“細胞をリプログラミング”してまで「絶滅種復活カンパニー」が実現したいこと

ベースはゾウ、パーツはマンモス。

2021年に創業した「世界初の絶滅種復活カンパニー」を名乗る米Colossal Biosciences(コロッサル・バイオサイエンス)が、画期的な幹細胞を開発したと発表しました。

この幹細胞をもってなら、Colossal社が掲げている5年以内にケナガマンモスを復活させる!という目標に大きく近づけると期待されています。…いや、正確にはケナガマンモスのようななにか、なのですが。

ゾウの細胞をリプログラミング

iPS細胞のイメージ Illustration: Alpha Tauri 3D Graphics (Shutterstock) via Gizmodo US

画期的な幹細胞とは、iPS細胞(人工多能性幹細胞)。

iPS細胞は、培養することでさまざまな組織や臓器の細胞に分化する能力を持ち、バイオエンジニアリングにおいて細胞を開発したり、治療に使ったり、遺伝子情報をほかの細胞へ伝達したりするのに有益です。

今回Colossal社が発表したiPS細胞は、ゾウの細胞を操作して胚の状態にリプログラミングしたもの。Colossal社のリリースによれば、すでにこのiPS細胞がすべての細胞種類の元となる三つの胚葉に分化できたことも確認できているそうで、今後同社がケナガマンモス(のようなもの)をつくり出すために重要な役割を果たすと期待されています。

実はゾウについても知られていないことが多い

こうしてサラッと書いてしまうと簡単なことのように思えますけど、実のところ、iPS細胞に至るまでの道のりは決して平坦ではなかったようです。

「ゾウ由来のiPS細胞を作り出す試みはこれまで何回も行われてきてはいたものの、どれも成功していませんでした」とリリースで説明しているのは、Colossal社の生物学チームを率いるエリオナ・ハイソリ(Eriona Hysolli)氏。

「なにしろゾウはとても特別な種で、彼らのことを基礎生物学の観点から理解することすら、まだ初歩的な段階に留まっているのです。しかし、我々Colossalのマンモスチームは粘りに粘って、とうとうiPS細胞を作り出すことに成功しました。このことは、のちにゾウによって介助される生殖技術を開発していくうえでも、マンモスの表現型の細胞モデルを生成していくうえでも非常に重要です。」

さらに、

この細胞の開発により、絶滅種の遺伝子と、その現代の子孫らの遺伝子や形質──たとえば極端な環境の変化や病原体などへの抵抗力など──とをつなぎ合わせることが可能になってきます

と同社の共同創始者のひとりで遺伝学者のジョージ・チャーチ(George Church)氏もコメントを寄せています。

で、一体どんな生物を復活させたいの?

Illustration: Dotted Yeti (Shutterstock) via Gizmodo US

Colossal社がつくり出そうとしているのは、アジアゾウ(Elephas maximus)の遺伝子を操作し、ケナガマンモスさながらのフッサフサな毛を生やして寒さ耐性を備えさせた生物。厳密に言えばマンモスじゃないけど、マンモスの遺伝子も受け継いでいる生物だからプロキシ(代理)種と呼ぶんだそうです。

ちなみに、Colossal社は1936年に絶滅したフクロオオカミのプロキシ種、そして1681年頃には絶滅していたであろうドードー鳥のプロキシ種をつくり出すことにも意欲的です。ほかにもRevive & Restoreという野生動物保護団体が同様の取り組みを行っており、すでに絶滅しているニューイングランドソウゲンライチョウリョコウバトの復活に力を入れているのだとか。

時とともに失われた遺伝子

プロキシ種をつくり出すことは、絶滅した種を現代に甦らせることとは違います。IUCNの種の保存委員会が2016年に発行したレポートにもあるように、

プロキシとは、絶滅種の表現型、行動、または生態などを表す代理という意味において使われる

のであって、また

プロキシは完全なコピーなる複製よりも望ましい

とされるそう。

そもそも、絶滅種の遺伝子を完全にコピーすること自体が難しいようです。

以前、インド洋のクリスマス島の固有種であったマクレアネズミを「復活」させようとしていた研究者たちは、時間の経過とともに失われてしまった遺伝子があることに気づきました。どれだけ過去からの細胞組織を探っても、現存している近縁種の細胞を探っても、埋め合わせが効かなかったのです。

研究者のうちのひとりは、米Gizmodoに対してこんなことを吐露していました。「本音を言うと、マクレアネズミを復活させたいわけではなかった。この世にはもう十分ネズミがいるし、同じ研究費を使うなら絶滅種を復活させるよりも今、絶滅の危機を迎えている生物を保護したほうがよっぽどいいだろうしね」と。この研究者、今ではColossal社の顧問に就任していたり。

それはさておき、現存する生物の細胞からつくられたiPS細胞が、すでに絶滅した生物のプロキシ種をつくり出すための大きな前進となることは間違いなし。それが今後の科学の発展において不可避だと考える科学者は多いのに対し、利便性が高いと考える科学者は少ないのですが。

マンモスのプロキシ種をつくってどうするの?

Screenshot: Colossal Biosciences

では、Colossal Biosciencesが実際にマンモスのプロキシ種をつくり出すことに成功し、マンモスっぽいなにかの大群を地球上に再生できたとして、なにかいいことってあるんでしょうか?

Colossal社の狙いは、マンモスっぽい群れをシベリアのツンドラ地帯に解き放ち、永久凍土が溶け出す速度を緩めることにあるそうです。かつてマンモスが暮らしていた時代にあった大草原地帯(steppe)を再構築できれば、温暖化対策になり得るとの考えが根底にあります。そのほかにも、遺伝子操作の技術の発展に貢献し、現存するゾウの種を保護する取り組みにつながるかもしれません。

ただし、そこまで到達するのにはまだまだ技術的な課題が多く残っています。Nature誌が指摘しているとおり、Colossal社はマンモスのプロキシ種をつくり出すために、まずはゾウの人工子宮を開発しなければなりません。アジアゾウは絶滅危惧種であり、アジアゾウのメスの子宮からプロキシ種をつくり出すなんて倫理的にもってのほかですからね…。

果たしてColossal社の挑戦は目標の5年以内に実現するのでしょうか。

Source: Colossal Biosciences, 京都大学iPS細胞研究所, Nature