現在も続いている米脚本家組合(WGA)と米俳優組合(SAG-AFTRA)によるハリウッドのストライキ。映像業界のAI導入やサブスク配信についてスタジオ側と意見が対立しています。スト長期化により、映画制作・公開に大きな遅れが発生。自分たちの活動の場を守りたいからこそ、公開作品の舞台挨拶やPRの場にも出席しない俳優陣も多くいます。
では、人間の代わりに、今、ハリウッドで作品の宣伝活動を行っているのは誰でしょう? スタジオ経営陣よりもずっと身近でキャッチーな存在。
正解は、作品に登場するロボットキャラたちです。
SF作品だからできる技
『ザ・クリエイター/創造者』からは、劇中に登場するAIロボットがスポーツイベントに出席。『スター・ウォーズ:アソーカ』からはドロイドのチョッパーがディズニーイベントステージに登壇。マーベルの『ロキ』からは、ミス・ミニッツが、その愛らしい見た目を最大限に発揮して作品アピールに務めています。
ロボ・AIキャラの中には、確かに人間が演じるキャラクターと同等、またはそれ以上の人気者がいますからね。確かに、スタジオ側からしたら今できる有効な手段です。
…企業の思うツボ?
PRに登場したキャラたちは、あくまでも脇役。ストーリーにおいても、主人公含む人間たちをサポートするために作られた存在です。記憶や個性があり、まるで人間と同じように動いたとしても、人間のツールという立ち位置に変わりはありません。
現状、現実世界のAIやロボットは、SFストーリーのようなパフォーマンスはありません。人間とロボットの間に、今は確実に存在するギャップ。ただ、それが年々小さくなってきてるのも事実。
今回のPR活動をみていると、それこそが企業側=スタジオ側がやろうとしている未来なのではないかという気がしてきませんか?
実在する俳優も、脚本家も監督もいない。カメラの向こうでロボや人形を操るスタッフもいない。登場するロボットの肖像権はスタジオが所有。作品を見るファンにとっては、感情移入かつ思い入れのあるキャラクターだとしても、スタジオにとっては知的財産だから、実態がない。だから、ストライキもしないし、権利も求めない…。人間みたいだけど、人間が自由に使えるツール。
ストライキ中も前に出続けるM3GAN
見た目が限りなく人間に近く、作中でも人間と生活をともにするSFホラー『M3GAN/ミーガン』のメインキャラM3GAN。ストライキ中も、イベントに登場しステージの上で踊り、配給元のユニバーサルの仕事をこなしています。
M3GANが存在するのは、声を務めた俳優がいて、キャラの人生を書いた脚本家がいるから。M3GANに動きをつけたパフォーマー、服を作ったデザイナー、メイクアップアーティスト、小道具や装具チーム。
数えきれない人間クリエイターの手によって、生まれてきたM3GAN。
人間不要のマーケティングを実現させてしまったM3GAN。
ロボットもAIも裏にいるのは人間
物語という架空の世界では、人間のキャラもロボ・AIキャラも本質は同じ。ストーリー展開のために、与えられた役柄をこなすパーツです。だからこそ、人間にもロボットにも、同じように人間のファンがつき、愛されています。
ハリウッドのストライキが長引けば長引くほど、ロボット・AIキャラが表にでていくシーンは増えるでしょう。スタジオは、人間の次に視聴者が作品に共感できる存在である彼らに頼るしかないからです。
でも忘れてはいけないのは、現実のロボットやAIは、SF世界の中の存在とは違うということ。そのロボット・AIキャラの後にいる何十人何百人という人間の姿を、見る人は、そしてなによりスタジオは忘れてはいけないのです。