ゼンハイザーが完全体に。人気イヤホンの品薄が改善した理由

いっぱい聞いちゃった。

2022年、みんな大好き高音質のオーディオメーカー、ゼンハイザーのコンシューマーエレクトロニクス部門が、補聴器や聴覚サポートデバイスの開発を行なっているスイスのメーカー、Sonovaに買収されたのは記憶に新しい出来事です。

Conversation Clear Plus(カンバセーションクリアプラス)」という聴覚サポートデバイスも発売され、Sonovaならではの色が濃くなってきたなという感じ。「今後ゼンハイザーはこっち方面にも力入れていくのかな? オーディオ関連製品はどうなるのかな?」と、ゼンハイザーのイヤホンやヘッドホンを使っている僕としては気になるところです。

Photo: 三浦一紀
Sonovaコンシューマーヒアリンググループ バイスプレジデント、マーティン・グリーダー氏

そんな折り、Sonovaのコンシューマーヒアリンググループバイスプレジデントであるマーティン・グリーダーさんが来日しているということで、お話を聞きに行きました。

ぶっちゃけ、ゼンハイザーってどうなるんですか?

Sonovaグループになってゼンハイザーは何が変わったの?

Sonovaは、補聴器や聴覚サポートデバイスの開発を手がけるメーカー。ゼンハイザーは、高品質なオーディオ製品のメーカー。なんとなく似ているようで、厳密には違うカテゴリーの製品を取り扱っている両社。

ゼンハイザーがSonovaグループになってからも、ゼンハイザー製品に大きな変更はなく、これまで同様高音質な製品を世に出しています。

しかし、目に見えないところではけっこう変わったことがあるようです。それは生産体制の強化

Sonovaは、生産工程の確固たる文化を持っています。1970年代のトヨタが確立したカンバン方式や方針管理、品質管理といった手法を取り入れてきました。その手法をゼンハイザーの部門にも適用しています。

Sonovaの社内では「カイゼン」「ゲンバ」「ホウシンカンリ」「ヒンシツカンリ」「ムダ」といった日本語がそのままの発音と意味で使われているとのこと。フジヤマ、テンプラ、トウフ、コウバンみたいな感じですかね。日本の生産業の概念が海外の企業文化になっているのは感慨深いものがあります。

そのようなゲンバのカイゼンを進めた結果、品質と業務効率がアップし、利益率も向上。その利益を事業に再投資することで、さらなる研究開発が進められるという好循環が生まれます。

これは一般消費者にもメリットをもたらします。

生産効率のアップにより、製品の市場投入までの時間を短縮できます。その結果、人気製品が在庫切れを起こしてお待たせすることがなくなります。

Image: ギズモード・ジャパン
しばらく品薄だったIE900

ゼンハイザーの高級イヤホン「IE900」は、人気すぎていつも品薄だったんですが(結構お高いのに)、設備への再投資ができるようになり、IE900の生産ラインをおよそ2倍に増強。Sonovaグループになったからこそ、実現できたことですね。

IE900に限らず、そのほかの製品に関しても生産体制の改善が進めば、ゼンハイザーのあらゆる製品が在庫切れになることなく買いやすくなります。これはうれしいことです。ベネフィット感じちゃう。

今年発売したヒアリングソリューション製品、どうなの?

僕らが「ゼンハイザーがSonovaグループになったんだなぁ」と大きく実感したのが、「Conversation Clear Plus」が発売されたときです。

Image: ギズモード・ジャパン
Conversation Clear Plus

この製品は、聞こえにくさを感じている人に向けたいわゆる聴覚サポート(ヒアリングエイド・ソリューション)デバイス。補聴器のような医療機器ではありませんが、周囲の音を聞きやすくするためのものです。

この分野の製品はSonova社の得意分野ですが、それをゼンハイザーブランドで発売。

Conversation Clear Plusは、Sonovaとゼンハイザーのいいところを融合した画期的な製品となっています。

これまでの聴覚サポートデバイスは、「聞こえやすさ」という点では実用的なものでしたが、音質面に関してはいいものではなかったんだとか。

しかし、ゼンハイザーの良さを組み込むことで、聞こえやすさと今までのヒアリングソリューション製品にはない音質の良さの両立を実現したのが、Conversation Clear Plusなのです。

一般的な聴覚サポートデバイスは、音質面ではまだまだ伸びしろがあります。Conversation Clear Plusはまだ完璧というわけではありませんが、これまでの製品に比べればとてもクリアに聞こえます。ゼンハイザーがSonovaグループになってから、このカテゴリの製品が第一弾なので、これからさらに機能を強化した製品を開発していきたいと思います。

ゲーミングへの進出はありますか?

ゼンハイザーがSonovaグループになったことで、今後はどういう製品展開をしていくつもりなのでしょうか。マーティンさんは3つの柱があると考えています。

弊社が展開している主要カテゴリは、ヒアリング、プレミアムヘッドホン、オーディオファイル製品です。この3つのカテゴリはそれぞれマーケット自体が大きくなっているので、我々の成長の可能性は非常に明るいでしょう。

実際にプレミアムヘッドセット市場は非常に苛烈ですが、市場規模は年平均10%近く成長しているので、我々にとってもチャンスだと思っています。

※ヒアリング=Conversation Clear Plusなどの聴覚サポートデバイス

※プレミアムヘッドホン=Momentumシリーズなどのハイエンド機

※オーディオファイル=IE900などのオーディオ愛好家向け機器

幅広い価格帯のオーディオ製品を手がけるゼンハイザーですが、そのなかでも高価格帯の製品に注力していくようです。僕らが手に届く金額の製品ですら、かなり高音質だと感じているのに、さらに本気出されたらノックアウトされそう(金額的にも)。

Image: ギズモード・ジャパン
テレビの音を聞こえやすくするイヤホン「TV Clear Set 2」

あと、気になることと言えばゲーミング市場への進出です。

EPOSが2023年11月末でゲーミングカテゴリから撤退を表明。これにより、12月からはゼンハイザーがゲーミング市場に打って出る可能性があるかもしれません。その辺、どうなんでしょう?

EPOSのゲーミング市場撤退を受けて、12月以降からは改めてゼンハイザーのゲーミング関連製品の位置付けを見直して、ゲーマー向け製品を模索していく予定です。最初の取り組みがうまくいけば、今後徐々にゲーミング製品を出していく可能性はあります。

すでにプロゲーマーのなかには、ヘッドホン「HD 599」などをゲーム中に使っている人も多くいますから、ゼンハイザーのゲーミング市場進出は楽しみですね。

ゲーミング市場自体はコロナ禍で爆発的に大きくなり、今は正常な状態に戻っているという感じです。そのため新規参入する企業はそれほど多くないと思っています。ただ、ゼンハイザーのようなブランド認知度が高いメーカーにとっては、成長のチャンスだと思っています。

日本のユーザーってどんな印象ですか?

最後に、マーティンさんに日本のユーザー、日本の市場はどのように見えているのか、お伺いしました。

日本は技術立国という面もあり、消費者が製品に使われている技術に対して知りたいという傾向が強いという印象です。もうひとつ、日本の方々は品質の価値を理解しているということ。品質がよければ多少高くてもお金を払うことを厭わない傾向があると思います。

家電量販店のイヤホンコーナーに、コーデックの解説が掲示されていたりするのは日本だけのようですからね。日本人ってちょっとスペック厨なところがあるとは思います。

ゼンハイザーは、海外ではその国だけのオリジナルデザインの限定モデルなども発売してますが、その日本エディションの可能性も模索中とか。どうやら、日本法人のスタッフさんが、猛烈にプッシュしているようです。これが実現したら、買っちゃうかも。

買収はメリットだらけだった

オーディオ好きなら誰もが知っているゼンハイザー。コンシューマー部門がSonovaグループになったことで、もしかしたら何かよからぬことが起こるのではないかとちょっと心配していたのですが、実際にお話を伺ってみたら、ゼンハイザーにとっていいことづくめでした。

それもこれも、Sonovaというグローバルで展開しているメーカーの持つ技術力と生産体制があればこそですね。一方Sonovaとしても、ゼンハイザーの持つ音質のノウハウをさまざまな製品に応用していけるのですから、WIN-WINな関係が成立していると言えます。