仮想通貨取引所「FTX」の崩壊は事故ではなく「犯罪」

GIGAZINE
2022年12月01日 23時00分
メモ


by Bybit

アメリカ人起業家のサム・バンクマンフリード氏が2019年に創業した仮想通貨取引所のFTXは、2022年11月11日に連邦倒産法第11章の適用を申請し、事実上経営が破綻しました。バンクマンフリード氏にインタビューを実施したNew York TimesWall Street Journalなどはこの一件を「不幸な事故」のように報じていますが、実際にはユーザーの資金を盗むことを明確に意図した前代未聞の巨額詐欺であったと、デジタル通貨に特化したニュースサイトのCoinDeskが非難しています。

FTX’s Collapse Was a Crime, Not an Accident
https://www.coindesk.com/layer2/2022/11/30/ftxs-collapse-was-a-crime-not-an-accident/

CoinDeskの記事は、「サム・バンクマンフリード氏の仮想通貨帝国がうその塊であることが明らかになってから、主要な報道機関やコメンテーターは、この一件について読者にはっきりと理解してもらうことに失敗してきました」という書き出しで始まっています。

CoinDeskがこのように評価しているのは、New York TimesやWall Street Journalなどが「FTXには顧客のポジションリスクを専門とする担当者がいなかった」ことや、「FTXは自社がいくらの資産を保有していたかすら把握できていなかった」といった重要な事実を明らかにした一方で、FTXの経営破綻を銀行の取り付け騒動のような事故だったかのような論調で報じている点にあります。また、報道各社は「詐欺を働く意図はなかった」というバンクマンフリード氏の自己弁護もそのまま伝えました。


しかし、長期的な問題を抱えていなくても顧客が一斉に予算を引き出せば資金不足に陥る銀行とは異なり、FTXは銀行のような融資を行っていないし、そもそも仮想通貨取引所は顧客から預かっている資金を第三者に流すようなことはすべきではありません。それにもかかわらず、FTXは経営問題が明るみに出た直後に、バンクマンフリード氏が立ち上げた仮想通貨ヘッジファンドであるアラメダ・リサーチへと不透明な資金の移動を行っています。

こうした点からCoinDeskは、FTXの経営破綻とそれにまつわる一連の問題を「これは端的に言って、前代未聞の窃盗事件です」と位置づけて、その理由を以下のようにまとめました。

◆FTXとアラメダのつながり
CoinDeskによると、バンクマンフリード氏の不正の核心は、FTXとアラメダの間にある深く密接なつながりにあるとのこと。両社ともバンクマンフリード氏が中心となって設立された企業ですが、FTXは顧客の仮想通貨取引から得られる手数料を利益とする一方で、ヘッジファンドであるアラメダは自らが管理するファンドを積極的に運用することで利益を得る企業だという違いがあります。

バンクマンフリード氏は両社を完全に別個の事業体であると述べており、そのことを強調するかのように、2019年にアラメダのCEOを辞任しています。しかし、両社の幹部はしばしばバハマにある同じペントハウスで仕事をしていたほか、バンクマンフリード氏がアラメダのキャロライン・エリソンCEOと恋愛関係にあったことなど、両社の間には非常に密接なつながりがありました。


このようなFTXとアラメダの蜜月関係が、FTXによる不正を可能にしたとCoinDeskは考えています。具体的には、FTXの問題が表面化してから数日後に、顧客の資産を大量にアラメダへと移動させました。ロイターの報道によると、その規模は金額にして100億ドル(約1兆3000億円)に上るとのこと。関係筋は、FTXからアラメダに流れた資金のうち約20億ドル(約2700億円)は行方が分からなくなっているとロイターに話していますが、損失額はその後さらに拡大しているとみられています。

これまでのところ、バンクマンフリード氏がユーザーの信頼を裏切ってまで顧客の資金をアラメダに送った経緯は分かっていません。オンチェーン分析では、FTXからアラメダへの資金の動きの大半は2021年後半の出来事だということが分かっているほか、両社は2021年に37億ドル(約5000億円)の損失を計上していることが破産申請により判明しています。つまり、FTXやアラメダは仮想通貨の弱気相場が2022年に始まる以前から巨額の資金を失っていたことになります。

この点からCoinDeskは「仮想通貨のTerraやTerraに出資していたファンドの3ACが崩壊したり、レバレッジをかけ過ぎた仮想通貨プレイヤーたちが致命傷を負ったりするよりずっと前から、バンクマンフリード氏らはお金を盗んでいたのかもしれません」と述べました。


◆FTXトークンと「担保付ローン」の疑惑
そもそも、FTXとアラメダの関係が注目されるようになったきっかけは、アラメダのバランスシートの一部がFTT(FTX トークン)で占められていることを示す内部文書をCoinDeskが発見したことでした。これにより、公開市場で取引されていたFTTは全体のごく一部で、大半はFTXとアラメダが所有していることや、FTTが事実上の非流動的資産であるため公開市場で値をつけることは不可能だということなどが明らかになりましたが、バンクマンフリード氏はFTTを架空の市場価格で計上していたとのこと。

さらに、FTXは架空の値段で評価されたFTTを「FTXとアラメダの間で融資をする際の担保」に使っていたとみられています。CoinDeskは、この手法と「アメリカ史上最大級の不祥事」とも評されているエンロン事件で行われた不正会計との間にある類似点を指摘しました。


◆アラメダの「秘密の免除」
FTXが破綻すると共にバンクマンフリード氏は同社のCEOから退きましたが、その後処理を行っている後任の経営陣が提出した法的な証拠書類により、アラメダはFTXの証拠金取引のルールから「秘密の免除」を受けるという特別な待遇を得ていたことが明らかになりました。

FTXは、他の仮想通貨取引所などと同様に、取引に使うことができる証拠金のサービスをユーザーに提供していました。これは、ユーザーが仮想通貨でレバレッジをかけた取引をする際の担保として法定通貨や仮想通貨を預けるというもので、もし信用取引で大きな損害が出た場合、FTXはユーザーが差し出した担保を売却して埋め合わせにすることができます。

この証拠金の没収をアラメダが免除されていたということは、アラメダを大きく有利にする一方で、他のFTXのユーザーを著しく不利にするものでした。なぜなら、仮想通貨取引で損失を出した際に、一般のユーザーは資金を失って撤退しなければなりませんが、アラメダは状況が好転するまで負けっぱなしのままでいられるからです。取引所としての公平性を大きく損なうFTXとアラメダの密約について、CoinDeskは「あらゆる観点から見て犯罪的」と非難しました。


◆アラメダによるFTXのトークンのインサイダー取引
仮想通貨市場の分析会社であるArgusの報告によると、アラメダはFTXが特定のトークンを上場すると発表する前から、それらのトークンをかき集めていたという強い状況証拠があるとのこと。トークンが仮想通貨取引所で取り扱われることは、一般にトークの価格を大きく押し上げる要因になるため、もしこの報道が事実なら、アラメダはFTXによる上場前にこれらのトークンを買い集めてから上場後の価格上昇に乗じて売り抜けることが可能だったことになります。

FTXが扱ったトークンは金融法で規定された証券ではありませんが、この一件はインサイダー取引法の下で訴訟に発展する可能性もあるとのこと。例えば、2022年6月には、NFTマーケットプレイスのOpenSeaの社員が事前にNFTを購入していたとして、インサイダー取引で起訴されています。

◆役員個人への巨額融資
バンクマンフリード氏を始めとするFTXの幹部は、アラメダから総額41億ドル(約5500億円)の融資を受けており、その中には無担保のものも多く含まれていました。例えば、バンクマンフリード氏がアラメダから10億ドル(約1300億円)の個人融資を受けていたことや、同氏が75%の支配権を持つPaper Birdなる団体も23億ドル(約3100億円)の融資を受けていたことが破産手続きで発覚しています。

また、FTXのエンジニアリング・ディレクターであるニシャッド・シン氏は5億4300万ドル(約740億円)、FTXの子会社であるFTX Digital Marketsの共同CEOであるライアン・サラメ氏は5500万ドル(約75億円)の個人融資を受けていました。

これらの融資の使途や行方は不明で、不正にあたるかどうかの調査もこれからですが、CoinDeskはこの金銭の流れが「バンクマンフリード氏が秘密の資金循環、レバレッジ、架空の資本を駆使してさまざまな資産の価値を詐欺的に高めていた広範なパターンと一致しているのは確かです」と断じました。


◆バンクマンフリード氏による「救済」が損失隠しだった可能性
仮想通貨市場が弱気相場に突入した2022年半ば、バンクマンフリード氏は破産した仮想通貨レンディング大手のBlockFiなどに資本を注入すると申し出て、仮想通貨の冬に苦しむ業界の救世主として歓迎されました。

これについてバンクマンフリードは、「私たちは、デジタル資産エコシステムとその顧客を保護する義務を真剣に受け止めています」と述べています。

6) We take our duty seriously to protect the digital asset ecosystem and its customers.

— SBF (@SBF_FTX)


しかし、実際には仮想通貨業界の救済が目的ではなかった可能性が浮上しています。Bloombergは2022年11月に公開した記事で、FTXが架空の資金でBlockFiを支援したのではないかとの見解を示しました。これはまだ臆測に過ぎませんが、BlockFiの倒産がもっと早ければBlockFiに対するFTXとアラメダの負債も早期に明るみに出ていたため、バンクマンフリード氏による救済は損失を隠すためのものだったかもしれないとCoinDeskは指摘しています。

CoinDeskはさらに、こうした数々の不審な点から「バンクマンフリード氏の不正は、意図的にせよ悪意ある無策にせよ、ワールドコムやエンロンなどの大企業のスキャンダルに通じるものがあります。こうしたスキャンダルの主犯格はいずれも実刑判決を受けたか逃亡中であり、バンクマンフリード氏も彼らと運命を共にするのがふさわしいでしょう」と怒りをあらわにしました。

なお、CoinDeskの親会社であるDigital Currency Group(DCG)は、FTXの破綻により約1億7500万ドル(約238億2800万円)の損失を被っていることが、DCGの子会社であるGenesisによって明かされています。

As part of our goal in providing transparency around this week’s market events, the Genesis derivatives business currently has ~$175M in locked funds in our FTX trading account. This does not impact our market-making activities.

— Genesis (@GenesisTrading)

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