「休みの日は1日ゲームを8時間以上はやる。オンラインゲームは相手がいるから、抜けると悪いしやめられない。社会人が仲間だから夜中にやることが多くて、寝ないで学校に行って気分が悪くなったことがある」と、ある中学生は言う。このように未成年がオンラインゲームにはまることは社会的問題となっているが、これは日本だけの話ではない。
中国政府がオンラインゲームを提供する企業に対して、18歳未満の未成年者には休日・週末限定で1日1時間しかゲームを提供しないことを求めて話題となっている。新たな規制では、未成年者は平日はオンラインゲームができなくなり、認められるのは金曜、土曜、日曜と法定休日の午後8〜9時までだ。実名で登録しない人にはサービスの提供を禁じた上で、規定を守らない企業は厳しい取締りの対象となる。
背景にあるのは、未成年のゲーム依存問題や高額課金問題だ。中国の規制実態と、このような規制の効果について考えていきたい。
「ゲームは精神的アヘン」の批判も
実は中国では、これまでも未成年のオンラインゲームは制限されていた。中国政府が2019年に施行した規制では、平日は1.5時間、金曜、土曜、日曜と法定休日は3時間とされていたのだ。未成年に対しては、午後10時から翌朝午前8時までゲームの提供も禁止されていた。
ゲーム企業は今回の規制強化に先んじて、未成年の利用時間や課金制限の自主規制を行っていた。たとえば、騰訊控股(テンセント)は、8月3日に未成年者のゲーム利用を祝日は1日2時間まで、それ以外は1時間までに制限する方針を発表していた。
なお、未成年のオンライン課金に関しても上限が設けられている。一度に課金できる金額は、8歳以上16歳未満は50元(約780円)まで、16歳以上18歳未満は100元(約1560円)までだ。また月額の課金総額は、8歳以上16歳未満が200元(約3100円)まで、16歳以上18歳未満が400元(約6200円)までとされている。
中国国営のメディア「経済参考報」は、8月3日に「ゲームは精神的アヘン」とするコラムを掲載して大騒動となった。テンセントのゲーム「王者栄耀」のタイトルを挙げて名指しで批判。テンセントはこれに応える形で、対策の強化や12才以下の小学生に対してはゲームを全面禁止することの実現可能性についての討議の必要性にまで言及していた。
記事によると、中国の未成年のネットユーザーの62.5%がオンラインゲームをプレイすることが多く、未成年のモバイルゲームユーザーの13.2%が1日2時間以上モバイルゲームをプレイしており、2019年の12.5%から増加傾向にある。ゲーム依存になったある子どもは、ゲームを制限した両親に暴力をふるい、頬をナイフで切りつけ、祖父母の家に火をつけたという。
2002年には、毎日ネットカフェに通っていた高校生(17歳)が、オンラインゲームをプレイ中に極度の緊張状態によって突然死するなど、オンラインゲームの未成年に与える影響は問題視されてきた。
ここまでの状態になる子どもは多くはないが、はまってしまって日常生活に悪影響が出ている子どもがいることは事実だ。中国の今回の極端な制限も、あまりにはまる未成年が多く、影響に目をつぶることができなかったためだろう。
韓国のゲームシャットダウン制の今は
若者のゲーム利用制限は、中国だけではない。たとえば韓国では、2011年から「ゲームシャットダウン制」を実施していた。未成年のゲーム依存を防ぐことを目的として、満16歳未満の未成年が午前0時から翌日午前6時までアクセスするのをブロックをしていたのだ。
ところが2021年に廃止となり、新たに「ゲーム時間選択制」を強化するという。しかし、もう制限しなくなるわけではない。では、なぜこのような変更をしたのか。理由は、この10年間でモバイルゲームの利用が増えたが、シャットダウン制はPCゲームのみが対象だったからだ。日常的にSNSや動画生配信、ウェブ漫画などを楽しむ若者の実態に合わなくなっていたというわけだ。
ゲーム時間選択制とは、18歳未満の未成年やその保護者が希望する場合は、ゲームの制限時間を自ら設定することができる制度だ。いまはゲームごとに申請しなければならないが、今後、ゲーム文化財団に依頼、一括申請が可能になる予定だ。また、「出張ゲーム文化教室」などを拡大して青少年がセルフコントロールできることを目指すほか、保護者や教師などを対象にゲーム利用指導法教育などを強化する方針という。
ゲーム利用のセルフコントロールを
日本でも香川県ネット・ゲーム依存症対策条例が2020年4月に施行されて話題となった。18歳未満のゲーム利用は1日60分(学校休業日は90分)まで、スマホは中学生以下は午後9時、それ以外は午後10時までにやめさせることを目安として、家庭でルールを作って子どもに守らせる努力義務を保護者に課すというものだ。
2020年9月、高松市の男子高校生と母親が、条例は憲法13条が保障する幸福追求権などを侵害しているなどとして、県に計160万円の損害賠償を求めて提訴した。このように、条例については賛否が分かれるところだが、子どものゲーム依存が問題であること自体には異存はないだろう。事実、WHOが2018年にゲーム障害を病理と認めており、ネット依存外来には10代を中心とした患者が多数訪れているという。
では、オンラインゲームの強制的な制限は効果があるのだろうか。強制的に制限されて利用できなくなる層は確かにいるだろう。しかし、「どうしてもプレイしたい人は親のアカウントを使うし、課金もできる。制限できるのはオンラインゲームだけで、オフラインゲームは制限されていない」と、制限の効果に首を傾げる人もいる。強制的な制限の効果は、まだ実証されてはいないとしか言えない。
ゲームは気分転換にもなり、最近はコミュニケーションの場ともなっている。けしてゲームが悪いわけではなく、あくまで振り回されて実生活に悪影響が出ることが問題なのだ。大切なことは、依存状態にならず、自分で利用をコントロールできるようにすることだ。若者が依存状態とならずゲームを楽しめるよう、周囲の大人は利用を見守ってあげてほしい。
高橋暁子
ITジャーナリスト、成蹊大学客員教授。SNS、10代のネット利用、情報モラルリテラシーが専門。スマホやインターネット関連の事件やトラブル、ICT教育に詳しい。執筆・講演・メディア出演・監修などを手掛ける。教育出版中学国語教科書にコラム 掲載中。元小学校教員。
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