遂に133年の歴史を持つスペインの旧通貨ペセタが不兌換紙幣となった。
ユーロが導入されて半年間はペセタも支払いで使用できた
2002年1月からスペインもユーロ通貨を市場で流通させるようになった。例えば、支払いでペセタを使用できた。その場合にお釣りはユーロでの返金された。
それまで使用されていた通貨ペセタは最初の半年間に94.3%のペセタ通貨がユーロ通貨に両替されたという。
それから19年が経過した現在まで96.8%のペセタ通貨が両替されたが、残り3.2%のペセタが今も両替されないままだという。それは26億2000ペセタ、ユーロに換算すると15億7500万ユーロ(1890億円)に相当する。
今年7月にペセタは不兌換紙幣となった
そして今年7月からペセタは不兌換通貨になったのである。昨年12月31日でペセタのユーロへの両替はリミット期限とされていた。ところがコロナパンデミックの影響でそれが半年延長されたというわけだ。
そして今、ペセタは通貨のコレクターの対象になっているか、あるいは市場で消滅したままになっていることになる。筆者も確か5000ペセタ紙幣(30ユーロ5セント)は持っていたように記憶しているので、探せばどこかの引き出しから出て来ると思う。
人口で1000万人のポルトガルだと旧通貨エスクードが両替されずに市場に残っているのはユーロにして4000万ユーロ(48億円)だそうだ。一方の人口4600万人のスペインだと両替されていないペセタはユーロに換算して15億7500万ユーロという高額に上っている。
それを一人当たりで換算するとポルトガルでは一人当たり4ユーロに相当するエスクードがそのまま市場に残っているということになる。一方のスペインは一人当たりおよそ34ユーロが両替されないままになっている。
ユーロの導入に合わせて予想以上の便乗値上げが横行
ユーロが導入されてから最初の2か月はペセタも併行して使用されていた。前述したように、市場で物を買う時にペセタで支払いはできるが、お釣りはユーロで返金されていた。1ユーロの対価は166.386ペセタであった。しかし、2か月が経過してからはユーロだけが流通するようになって133年市場に流通したペセタは幕を閉じた。
ところがユーロが流通する前に誰も想像しなかったのは、この両通貨の交換レートを利用して物価の値上がりが予測されていた以上に高い率で値上がりした。
例えば、筆者が在住している町では1杯のコーヒーは25ペセタであった。即ち、ユーロに換算すると15セントとなる。ところが、それからわずかの時が経過してからコーヒー1杯は1ユーロ(166.386ペセタ)になった。25ペセタであったのがそれから僅か数年後には166.386ペセタに値上がりしたのである。
この現象はすべての物価に言えることだった。2002年のユーロ導入からほぼ20年が経過しているが、スペインでは物価の値上がりはあまりに大きすぎるということだ。筆者も記憶しているが、かつて1000ペセタもあれば結構色々な物が購入できた。しかし、1000ペセタは6ユーロにしかならない。6ユーロだと筆者の町だとコーヒーが6杯飲めるだけである。
スペイン、ポルトガル、イタリア、ギリシャといった弱い通貨の国がドイツなどの強い通貨と一緒になって共同通貨を発行したということで、それまで弱い通貨での生活に慣れていた国が強い通貨の国と同じ物価レベルに近づこうとしたことに無理があった。それが便乗値上げというしわ寄せに繋がったのである。
景気の回復にはデノミが良い
これは経済理論では説明できない日常生活から得た体験である。だから、一か国の経済の発展を図るには新通貨を発行するとかデノミを実施して旧通貨が使えなくなるということにしてしまえば新通貨が導入される前の4-5年は市場に俗にいう箪笥金が表市場に出て来て通貨の流通が盛んになる。よって市場が潤って景気を煽ることになる。
それがスペインでは1996年頃からユーロ導入の2002年までに隠されていた資金を使わねばならないことになって建築ブームなどを招いた。隠されていた資金を徐々に使用して行かないと一挙に両替したのでは税務署からチェックされるからであった。
使えなくなったペセタ硬貨は配管やスクリューの羽に変身
使用されなくなったペセタのコインの場合は10ペセタ、50ペセタ、200ペセタを溶かして冷却用の配管に使用されたりしていた。また5ペセタ、25ペセタ、100ペセタ、500ペセタのコインは船舶のスクリュープロペラに利用されたりもしていた。
また一般ではキーホルダーとして使用している人もいる。