ワタミは黒字転換、「庄や」の大庄は赤字54億円…完全に明暗を分けた意外な要因


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焼肉の和民のHPより

 コロナ禍で大きな打撃を受けた居酒屋業界。3月に外食・中食市場データサービス「CREST」を手掛けるNPD JAPANが発表した「外食・中食 調査レポート」によれば、2022年の居酒屋・バーの市場規模は9253億円と前年比74.3%増となっていた。一見すると好況に思えるが、19年比だと51.5%減であり、コロナ禍前の半分程度までしか回復していない。徐々に回復してきているとはいえ、いまだコロナ禍前の水準に戻れていないというのが現実的な見方だろう。

 大手居酒屋チェーンも苦しい状況に追い込まれている。しかし、ここ2、3年の決算を見ると、企業によって立ち直りを図れているか否か、明暗が分かれていようだ。たとえば、「焼肉の和民」「ミライザカ」「三代目 鳥メロ」「かみむら牧場」などのチェーン店を運営するワタミは、23年3月期の連結営業利益が14億7400万円と3期ぶりに黒字に。売上高も779億2200万円と、コロナ前の19年3月期と比べて80%弱の数字にまで回復してきている。

 一方、「庄や」「日本海庄や」「大庄水産」「本格板前居酒屋 お魚総本家」など、魚介類のメニューを強みとするチェーン店を展開する大庄グループは、22年8月期の営業利益が53億9000万円の赤字を記録。23年8月期の予想も当初は5億5000万円と予測していたが、2億8100万円の赤字を見込むと下方修正を行い、ワタミとは異なり黒字化はほど遠く、まだまだ苦戦を強いられている状況だ。売上高は357億9900万円と前年比24.1%の回復を見せたが、19年8月期と比べると60%程度の数字で、コロナ禍前の水準には及んでいない。

 ワタミと大庄、業界を牽引してきた大手居酒屋グループの間で、このような差が開いた要因とは何なのか。今回はフードアナリスト・重盛高雄氏に、ワタミと大庄の経営方針の違いなどについて話を聞いた。

「ワタミ」は宅食事業が好調、他業種展開も黒字に貢献している

 ワタミが黒字化した要因としては、本業である居酒屋以外の事業の貢献が大きいという。

「ワタミ復調には、高齢者向けの宅食事業が好調だったという背景があります。コロナ禍に入った当初、外食需要が激減したため多くの飲食店はテイクアウト事業に乗り出しました。ただ、居酒屋は実際に店舗へと足を運んでもらい、その場の雰囲気も込みで飲食を楽しんでもらうことを強みとしていた業態であり、居酒屋業界はいまいちテイクアウトの波に乗ることができなかったんです。

 そこでワタミは、12年から展開してきた宅食事業にリソースを割くようになりました。これがコロナ禍の影響で外出できない単身の高齢者にヒットしまして、感染対策で通常どおりに稼働できない自社店舗の代わりの業態として上手くシェアを獲得し、事業を軌道に乗せることができたのです」(重盛氏)

 もちろん本業である居酒屋業態も、客を引き留めるためにさまざまな工夫を凝らしたという。

「ワタミは、大元の業態であった『和民』という居酒屋ブランドは撤退させているものの、焼肉や寿司といった業態を始めており、トライアル的な挑戦を続けてきました。経営体力とスケールメリットがある分、多種多様な業態にシフトできる余裕があったため、成果の見込める業態が出てきたら、すぐさまスクラップ&ビルドを進めることができたのです。22年春以降から新型コロナの影響が徐々に低下し、外食需要が回復基調に入ったことも追い風となり、客を安定的に確保できるようになったのも大きいでしょう。

 なお、コロナ対応として急な転身が行えたのは、ワタミがワンマン企業体質であることに起因しています。よくも悪くもワタミは代表取締役会長兼社長・渡邉美樹氏のリーダーシップのもとで経営を続けており、トップ主導で方針が迅速に決まる企業です。ワンマン経営は経営判断が悪手だった場合、トップが退かなければどんどん損失を生む可能性があるリスキーなスタイルです。けれど今回のワタミは俊敏な新業態展開などを進め、外食したいと願う客のニーズを巧みに掴めたのでしょう」(同)

「大庄」は板前の育成コストが大きく…常連依存も赤字の要因か

 一方、大庄はコロナ禍の影響のみならず、もともとの大庄の企業体質ならではの理由で業績を落としてしまったようだ。

「大庄は魚介類をメインメニューとするお店として知られています。しかしコロナ禍で多くの飲食店が休業に追い込まれた影響により、スーパーマーケットやネット上のオークションサイトに、飲食店に流通するような上質な魚介類、お酒が並ぶようになり、消費者のマインドとしては、わざわざお店に行ってまで食べたくなるような魅力的に映るメニューがなくなってしまったんです。大庄グループの店舗は一つひとつのメニューも安くはない価格設定であるため、ほかのお店に客が流れてしまっているのでしょう。

 また大庄では、料理人の育成制度が整っており、店舗でも板前が調理を行っている本格さをウリにしてブランドイメージを作ってきました。料理人の独立支援も充実しており、さまざまなブランドを出店しています。ただ、現在の飲食業界は調理工程や動線をマニュアル化したり、セントラルキッチンにして調理を簡潔化したりするなどして、効率化することが主流なので、大庄のやり方ではコストカットが非常に難しいのです」(同)

 大庄はリピーターが多く、それが仇となり業績が下がっている面もあるという。

「『板前が注文を受け、一つひとつ丁寧に調理する』という昔ながらの営業スタイルは、客からしてみれば安心感が強く、固定客増加につながるのですが、現在はチェーンの居酒屋にそこまでのクオリティを求める客自体が少ない。なんとかして固定客を掴んでも店舗の近隣に住む客ばかりで、新規の客をなかなか獲得できない構造になっていたのです。このような経営スタイルでコロナ禍に入ってしまったのが運の尽きでした。常連さんに依存するビジネスモデルであるため、他社以上に客数減少の煽りを受けてしまったのだと考えられます」(同)

 大庄は19年9月1日から22年8月31日まで224店も店舗閉鎖を行う結果に。固定客が離れた途端、急激な店舗数激減に苦しめられることとなった。

自社農場をアピールすべき「ワタミ」、新規客獲得が課題の「大庄」

 コロナ禍により命運がわかれたワタミと大庄。しかし両社の近年の業績を見ると、コロナ前から徐々に右肩下がりだったことがわかる。

 ワタミは14年3月期の売上高1631億5500万円を経て、18年3月期には964億5800万円と1000億円を切る結果に。23年3月期の売上高は直近10年でワースト3の成績だ。対して大庄は、08年8月期の896億5600万円からずっと売上高は減少傾向にあり、22年8月期の売上高は直近10年のワースト2位という結果になっている。コロナ禍は関係なく、業績が慢性的に下降気味であったわけだ。今後、ワタミと大庄は業績を伸ばすためにはどのような経営方針を取るべきなのだろうか。

「ワタミは、焼肉や寿司といった業態にシフトしていますが、決してブルーオーシャンといえる市場ではないので競争は苛烈になるのが必然。そこでアピールしていくべきなのが、同社が取り組んでいる『ワタミファーム』という自社農場の存在です。将来的にはワタミファームで生産した農産物を使用したメニューをウリにして、客に安心・安全を認知してもらえるかが肝要になると考えています。これまでのワタミが持たれていた『安かろう悪かろう』といったブランドイメージを変革していくうえでも、早急に取り組むべき課題でしょう。

 そして大庄は既存の固定客に配慮しつつ、新規客層を引き込めるかがカギとなります。ワタミとは違い大庄は、しっかりとした固定客を掴んでいる分、劇的に客足が落ちることがないという強みはあるものの、やはり新規の客を取り込まないとじりじりと衰退していくことは必至。若者を中心に酒離れが進んでおり、伝統的な酒、魚のメニューにこだわらない業態を進めていくべきではないでしょうか。幸い大庄は独立のバックアップが大きいので、既存店舗とは違った業態を出すといったことも、経営陣の判断があればすぐに取り組めるはず。既存の店舗との客層の棲み分けも図れるので、固定客を逃がすこともないでしょう」(同)

 いまから5年後や10年後に笑っているのはどちらか。もしくは、両社とも笑っているか、両社とも泣いているという近未来もあるだろう。両社の今後の動向に注目だ。

(取材・文=A4studio、協力=重盛高雄/フードアナリスト)

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