一般道にF16V戦闘機が出現した台湾の「漢光演習」余話

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ミリー米統合参謀本部議長(CJCS)は6月、共産中国による台湾侵攻について「(台湾に)反対政府勢力がいる場合でも、非常に複雑で困難な作戦で、それをやるのは非常に困難」とか「現段階では軍事的にそれを行う意図や動機はほとんどない。その理由はないし、彼らはそれを知っているから、近い将来その可能性はおそらく低い」などと別々の上院委員会で述べていた

公道を滑走路とした軍用機の離着陸訓練を視察を視察する蔡英文総統(総統府)

そのミリーがトランプ前大統領の「精神的衰弱」の懸念から、昨年10月末と本年1月初めの2度、共産中国のカウンターパートと電話でやり取りしていたと暴露する本が出版される。米中CJCSが電話し合ってはならないという法はない。が、「攻撃するつもりなら、前もって貴方に電話するつもりだ」と伝えたことなどが事実とすれば、看過できまい。

が、中国のCICSが「台湾侵攻するつもりなら、前もって貴方に電話するつもりだ」とミリーに伝えていたとすれば、6月のミリーの議会発言も宜なるかな。その意味で、暴露本「Peril」のミリーに関する記述の真偽は注目される。

そんな中、台湾では「漢光演習」と称する陸海空3軍による演習が13日から17日まで行われた。15日には迷彩服に身を包んだ蔡英文総統が、封鎖した一般道を滑走路に使って戦闘機の離発着訓練を行っている台湾南部屏東県佳冬郷の「戦備跑道」(通常は公道で戦時には滑走路となる道路)を訪れ、演習ぶりを視察した。

ヒトラーの頃に作られたアウトバーンの一部で航空機が離発着できることや、朝鮮戦争を経験した韓国に「非常滑走路」と呼ばれる道路があることは知られている。70年以上も大陸と対峙する台湾にもあって当然だが、実際に道路を戦闘機が離発着する画像に接すると、その迫力とそういった現実に圧倒される。

台湾の「戦備跑道」は5ヵ所、屏東県佳冬郷は最も南に位置する。あとは北から順に、彰化県員林段、嘉義県民雄段、台南県仁德段、台南県麻豆段で、屏東の外は高速道路だ。佳冬郷の道路は全長2,266m、幅は42mあるが、利用可能な幅24mしかなく、墾丁国家公園などの向かう幹線道路のため、事前に閉鎖しての予行演習ができなかった。

筆者が「漢光演習」を調べて驚いたことが2つある。一つは「佳冬郷」の現場が観光名所の体であること、他は20年前の「人民日報オンライン」が「漢光演習」を詳報していたことだ。前者は台湾のTVBS報道を見ると実感できる。何しろAP、CNN、WSJ、Ruiter、AFPからNHKまで、取材陣でごった返している。

人民日報記事は01年9月13日の「台湾の軍事演習は中国大陸を狙っている」と題する邦訳3500字余りのもの。台湾では前年5月に陳水扁率いる民進党が初めて国民党から政権を奪った。民進党政権はその年の8月、国民党政権が84年6月に始めた「漢光演習」を引き続き行い、01年には3月26日から1ヵ月と、9月2日からの2週間に行ったと記事にはある。

記事は台湾の陸海空3軍による「漢光演習」を7分類する。

1つ目は近年主要となった「上陸阻止合同演習」。00年8月の「漢光16」で、対ミサイル、対上陸、対空上陸、対空襲撃に対処する演習を行った。01年3月の「漢光17」では情報作戦部隊が新登場、F-16戦闘機発射の各種ミサイルが採用され、西海岸で大規模な上陸阻止訓練が行われた。水上艦艇や水陸両用戦車を攻撃するヘリを使った新作戦も特筆される。この作戦で3軍は様々な手段を用いている。

2つ目が「対空上陸・対空攻撃演習」。台湾には空港23を含む90以上の着陸に適した場所があり、戦域、師団・旅団単位、防衛区域で対空着陸責任区域を設定し、00年9月の対空上陸訓練では予備役参加が重視された。陸軍は例年の「万安演習*」の重要項目に対空上陸作戦を含める検討をしている(*78年に始まった防空訓練で、参加しないと3万~15万元の罰金)。

3つ目が「水陸両用上陸演習」。これは過去数年間の重要演習項目で年に約3回開催されている。

4つ目が「コンピュータ・ウイルス攻防演習」。「漢口16」で初めて1000種類以上のコンピュータ・ウイルスを実際に使用して相互に攻防を行う演習を行った。

5つ目が「反封鎖演習」。領土が狭く、戦略的深度が浅く、資源が乏しく、戦争維持能力が低い台湾は封鎖を最も恐れている。満載時56トンと小型な「かもめ」級ミサイル高速艇は、地理的優位性や夜陰に乗じて沖合の有利な位置を確保し、侵入艦隊に奇襲がかけ、攻撃後に素早く逃げることができるため、海軍の「ゲリラ戦術」の主力。

6つ目は「対潜水艦作戦演習」。台湾は近年、対潜水艦作戦を最優先している。01年4月、台湾海軍とシンガポール海軍が共同で、台湾の南西から南東の水域で対潜水艦作戦演習を行った。目的は戦争の準備、出港、艦船・航空機の編成と柔軟性、海軍と空軍の戦術的な対立、軍艦と航空機が協調して行う潜水艦の捜索と攻撃、地雷敷設と地雷掃海、電子戦、軍艦砲による射撃支援など。

7つ目が「予備役動員演習」。陳水扁が就任してから目立つようになり、00年9月に国防部が各報道機関を通じて出した動員演習命令では、予備役7千人と車両・重機2百台が集結、1週間の教育訓練が行われた。

最後に記事は、「台湾の軍事演習は、『台湾独立』勢力がとる様々な政治的な動きの軍事的説明書で、中国統一という大義名分に干渉する外国勢力を誘導するための軍事的な道具となっていることが判る」とし、「台湾当局が大陸との政治的対決を行い、『武力による統一への抵抗』を試み、詐欺によって民衆の支持を得ようとする悪意が一層露呈している」と結んでいる。

以上は、今から20年前の01年9月13日の中国共産党機関紙人民日報の記事だが、昨日の記事だといわれても、また台湾総督府のブリーフィングだといわれても、ほとんど違和感なく読めそうだ。

そこで筆者は、この人民日報記事に見るように、また先述のTVBSの記事に見るように、台湾の軍事状況がなぜこれほど明け透けなのだろうかと訝しい。前者は共産中国に浸透された輩からの情報だとしても、後者の報道に見るような公開ぶりを、台湾国民がしっかり自国を護っていることを国内外にアピールするためと考えて良いのだろうか、と。

「漢光演習」は84年6月に国民党が始めた。当時の経国は、糖尿病が一進一退する中、同年10月には江南事件(台湾特務が「蒋経国伝」の著者江南を米国で暗殺)が起きるなど、グリップが利かなくなっていた。鄧小平はそれに付け込んで統一を頻りに持ち掛け、レーガンも82年8月、武器売却に関する「8.17コミュニケ」と「6つの保証」をセットで発した時期に当たる。

つまり、国民党にとっても台湾を護ることを強調する必要が確かにあった。その証拠に、人民日報記事の論調を見直すと、表題こそ「台湾の軍事演習は中国大陸を狙っている」と「大陸反攻」を強調するものの、それとは裏腹に内容は、台湾が人民解放軍の上陸阻止に腐心していることを明らかにする。

他方、台湾の世論調査は、自分は台湾人とする者が7割近くいる一方、台湾の将来については現状維持が53%もあって、独立の35%を上回っている。そこへもし米中のCJCSが互いに責め合わないことを黙約しているとするなら、北京による台湾侵攻の脅しと米国による台湾への武器売却は、台湾を舞台とした茶番ということになる。

蔡英文がそこに一丁噛むような人物にはとても思われないが、まずは28日に予定される上院軍事委員会公聴会で、ミリーCJCSを存分に締め上げてもらいたい。特に対中強硬派の共和党若手ジョシュ・ホーリーとトム・コットンに期待したい。TVBSも「台湾最初の嘉義滑走路は米国が提案したことをご存知か?」と書いている。

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