名古屋発の喫茶店チェーンである「珈琲所 コメダ珈琲店」。逆写真詐欺ともいわれるデカ盛りのメニューや居心地のよいカジュアルな内装が人気を博し、多くの顧客を惹きつけている。7月にはコメダ珈琲を運営するコメダホールディングス(HD)が、グループ全体で1000店舗を突破したと発表。コメダHDは、コメダ珈琲店以外にも、和風喫茶チェーンの「甘味喫茶おかげ庵」やベーカリー店舗「石窯パン工房ADEMOK」などのブランドを運営しており、ブランド全体で1000店舗を達成した。今年は創業55周年の年でもあり、同社のさらなる飛躍に期待が高まっている。
そんなコメダは、利益率がかなり高いことでも知られており、コーヒーショップ業界大手の「スターバックス コーヒー」「ドトールコーヒーショップ」を上回っている。実際に各社の直近の業績を見てみよう。
・スターバックス コーヒー(2022年度)
売上高 2539億円/営業利益 251億円/利益率 9.8%
※日本経済新聞に掲載された2022年度の決算公示より
・ドトール・日レスホールディングス(23年度2月期)
売上高 754億7900万円/営業利益 10億8400万円/利益率 1.4%
※同社決算におけるドトールコーヒーグループの売上高、セグメント利益を参照
・コメダHD(23年2月期)
売上高 378億円/営業利益 80億円/利益率 21.2%
上記のようにコメダHDは、売上高こそ2社に負けているものの、利益率はスタバの約2.2倍、ドトールの約15倍となっている。出店数や集客モデルなどの各社の掲げる戦略は異なるものの、なぜコメダはここまで高利益を実現できているのだろうか。そこで今回はフードアナリスト・重盛高雄氏にコメダの高収益の秘密について聞いた。
ドトールより客単価が1000円も高い? 魅力的なメニューの数々
コメダが高い利益率を誇っている要因として、客単価の高さが挙げられるという。
「普通のコーヒーチェーンは『コーヒー1杯にサンドイッチやスコーンなどのサイドメニューを1つ頼む』という客層をメインとして狙っており、客単価もそれに沿った額になるのが一般的。ドトールやスタバはこのビジネスモデルになっており、ドトールだと高くても客単価は500円ほど、スタバだと1000円前後が相場ですね。しかしコメダの場合、客単価のボリュームゾーンは1500円あたりになっているのです。
コメダはコーヒーのほかに、大ボリュームの食事メニュー『カツパン』(910~1000円)、『エビカツパン』(910~1000円)をはじめ、コメダを代表するスイーツメニュー『シロノワール』(670~740円)などもあり、幅広いメニューがラインナップされています。基本のコーヒー『コメダブレンド』が460~700円なので、そこにプラスして食事メニューを頼めばすぐに1500円ほどになります」(重盛氏)
そんなコメダの食事メニューは、一般的なコーヒーチェーンと比べて量もクオリティも圧倒的で、コストパフォーマンスが抜群に良いというイメージがある。
「そういったコスパがいいイメージがあるので、客も『このクオリティなら1000円以上出しても問題ない』と判断し、コメダへと足を運ぶのだと考えられます。またコメダでは、長居している客が追加注文する割合も高い。一般的に客が長居しすぎると、店の回転率が下がるので長時間滞在をお断りするお店も多いのですが、コメダでは混雑時を除き時間制限を設けていない店舗が多いのです。座席に座り続けている客が追加オーダーしてくれることが多いので、きちんと利益が出る仕組みになっているというわけです」(同)
FC展開でコスト減、ロイヤリティも低め…コメダとドトールの差
またコメダは、店舗の9割近くがFC(フランチャイズ)経営だからこそ利益を生み出しやすいそうだ。
「コメダ本部の売上の大部分は、FC店向けに卸すコーヒー豆や自社製造のパンなどが占めています。土地代や人件費などの固定費はFC店持ちとなっているので、本部にかかる経費を少なくし、利益率を高くできているのです。つまりコメダのビジネスモデルは、厳密に言えば卸売業に近いといえるでしょう。
かといって、本部がFC店からあこぎに搾取しているというわけでもなく、FC店側の売上や利益率も決して低くないのです。コメダでは、FC店が本部に支払うロイヤリティが売上比%ではなく、『1月あたり1席×1500円』という計算になっています。ですからコンビニのFC店よりは支払うロイヤリティが少なく、FC店側も利益を出しやすい仕組みになっているんです。コメダは主力となるメニューの強さ、店舗空間の快適さを武器にしつつ、本部とFC店のどちらにとっても得になるビジネスモデルを構築できていると評価できるでしょう」(同)
スタバは基本的に直営店のみだが、ドトールは7割近くの店舗がFC店になっているため、そういう意味ではドトールの経営スタイルはコメダに近いように思える。
「ただ、ドトールはコメダに比べて販売費、一般管理費の比率がかなり高く、かつ先ほどご説明したとおり客単価も低めのため、利益率も低くなりやすい。ドトールの利益率は、コロナ禍前は5%と6%の間で推移していたのですが、コロナの影響で客足が激減して固定費が経営を圧迫してしまい、利益率がさらに低くなってしまったようです」(同)
ちなみに冒頭でお伝えした売上高のデータが、スタバだけが桁違いに高かったのは、スタバはFC展開していないため全店舗の売上高が計上されているのに対し、コメダやドトールはFC店の売上高を計上していないことが理由だと考えられる。いずれにしてもコメダの高利益率ぶりには驚かされるが、スタバ9.8%に対してドトール1.4%と、この2社でも利益率に大きな開きがあるのも気になるところだ。
「要因はさまざまありますが、明暗を分けた最たる理由はマーケティング戦略の違いでしょう。ドトールは、コーヒーを1杯でも多く販売するために、店の回転率を上げて利益を確保するという戦略です。そして、より多くの客、とりわけサラリーマン層を開拓するために、ドトールでは喫煙を大々的にOKにしてきた歴史がありました。一方のスタバは、大前提として喫煙をNGにし、コーヒーの味と香りを楽しんでもらう、というイメージづくりを徹底してきました。新商品開発にも意欲的で、『美味しいコーヒーを飲みたいときはスタバ』と消費者心理をうまくつかむことに成功したのです。
イメージづくりは、その後のメニュー展開にも影響を及ぼします。ひたすらコーヒーで客数稼ぎをするドトールと、万人ウケし魅力的な新商品開発にも積極的だったスタバでは、客が『このお店にはこれぐらいの金額を使ってもいい』というラインも段違い。結果、今日の差に繋がったのだと考えられます」(同)
ロードサイドで着実に客確保、ファミレス業界に勝利する未来も?
スタバ、ドトールがコメダほどの高利益を出せない理由について、重盛氏は客単価に対する賃料の高さがネックになっていると指摘する。
「スタバ、ドトールのメイン出店地は、駅前など集客力が高いエリアに集中しています。しかし裏を返せば、賃料の高いエリアでもあるので、家賃負担が重くのしかかっているはず。またコーヒーチェーンという業態である都合上、販売管理費が高くなりがちなので、固定費がよりかさんでしまいます。
一方のコメダといえば、メインはロードサイドに店舗と駐車場を構えるスタイルで、車持ちの客層をターゲットに営業してきましたので、競合とうまく差別化できているといえます。また最近では、商業施設内にも進出しており、確実に利益を見込める場所へは積極的に展開しているようです。商圏が大きく、ファミリー層が多ければ、利益を見込めると判断したコメダなりの『勝ちパターン』を見つけたのかもしれません。
コメダは客単価の高い、魅力的な食事メニューを取り揃えており、並のファミレスチェーンでは太刀打ちできないクオリティを実現しています。ファミレスでコーヒーを飲むくらいなら、コメダに行きコーヒーとセットメニューを含め1500円払ってもいいと考える客は多いはず。今後はメニューの質を維持し、ファミレスでは満足できない層の獲得をしつつ、スタバやドトールから客を奪えるエリアで利益を見込めれば、近い将来コメダが飲食業界でさらに存在感を大きくしていく可能性は充分あると思います」(同)
(取材・文=A4studio、協力=重盛高雄/フードアナリスト)