断片化されたCookie後の世界、技術も状況も概念も複雑に:「仕事量は増え、日常業務の進行に遅れが生じている」

DIGIDAY

マーケターは世界中で巻き起こる個人情報保護規制の波にますます追い詰められつつある。加えて、多国籍企業がマーケターの利用するテクノロジーのより厳格な管理に動いていることもあり、否応なく柔軟な対応を迫られている。

従来マーケターがオンラインオーディエンスのターゲティングやこうした活動の有効性を追跡するために利用していたシグナルは、Google ChromeブラウザにおけるサードパーティーCookieの終焉とAppleのiOSにおけるIDFAの規模縮小に象徴されるように、衰退の一途をたどっている。

乱立するテクノロジー、費やされるコスト

こうしたシグナルの喪失を受けて、代替技術が市場にあふれた。そのなかには、たとえば「データ管理プラットフォーム(DMP)」など、サードパーティデータと関連すると認識され、他と比べて避けられがちなテクノロジーもある。

並行して、重複する技術がこうした競争に加わっている。ガートナー(Gartner)の調査によれば、すべてのマーケターの3分の1以上が、2022年の1年間に新技術の試験運用をおこなった。さらに同調査において、平均的なマーケターは昨年のマーケティング費用の4分の1をこうした技術の開発に投資していた。そのうえ、「顧客データプラットフォーム(CDP)」や「データクリーンルーム」といったテクノロジーに何が必須であるかに関しても、依然としてさまざまな意見が存在する。

たとえば、IABテックラボ(IAB Tech Lab)がデータクリーンルームを構成する技術に関して、公開コメントの形で一連の基準を示した(詳細はこちら)のは、つい最近のことだ。同組織はこのイニシアチブにより、現在数々のベンダーの製品として流通している技術のあいだでの相互運用性が高まることを期待している。関係者の多くは、これにより新たな製品カテゴリーが、アルファベット(Alphabet)やAmazonといったテック業界の巨大プレーヤーに支配されるシナリオが回避されることを望んでいる。

巨大企業による寡占は、マーケターにとっても、もちろんパブリッシャーにとっても困難な状況を生み出す。こうした機能を運用するうえで必須のスキルセットや、さまざまなテクノロジーを利用するための法的根拠は、必ずしも容易に手に入るものではないからだ。

マーケターが直面している壁

IABテックラボのCEO、アンソニー・カットスール氏は最近、米DIGIDAYの取材に答え、現在のパラダイムはマーケターに「概念的に複雑な難題」を課していると述べた。とりわけ、サプライチェーン全体で利用者の同意を尊重するシステムを確立する方法を模索するなかで、マーケターはこうした壁に直面している。

「相互接続しなければならないベンダーの数がかつてないほど増加している」と、カットスール氏は指摘し、現在のマーケティング戦略には「ポートフォリオアプローチ」が必須になっていると述べた。

カットスール氏はさらに、「CDPを5つや6つのベンダーと接続しなければならないうえに、他方ではSSP(サプライサイドプラットフォーム)とDSP(デマンドサイドプラットフォーム)、広告サーバーの統合も確立しなければならないといった状況だ」とコメントした。

それだけでなく、顧客関係管理(CRM)システムやDMP、あるいは(業界が最終的にどう定義するにせよ)データクリーンルームといった、中枢管理型テクノロジーも考慮に入れる必要がある。

過去3年間にわたりこうした流動的な状況を注視してきた、コンサルタント企業のマッドテック・アドバイザーズ(MadTech Advisors)のCEO、ボブ・ワルチャック氏は、新たにマッドテック・コネクト(MadTech Connect)を構想し立ち上げた。同氏によれば、この新業態はプラットフォーム間の統合に伴うテックスタックの乱雑さを整理したい企業を支援するものだ。

「これまでプラットフォーム間の接続、オーディエンスの拡張、アトリビューション、ターゲティングといった機能はすべてCookieベースだった」とワルチャック氏は説明し、Cookieの崩壊によって直接的なプラットフォーム統合が必要になったと指摘した。

「現在のインフラでは手に負えないことが起きている」

理屈の上ではシンプルに思えるが、ブランドのマーケティング担当部署に所属する複数の関係者が米DIGIDAYに語ったところによれば、多くのブランドがオンラインマーケティング業務のインハウス化に舵を切っていることもあり、状況は複雑だという。

複数のマーケター(企業の広報ポリシーを理由に全員が匿名を条件に取材に応じた)によれば、GDPR(EU一般データ保護規則)などのプライバシー保護規制の結果、法務部門がますます厳密なアプローチを要求するようになったため、しばしばプラットフォーム間の直接的統合が必要なのだという。

「統合先の企業においてオーディエンスの同意が尊重されていることを確認する必要があり、煩雑になりうる。また提携する企業の数を絞らなくてはならない」と、ある多国籍ブランドのマーケターは語った。「そのため、我々が負う仕事量は多くなり、しかも必要なスキルセットをもっているとは限らないため、日常業務の進行に遅れが生じている」

マッドテックのワルチャック氏はさらに、マーケティング部署の頭痛の種になりかねない煩雑な要素について説明した。とりわけAPIの統合が必要になりそうな見通しである現在の状況に、多くのマーケターが恐れをなしているという。

「現在のインフラでは手に負えないような多くのことが起こっており、またCookieを介してデータを移転することができなくなり、ファーストパーティデータをプラットフォーム間で直接接続しなくてはならなくなった。つまり統合が必要なのだ」と、ワルチャック氏は言う。「我々はプラットフォーム間の統合にしばらく携わってきた。戦略設計をして結果を見届けるだけでなく、クライアントのために直接的にシステムの接続をおこなってきた」

マッドテック・コネクトが目指すのは、異なるプラットフォームの「ユニバーサルコネクター」としての機能であると、ワルチャック氏は語る。ワルチャック氏が以前ゼネラルマネージャーを務めていたビッドスウィッチ(BidSwitch)もまた、アドテクのバイサイドとセルサイドの統合に関して、同様のファシリテーションを提供するテック企業だ。

「2つのプラットフォームを接続するコネクターを何度も何度もつくりだすのではなく、要するにひとつのコネクターをつくり、それを利用したトグリングによってすべてのシステムを統合する、というのが我々の発想だ」と、同氏は説明する。

異なる分野のブランドを満足させられるソリューションは?

多国籍企業のオンラインマーケティング部署と仕事をしてきた経験をもつメディア幹部であるリズ・サルウェイ氏は、多くの多国籍企業のマーケティング部署は「一枚岩のようなテックスタックからマルチプラットフォーム・エコシステムへ」と移行しつつあると、Eメールのなかで見解を述べた。

こうした動きはしばしば、地域的な必須要件に対応したものだ。たとえば、ある市場における法律上の必須要件に従えば、ある技術について、実質的にその地域だけで利用するのが最適になるかもしれない。

ただし、こうしたアプローチはぎこちないものになりがちで、当然ながら費用がかさみ、またROIとして指標化しづらい。業界団体が技術の標準化に関する合意形成に手こずっている現状ではなおさらだ。

「2つのまったく異なる分野で操業している2つのブランド、たとえば消費財ブランドと高級志向の小売店のあいだに共通点は多くないだろうが、両者はいずれもクリーンルーム、マーテクスタック、データに関する企業向けのソリューションへのアクセスを欲している。こうした要望を叶えるマスターコネクションをつくりだすことで、マーケティングにおけるほとんどのユースケースのなかに存在するばらばらの点を、より迅速に、より低コストで接続する手段を提供できるだろう」と、サルウェイ氏は述べた。

[原文:Marketers seek adaptability amid a fragmented post-cookie landscape

Ronan Shields(翻訳:的場知之/ガリレオ、編集:分島翔平)

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