「 プライバシー に関する枠組みの大部分は欺瞞だ」:データプライバシーで攻勢に出るFTCの狙い

DIGIDAY

米連邦取引委員会(FTC)が「吠えるだけで噛まない」と軽んじられた時代は終わったようだ。FTCの委員であるレベッカ・スローター氏は、同委員会が「攻勢」に出ることを望んでいる。同氏の考えでは、デジタル広告業界やメディア企業が人々のデータプライバシーを尊重し、プライバシー関連法規制を遵守するために取り入れている「通知と選択」のアプローチは機能しない。

スローター氏は民主党が指名した、消費者保護と反トラストに関連して監視をおこなう政府機関であるFTCの委員のひとりだ。同氏には、FTCが現行の権限を活用する方法を劇的に変えるような改革を推進することを期待されている。

  1. 不公正と欺瞞に対処する
  2. ──連邦判事はつい先日、FTCが提起したFacebookに対する反トラスト法違反の訴訟を棄却したが、FTCは訴訟をやり直すことができる。主張の正当性を高めるにはどうすればいいだろうか?
  3. ──反トラスト法とデータプライバシーが相互に関連すると考えているのはなぜか?
  4. ──米国の法律は、現在の市場動向にデータが与える影響を認識できるような体制になっているのか?
  5. ──FTC委員長代理としてあなたが設立に携わった規制制定グループは、どのように状況を変えるのか?
  6. ──そうしたことがプロセスに組み込まれた場合、どんな実務上の意味を持つのか?
  7. ──(今回の変更は)FTCがここ20~30年にはなかった形で規制制定権を活用するのに役立ちそうだ。
  8. ──日々の業務のなかで、資金やリソースの増加は、あなた自身とあなたの委員としての役割にどんな意味を持つのか?
  9. ──ということは、Facebookと和解した2019年にFTCにもっとリソースがあれば、代わりに訴訟を起こしていたのだろうか?
  10. ──人々に提示されるデータ収集の通知や選択肢に、ダークパターンが出現しつつあります。これが重大な問題だと考える理由は何か?
  11. ──FTCは今後、ダークパターンに関連した規制制定をおこなうのか?
    1. 共有:
    2. 関連

不公正と欺瞞に対処する

新委員長リナ・カーン氏の下で7月1日に開かれた数少ない公開会議において、FTCは規制の制定と施行の方法に変更を加え、同委員会に規制制定の権限を認めた1975年の法令に沿ったプロセスに戻した。この改正により、たとえば非公式ヒアリングへの一般人の参加が容易になった。スローター氏は今年前半に短期間ながら委員長代理を務め、今回の改正の下準備をおこなった。

今回の手続きの変更は一見、奇妙で不可解なものに思えるが、スローター氏はこれがデータの不正使用や、「ダークパターン」と呼ばれるデータ収集における不公正で欺瞞的なアプローチといった問題に、FTCが対処するのに役立つと考えている。

米DIGIDAYはFTCの公開会議の前日、スローター氏にバーチャルでインタビューをおこない、ますます政治問題化しつつあるFTCにおいて、同氏とほかの委員たちが日々対処しているさまざまな話題について議論した。規制制定手続きの変更の意味や、Facebookに対する反トラスト法訴訟の行く末、ダークパターン、データプライバシーに関連する和解でFTCが選択したアプローチ(あまり知られていないが、FTCはケンブリッジ・アナリティカ[Cambridge Analytica]に対し、不正な方法で取得したデータを用いて構築したアルゴリズムを破棄するよう要求した)など、議題は多岐にわたった。

以下は6月30日におこなわれたインタビューの抜粋であり、わかりやすさを考慮して編集を加えている。

◆ ◆ ◆

──連邦判事はつい先日、FTCが提起したFacebookに対する反トラスト法違反の訴訟を棄却したが、FTCは訴訟をやり直すことができる。主張の正当性を高めるにはどうすればいいだろうか?

最初に言っておくと、私は提訴に賛成票を投じた。当然ながら我々の主張には十分な根拠があると考えており、最初の判決には失望した。ただ、これ以上の詳細なコメントは差し控えたい。というのも、我々はこの訴訟について今後の選択肢を検討している最中だからだ。私の考えを言えば、一般論として、消費者、労働者、市場にとって最善の結果が得られるように裁判で主張するのは、我々の政府機関としての仕事のひとつだ。そのうえで、もし裁判所が問題のある法解釈をするならば、それをきっかけに議会が法改正の必要性を認識することになるだろう。

──反トラスト法とデータプライバシーが相互に関連すると考えているのはなぜか?

重要なのは、現在のデータドリブンなマーケットにおいて反トラスト法関連の調査をおこなう場合、市場支配力の発生と行使にデータがどんな役割を果たしているかを理解する必要がある、ということだ。データプライバシー問題には、企業がデータを蓄積する段階でプライバシーを侵害し、それをもとに市場支配力を反競争的な形で行使するという側面があり、これは反トラスト法関連調査のなかできわめて重要な要素だ。

加えて、もはやプライバシーは「品質基準」であり、企業が競って高めるものとみなすことができる。健全に機能している市場では、企業はプライバシー保護を重視し、ほかのさまざまな品質基準と同じように競い合うはずだ。このように、ふたつの問題はさまざまな形で絡みあっている。だが、私が思うに、本質的にもっとも重要なのは次の点だ。データドリブンマーケットを理解するためには、データの収集・使用・共有が、企業の市場支配力の形成と行使にどのように寄与しているかを理解しなければならない。

──米国の法律は、現在の市場動向にデータが与える影響を認識できるような体制になっているのか?

それこそまさに、現議会とFTCが判断し、また一般市民にも判断の機会が与えられる問いだ。FTC対Facebookの裁判の次の段階だけでなく、司法省対Googleの裁判でも、この疑問が取り沙汰されるだろう。

──FTC委員長代理としてあなたが設立に携わった規制制定グループは、どのように状況を変えるのか?

(グループ設立に際しての)私の考えは、規制の開発や法的分析、およびそれらに伴う作業をまとめた集中的プロセスを構築し、こうした法的責任を建設的、生産的、効率的な方法で遂行する体制を整えよう、というものだった。

7月1日の公開会議の議題のひとつとして(委員長のリナ・カーン氏が)挙げた項目に、委員会の実務規則を、消費者保護分野の規制制定に関する法的要件に沿うものにするという提案がある。この変更により、委員会規則のせいで規制制定に関して不必要な手続き上のハードルが生じ煩雑になっているという、FTC自身が生み出した現状の問題のひとつを解決できる。もうひとつ、私が重視しており、新委員長にも重視してほしいと思っている議題は、これを契機にすべての新規制の制定および既存規制の見直しの際に、公平性への影響分析を追加するというものだ。

──そうしたことがプロセスに組み込まれた場合、どんな実務上の意味を持つのか?

少し専門的でややこしい話になるが、消費者保護規制に関して、FTCにはほかの政府機関が規制制定の際に利用しているものとは異なるプロセスが法令で定められている。

それに加え、規制緩和が盛んだった80年代に、FTCは消費者保護に関する規制制定をさらに難しくするような、多くの手続き上のハードルや義務を実務規則に追加した。たとえば、法令で定められている非公式ヒアリングではなく正式な司法聴聞会のような場を設けたり、法令で定められているわけでもないのに煩雑な手順を定めたりした。

──(今回の変更は)FTCがここ20~30年にはなかった形で規制制定権を活用するのに役立ちそうだ。

まさにそのように理解してもらえればと思う。きわめて専門的な法律上の話ではあるが、要するに、そもそも議会が法案を可決した時にFTCに命じたとおり、我々が委任された法的権限を適切に行使できるようになる効果が期待されるのだ。

──日々の業務のなかで、資金やリソースの増加は、あなた自身とあなたの委員としての役割にどんな意味を持つのか?

3年前にFTCに着任した時から、リソースが我々の職務遂行能力の最大の制約になっていると、職員たちから繰り返し聞かされてきた。市場が複雑化し、訴訟が高額になり、法律が我々に不利になり、さらには現在は大規模な合併ブームの真っ只中にあるため、この問題は当時よりさらに深刻化している。

リソースが増えれば、職員を増員し、技術的専門性を高め、ミッションエリア全体で戦略と業務の量を調整することができる。そして、費用や時間がかかりすぎる、あるいは負担が大きすぎるといった理由で、問題解決につながらない和解を選択するのではなく、まっとうな結果を出すのに必要とあらば、複雑な事案を訴訟に持ち込むことができる。

2019年のFacebookとの和解は典型例だ。あの和解において、Facebookに受け入れさせることができた内容で問題が解決するとは思えなかったし、結局同じ分野で同じ問題を抱えることになった。むしろ、正しい結果を求めて訴訟を起こすべきだった。そうしていれば、たとえ裁判所が不利な判決を下したとしても、それは法律の問題であって、FTCの取り組みやリソースの問題ではないからだ。

──ということは、Facebookと和解した2019年にFTCにもっとリソースがあれば、代わりに訴訟を起こしていたのだろうか?

私がこの例を挙げたのは、消費者、労働者、市場にとって正しい結果を得るためには、企業と合意できない場合もあると示すためだ。企業に対して裁判を起こさなくてはならないこともあり、それには莫大な費用がかかる。

──人々に提示されるデータ収集の通知や選択肢に、ダークパターンが出現しつつあります。これが重大な問題だと考える理由は何か?

現状を俯瞰してみると、連邦レベルでは具体的なプライバシー保護法が存在しないとわかる。我々がおこなっているデータやプライバシーに関する法執行はすべて、不公正で欺瞞的な行為や慣行に異を唱えるという、FTCに与えられた権限に基づいており、プライバシーに関する枠組みの大部分は欺瞞の問題に帰結する。つまり、我々のプライバシー関連案件のほとんどは、データを使って何をしているかについて、誰かが嘘をついているという話なのだ。

こうした案件は、データに関する「通知と選択」という現行の枠組みを反映している。データを使って何をするつもりなのかを人々に伝え、それに同意するかどうかの選択肢を提供し、嘘をつかない。この枠組みには、一般論として、膨大な改善の余地があると考えている。私には、今日のデータ駆動型経済のなかで通知と同意がまともに機能するとは思えないし、ダークパターンの出現はそのことを裏付けている。通知と選択という枠組みを受け入れるとしても、ダークパターンによって通知が見えにくくなり、選択が妨げられれば、枠組み全体が脅かされる。したがって、私の考えでは、ダークパターンは単に欺瞞的であるだけでなく、根本的に不公正なデータ取扱慣行だ。

──FTCは今後、ダークパターンに関連した規制制定をおこなうのか?

特定の規制について早計な判断はできないが、私としては、FTCが法で定められた権限をどうすれば最善のやり方で活用できるのか検討し、ケースバイケースではなく、市場全体で広範囲におこなわれる不公正で欺瞞的な慣行に対処することは、理にかなっていると考えている。

[原文:‘Don’t lie’: FTC Commissioner Rebecca Slaughter on why today’s data privacy approaches don’t work (Audio Q&A)

KATE KAYE(翻訳:的場知之/ガリレオ、編集:分島 翔平)