CEATEC 2021のプレイベント開始、初回テーマは「カーボンニュートラル」 経産省 河原氏「脱炭素化を主軸に省エネ、蓄電に取り組む」

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 CEATEC 2021 ONLINEのプレイベントが2021年9月9日からスタートしている。

 第1弾として、「カーボンニュートラル(グリーン×デジタル)」をテーマにしたセッションが行われた。

 同プレイベントのなかで行われた経済産業省 産業技術環境局環境政策課エネルギー・環境イノベーション戦略室長の河原圭氏による「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」と題した講演では、政府が打ち出した「2050年カーボンニュートラル」の実現に向けての課題や将来に向けた取り組みなどに言及。グリーン成長戦略に基づいた予算、税、金融、規制改革、標準化、国際連携などの政策についても説明した。

経済産業省 産業技術環境局環境政策課エネルギー・環境イノベーション戦略室長の河原圭氏

「民間企業が挑戦しやすい環境を作る必要がある」

 政府は、2020年10月に、「2050年カーボンニュートラル」を宣言。2020年12月にグリーン成長戦略を策定し、2021年6月には、この内容をより具体化させた。

カーボンニュートラルの実現

 「温暖化への対応を経済成長の制約やコストとする時代は終わり、国際的にも成長の機会と捉える時代に突入した。2050年にカーボンニュートラルを宣言した国は、すでに120カ国を超えており、コロナ禍からの経済成長の柱に、グリーンニューディールやグリーンリカバリーを打ち出している。従来の発想を転換して、積極的に対策を行うことが、産業構造や経済の変革をもたらすと考えられている。経済と産業の好循環を作っていく産業政策が、日本のグリーン成長戦略になる」と位置づけた。

 それに伴い、産業界においては、これまでとは異なる大胆な投資を行い、従来のビジネスモデルや戦略を根本的に変えていく必要があると指摘する一方、日本政府は民間企業の前向きな挑戦を全力で応援する役割が求められていると提言。「国は、具体的な見通しを示し、高い目標に向けて、民間企業が挑戦しやすい環境を作る必要がある」と述べた。

 日本では、2019年時点で、電力部門において4.4億トンのCO2を排出しているが、2050年には、脱炭素電源に移行することでCO2を極力出さない仕組みとする。民生、産業、運輸の非電力部門では10.3億トンのCO2を排出しているが、2050年には極力電化し、電化できない部分は水素、合成燃料(メタネーション)、バイオマスで対応していく。そして、電力、非電力ともに温室効果ガスが排出される部分については、植林や大気から直接回収するDACCSなどによる炭素除去を行い、収支をゼロにするという。

グリーン成長戦略の2本柱「工程表」と「政策ツール」

 グリーン成長戦略の枠組みは、2つの柱で構成されている。

 ひとつめは、成長が期待される分野を明確にし、2050年までの時間軸を持った「工程表」に落とし込み、研究開発フェーズ、実証フェーズ、導入拡大フェーズ、自立商用フェーズを設定したことだ。技術分野によっては、フェーズを飛び越えて導入が進展することになるという。研究開発フェーズでは初期段階であるため、政府の基金や、民間の研究開発投資を活用するが、自立商用フェーズでは、標準化が進み、公的支援が無くても自立的に商用化が進む段階を指す。

 もうひとつは、この「工程表」の実現を後押しするための政策ツールである。

 ここでは、長期に渡る技術の開発、実証を2兆円の基金で支援する「予算」、黒字企業に対する投資促進税制や研究開発促進税制、赤字企業に対する繰越欠損金といった「税」、水素ステーションや系統利用ルールなどの「規制改革」、急速充電やバイオジェット燃料、浮体式洋上風力の安全基準づくりなどの「標準化」、情報開示や評価基準などの金融市場のルールづくりによる「民間の資金誘導」で構成する。

 「2兆円のグリーンイノベーション基金は、NEDOを通じて10年間に渡って実施するもので、目標達成に挑戦することにコミットした企業に対して、技術開発から社会実装までを支援する。産業構造審議会を通じて、貢献ポテンシャル、製作支援の必要性、市場成長性や国際競争力を評価した上で投資をしていくことになる」という。

 また、規制改革や標準化については、実証フェーズを経たところで、新技術を創出するような規制の強化、新技術を想定していない不合理な規制の緩和、新技術を世界で活用しやすくなるような国際標準化に取り組むという。

 さらに、欧米やアジア諸国との国際連携や国際競争力の強化、大学における人材育成や研究開発のための環境整備、2025年に大阪で開催される日本国際博覧会(関西万博)を通じた世界への発信、経済産業省内にグリーン成長に関する若手ワーキンググループを設置して、提言された政策の実現に向けた若手による議論継続の活動も行う。

「脱炭素化」を主軸に省エネ、蓄電に取り組む

 グリーン成長戦略では、3つの方向性を示しているという。

 ひとつめは、電力部門の脱炭素化である。電力由来のCO2排出量は37%を占め最も多い。また、現在の技術水準を前提とすると、すべての電力需要をひとつだけの電力で賄うことは困難であり、あらゆる選択肢を追求することが必要となっている。ここでは4つの選択肢とそれらにおける課題などを示している。

 ひとつの選択である再エネでは、導入に向けた最大限の努力とともに、コスト低減や蓄電池の活用が課題であり、洋上風力、太陽光、蓄電池、地熱産業を成長分野に捉えている。2つめの水素発電では、供給量や滋養量の拡大、コスト低減が課題であり、その解決に向けて、水素産業や燃料アンモニア産業の創出が必要とした。

 3つめの火力+CO2回収においては、技術確立やコスト低減などを課題にあげるとともに、「とくにアジア地域は火力発電を必要最小限で使わざるを得ない。そのため、排出されたCO2を回収し、これを燃料や原料にするといったカーボンリサイクルが重要になる。カーボンリサイクル産業が成長産業になっていく」とした。そして、4つめの原子力については、安全性向上や再稼働、次世代炉がテーマとなっており、「可能な限り依存度を低減しつつ、安全最優先での再稼働、安全性に優れた炉の追求を目指す」としている。

 グリーン成長戦略の方向性の2つめが、電力部門以外の産業、運輸、業務、家庭部門での取り組みだ。ここでは、電化への動きが中心となり、熱需要には水素化、CO2回収で対応する一方、電力需要が増加することなるため、省エネ関連産業が成長分野になると予測している。さらに、産業分野においては水素還元製鉄などの製造プロセス変革が進展。運輸分野では電動化やバイオ燃料、水素燃料の採用が進み、業務・家庭分野でも電化、水素化、蓄電池活用が進むため、水素産業、自動車・蓄電池産業、運輸関連産業、住宅・建築物関連産業が成長分野になると予測している。

 3つめは、蓄電である。経済産業省の河原室長は、「ここが重要な分野になる」と強調。「カーボンニュートラルは電化社会へのシフトである。そして、グリーン成長戦略を支えるのは、強靭なデジタルインフラであり、それを強化するために、半導体、情報通信産業を成長分野に位置づけている」とする。

 電力では系統運用によるスマートグリッドや太陽光および風力の変動調整、輸送ではクルマやドローン、航空機、鉄道の自動運行、工場ではFAの進化やロボットの活用による製造自動化、業務・家庭では省エネや蓄電を組み合わせたスマートハウスやサービスロボットなどの活用が期待され、「デジタルを通じて、他の産業分野の電化を促す、Green by Digitalと、デジタル分野の省エネ化を推進するGreen of Digitalが重要になる」とした。

 これにより、2050年に約290兆円の経済効果、約1800万人の雇用効果が見込まれると試算している。

24兆円規模のDX関連市場を創出。サービス市場を3兆円以上に拡大する

 グリーン成長戦略において、成長が期待されるのは、14分野である。

成長が期待される14分野。オレンジの4分野が早期の成長が期待されている

 エネルギー関連産業では、「洋上風力・太陽光・地熱産業」、「水素・燃料アンモニア産業」、「次世代熱エネルギー産業」、「原子力産業」、輸送・製造関連産業では「自動車・蓄電池産業」、「半導体・情報通信産業」、「船舶産業」、「物流・人流・土木インフラ産業」、「食料・農林水産業」、「⑩航空機産業」、「カーボンリサイクル・マテリアル産業」、そして、家庭・オフィス関連産業として、「住宅・建築物産業、次世代電力マネシメント産業」、「資源循環関連産業」、「ライフスタイル関連産業」の合計14分野を選定。それぞれの分野で高い目標を設定し、あらゆる政策を総動員するという。このなかで、半導体・情報通信産業など4分野は、2030年までの早い段階から成長が期待される分野に位置づけている。

 半導体・情報通信産業については、「電化の基盤となる産業であり、グリーンとデジタルを同時に推進する上で鍵になる産業である」と位置づけ、「製造、サービス、輸送、インフラなどのあらゆる分野でデジタル化が急激に進展し、情報の利活用が進むことで、カーボンニュートラルが実現できる」とする。

 半導体・情報通信産業では、2040年までにカーボンニュートラルを目指すことになり、14分野のなかでも、早い段階での達成が求められている。

半導体・情報通信産業における取り組み

 ここでは、デジタル化によるエネルギー需要の効率化や、省CO2化を実現する「Green by Digital」と、デジタル機器や産業の省エネ・グリーン化を推進する「Green of Digital」に取り組む。「この2つのアプローチが、クルマの両輪のようになる」と位置づける。

 Green by Digitalでは、DXやクラウド化の推進によって、8割の省エネが達成されると推定しているほか、テレワークの推進によって移動に関わるエネルギーが削減されるといった効果が期待できるという。また、国内のデータセンター市場が2019年の1兆5000億円から、2030年には3兆3000億円へと拡大すると予測されているように、国内へのデータセンターの設置が広がることで、データ通信の低遅延化の実現のほか、自動運転や遠隔医療、スマート工場の実現にも貢献。新たなサービス展開の拡大や経済安全保障にも貢献することが期待されているが、その一方で、日本では電力コストが高い、脱炭素電力の購入が困難、大規模需要では電力インフラへの接続に年単位の時間を要するといった課題があることを指摘する。

 政府では、全国で数カ所程度、日本最大級のデータセンター拠点を整備するために、立地計画策定などの政策パッケージを検討しており、これを早期に実行するほか、グリーン電力調達を行うデータセンターの立地を補助。国内での再エネ導入を支援し、脱炭素電力の購入円滑化に向けて、非化石価値取引市場の制度整備を検討する。また、ポスト5Gや光エレクトロニクスなどの次世代情報通信インフラの実用化に向けた研究開発および標準化を支援するという。「2030年に向けたBeyond 5G推進戦略に基づいて産官学の協力によって検討を進める方針である」とした。

 こうした取り組みを通じて、社会システムや経済システム、企業のDX推進により、24兆円規模のDX関連市場を創出。国内データセンターによるサービス市場を3兆円以上に拡大するという。

 Green of Digitalでは、現在の課題として、あらよる機器に使用されている半導体の省エネ化が急務であること、データセンターでの省エネ活用がごく少数であることをあげ、これらを解決するために、次世代パワー半導体などの研究開発、実証、設備投資の支援、データセンターの省エネ化、情報通信インフラの省エネ化に取り組む。

 「超高効率の次世代パワー半導体の実用化に向けて、放射光および中性子線を活用した物性評価、高速電子計算機の活用による材料探索など、学術分野が保有する半導体関連技術や施設を活用して、研究開発を支援していく。半導体サプライチェーンに対する設備投資の導入促進なども行い、2030年には、50%以上の省エネを実現する次世代パワー半導体の普及拡大を目指し、日本企業が世界市場の4割を占め、1兆7000億円の市場を獲得することを目指す」という。

 また、サーバーを構成する要素デバイスの高性能化、省エネ化に、光エレクトロニクス技術を融合したシステムの開発および実証を行うほか、データセンターを制御するソフトウェアなど、性能および省エネ化の最適化技術を開発。さらに、省エネ半導体開発のための設備投資支援を行うという。「2030年までに新設するデータセンターのすべてにおいて、30%以上の省エネ化を実現するとともに、脱炭素化を目指す」としている。

 さらに、エッジコンピューティングの活用によって、ネットワークやデータセンターへの負荷を低減。情報通信インフラにおいて30%以上の省エネ化を目指すという。

半導体・情報通信産業の成長戦略「工程表」(グリーン by デジタル)

 講演の最後に、河原室長は、「デジタルは、カーボンニュートラルの実現に向けて、あらゆる産業に大きな影響をもたらすことになる。半導体・情報通信産業の関係者の取り組みに期待している」と述べた。

パネルディスカッション「Green by Digitalで実現する脱炭素社会~デジタルソリューションによる貢献」アーカイブ視聴も可

 第1弾となった「カーボンニュートラル(グリーン×デジタル)」をテーマとしたプレイベントでは、このほかに、「Green by Digitalで実現する脱炭素社会~デジタルソリューションによる貢献」と題したパネルディスカッションが行われ、東京大学教養学部環境エネルギー科学特別部門客員准教授/国際環境経済研究所 理事の松本真由美氏をモデレーターとして、東京大学大学院情報理工学系研究科教授の江崎浩氏、日立製作所 理事 未来投資本部デジタルグリッドプロジェクトプロジェクトリーダーの青木雅博氏、竹中工務店情報エンジニアリング本部長の政井竜太氏が参加して、パネルディスカッションを行った。

 また、東芝エネルギーシステムズ技術企画部ゼネラルマネージャーの鳥飼高行氏による「カーボンニュートラル社会実現への取り組み」、NEC サステナビリティ推進本部上席プロフェッショナルの山口桂子氏による「デジタルが拓くカーボンニュートラル社会」、セコム 取締役 総務人事本部長/サステナビリティ推進室長の栗原達司氏による「カーボンニュートラルに向けた取り組み」と題した講演も行われた。

 これらの内容は、アーカイブとして視聴することができる。

16日に「5G」のプレイベントも実施、事前登録制

 プレイベントの第2弾は、9月16日に「5G」をテーマに実施。9月24日には第3弾として、「モビリティ」をテーマに、9月30日には第4弾として「スーパーシティ/スマートシティ」をテーマにそれぞれ開催される。

 それぞれのプレイベントには、CEATEC 2021 ONLINEに事前登録すれば参加できる。事前登録および参加は無料。事前登録をしておけば、CEATEC 2021ONLINEのメインイベントなどにもそのまま参加できる。

 事前登録サイトはこちら

 なお、CEATEC 2021 ONLINEは、10月15日にオープニングイベントを開催し、10月18日には、報道関係者を対象にしたメディアデーを開催。10月19日~22日にメインイベントを開催。さらに、11月末までアフターイベントの開催や、アーカイブでの参加も可能にしている。

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