走行に化石燃料を使わず環境に優しいとされている電気自動車は、ガソリン車とは異なる「電気自動車専用タイヤ」の使用が推奨されています。「一体なぜ電気自動車には専用のタイヤが求められるのか?」という疑問について、テクノロジー系メディアのArs Technicaがまとめています。
Here’s why electric vehicles need EV-specific tires | Ars Technica
https://arstechnica.com/cars/2022/12/heres-why-electric-vehicles-need-ev-specific-tires/
電気自動車とガソリン車は見かけこそ大きく変わりませんが、その内部構造には大きな違いがあります。その影響で、普通のガソリン車と同じタイヤで電気自動車を走らせるとタイヤの摩耗が加速したり、熱関連の問題が増加したり、方向安定性が失われたりする危険があるとのこと。Ars Technicaは、電気自動車で専用タイヤを使うべき理由を以下のように説明しています。
・重量
ガソリン車と電気自動車の大きな違いとして挙げられるのが、車両重量の違いです。電気自動車は大きなバッテリーを積んでいるため、一般的に同サイズのガソリン車よりも重い傾向があります。たとえば、メルセデス・ベンツの電気自動車「EQS 450 4MATIC」の重量は2539kgですが、ほぼ同サイズのガソリン車「S500 4Matic」の重量は2091kgとなっており、約450kgほど差があります。そのため、電気自動車のタイヤはガソリン車よりも要求される荷重指数が大きいとのこと。
タイヤが耐えられる重量は使用される原料の配合だけでなく、溝のパターンや深さの影響も受けます。また、重いバッテリーが車体全体に均等に配置されているのか、それとも走行中の動的負荷を軽減する目的で車体中央に配置されているのかでも、タイヤに要求される荷重指数は変わってきます。
・騒音
内燃機関を搭載していない電気自動車は、騒音がガソリン車よりも大幅に少なくなるといわれています。しかし、ガソリン車ではエンジン音によってかき消されていた風切り音や路面からのノイズが、モーターが静かな電気自動車では聞こえやすくなることも指摘されています。
高性能タイヤメーカーのHankook Tireでシニア・ヴァイス・プレジデントを務めるロブ・ウィリアムズ氏によると、ガソリン車では駆動機関の音が騒音の約50%を占め、路面ノイズが約30%を占めているそうです。一方、電気自動車ではモーターの騒音が約15%を占めており、路面ノイズが約40%、高速運転による風切り音が約30%を占めているとのこと。高速走行によって生じる路面ノイズを軽減するため、タイヤメーカーは騒音を可能な限り軽減できるタイヤのトレッドパターンの研究開発を進めています。
・加速時のトラクション
ガソリン車と電気自動車で異なるタイヤが必要とされる大きな理由の1つが、タイヤと路面の間で生じるトラクション(駆動力)の違いです。ほとんどの電動モーターは燃焼エンジンよりも瞬時に大きなトルクを生じさせるため、タイヤに加わる衝撃がより大きくなります。しかし、トラクションを重視したタイヤは耐久力が犠牲になりやすく、タイヤの寿命が短くなってしまうという欠点もあるとのことです。
・タイヤの寿命
電気自動車が普及してそれほど年数が経っていない記事作成時点でさえ、一部の所有者から「ガソリン車と比較してタイヤの寿命が短い」という指摘が上がっているとのこと。ガソリン車のタイヤを着けて走るとタイヤの寿命が短くなり、頻繁に交換する必要があります。Ars TechnicaのライターであるJim Resnick氏の友人は、テスラ・モデルSでわずか4000マイル(約6400km)走っただけでタイヤ交換を余儀なくされたそうです。
・航続距離
タイヤの進行方向と逆向きに働く転がり抵抗が航続距離に及ぼす影響は、ガソリン車では約15~20%とされていますが、電気自動車では20~40%とかなり大きくなるそうです。転がり抵抗と路面のグリップ力との間でバランスを取る適切なタイヤを選択することが、電気自動車の航続距離を伸ばすために重要です。
残念ながら記事作成時点では、電気自動車用のタイヤはガソリン車用と比較して高価です。しかし、これは市場の規模や参入企業の数によるものであるため、電気自動車がより一般的になって市場が成長すると共に、電気自動車用タイヤの価格も低下するだろうとResnick氏はまとめています。
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