その穴が食感の良さにもなってるし。
ナ ……酒自体の好みの変遷みたいなのはないの? 若いころと比べて。
イ むっちゃありますよ。人間、歳を追うごとに料理に対してだんだん通じてくるじゃないですか? 「これとこれを合わせるとうまいんだ」とか、どんどん知識が増えてくる。僕はそういう知識が割と30代後半に一気に消えていったんですよ
パ ははは。消えていったんだ。
イ 別にそういうのいらないなって、ちくわがあればいいし。チューハイやブラックニッカがあればいいってなって。でもそれには理由があって、ブラックニッカがいちばん安いから選ぶっていうんじゃないの。ニッカのウイスキーをいろいろ飲んでいくと、フレーバーとしての良さがわかってくるじゃないですか。そのフレーバーが、いちばん手ごろな値段のブラックニッカにもあることがわかってくるんですよ。
ナ ああ、なるほど。いろいろと美味しいものを知って、それであらためてまた安いものの良さもわかるんだ。
パ 昔、ウニがそんなに好きじゃなかったんですけど、一回すごく美味しいウニを北海道で食べて、そしたらちょっと鮮度の落ちたウニも食えるようになったんですけど、それみたいな? 日常的に飲む酒をブラックニッカにして、たまにいいお酒を飲んでもいいしっていう。
イ そうなんですよね。月から金までは安い酒で、土日はちょっとハレの酒とかでもいいと思うんですよね。
ナ イッチーは一時期、干し肉とかも作ってたよね。
イ 肉は絶対に干した方が美味しいですよ! 本当に。僕は鶏肉のささみから始めたんですけど、やっぱり、豚の脂身が、干していちばん美味しいんですよ。
パ まじっすか。僕、脂身の多い豚肉ががいちばん好きなんですよ。あの薄切りのやつを干せばいいんですか?
イ そう。バラ肉を干せばいい。好きなように味つけしてね。塩コショウでも、ニンニクと生姜でもいいですし、僕は面倒くさくなったんで最終的にエバラの焼肉のたれでやってましたけど。
パ それでいいんだ。
イ 全然いいんですよ。まず腐らなくするために塩分が必要なんで、塩気をつけてパッと干すんですよ。夏場はダメです。夏は湿度があるんで、腐っちゃう。冬は干すと熟成されるんですけど。
パ 今から冬が楽しみだなー。
ナ 干し網みたいなのを使ってやるの?
イ いや、ベランダに適当にぺんぺんぺーんって。
パ ははは。投げつけてるような
イ 100円ショップの網あるじゃないですか。その上にぺぺぺーんって。
ナ 本当にそれで大丈夫なの? 何日間ぐらい干す?
イ だいたい3日だな。2日でひっぺ返して、3日だな。2日でひっぺ返すときに1枚だけペロッと食べるんですよ。それがいちばん美味しいんですけど。
パ 火を通さないで食べるんですか?
イ 食います食います。めちゃくちゃうまいですよ。(編集部より:専門家の判断がないと食中毒の危険性があります!ご了承ください)初めはひとりキャンプしてた時、貝が獲れる時期にあたって、それを干して食べてたんですよ。少しお腹は痛くなったんですけど、これいけるなって。それで先輩に聞いたら、「干したらなんでもうまくなるよ。豚がいちばんうまい」って言われて。「いや、豚はお腹壊すでしょ」って言ったんんだけど、「お前、何言ってんだ。チェ・ゲバラは豚の脂を毎日食ってたんだぞ」って。それでやってみたらめちゃくちゃうまくて。
パ もうこの夏にやりたいけどなー。
イ いや、夏はダメですよ。チェ・ゲバラもやってないですよ。
ナ ははは。チェ・ゲバラが正解になってるんだ。
ナ お酒との関わり方で、今後の展望ってある?
イ ありますよ。今は子どもがちっちゃいんで、育児をちゃんとこなしながらどう酒と接していくのかっていうのでいろいろ考えてて。
ナ ああ、そうだよね。ちゃんと子どもの世話をして、安全に育てないといけないけど、お酒を飲んでパッとストレスを発散したい時もある。
パ 公園に行って、お子さんを遊ばせながら一杯やってるお父さんとかも普通にいますしね。
ナ 自分が前にびっくりしたのが、近所のあまり行ったことない中華料理の店に休みの日にふらっと行ったら、子ども連れのお母さんたちが集まって昼からお酒を飲んでて、この店はそういうふうに使われてたんだ! って。
パ みんなそれぞれに発散してる。
イ で、結局ね。僕の場合、家族に嫌われたくないんですよね。
パ はは。それと「飲みたい」の間で常に揺れて。
イ 派手に飲みたいわけじゃなくて、ちょっとだけね、生活のなかに。
パ わかる。
ナ わかる。
というわけで、もちろん前から知っていて、お酒を一緒に飲んだこともたくさんあるイッチーさん。そんなひとりの友人にも、じっくりと話を聞けば、知らないこと、興味深いことだらけのストーリーがあった。
なかなかみんなでパーっと飲みに行けない昨今。オンラインを通じて、じっくりと話を聞いてみるというのもおもしろいんじゃないでしょうか。
あまりにも楽しく、この日のインタビューは2時間を超え、全員酒が回ってグダグダに。最後のほうは、文字に起こしても意味不明な展開となっていました。
ナ え〜と……最近気に入ってる酒の知恵はある?
イ いや、僕が言うのもおこがましいんですけど、ちくわって……なんていうか……ぬるぬるしてるし。
パ ふふっ……。
イ そこに乾き物のうるめいわしがあれば、めっちゃ美味しいし、なんならまんなかに突っこんじゃえばいいじゃんって。そこに大葉でも巻いちゃえばいいじゃん。なきゃてきとうな葉っぱでも巻いちゃえばいいじゃんって。
ナ ははは。
イ お腹壊したっていいじゃんって。
パ よくねー。
ナ っていうかそれは知恵なのか?
イ まぁね〜……。