言うまでもなく、生活の一部となっているプラスチック。
プラスチックは、ゴミ処理や海洋汚染などさまざまな問題を伴って近年語られるようになりましたが、人体への影響も危惧されています。
プラスチックのゴミ処理、つまり分解をキノコ(木材腐朽菌)が解決してくれるかもしれないと、Ars Technicaが伝えています。
木材腐朽菌によるプラスチック分解の研究
先日、プラスチックの分解に関する論文がPLOS ONEに掲載されました。
研究を行ない、論文を発表したのは、スリランカにあるケラニヤ大学とペラデニヤ大学の研究チームです。
論文では、ビニール袋やペットボトルなどあらゆる用途に使用されるプラスチックであるポリエチレンを木材腐朽菌が分解できることを発見したとのことです。
木材腐朽菌とは、その名の通り木材を腐食により劣化させる菌です。この菌の特筆すべき点は、木材の硬い成分であるリグニンやセルロースなど、難分解性物質を分解できることです。
ポリエチレンと木材の分解を比較する実験
さて、研究では木材腐朽能力を持つ22の真菌株をそれぞれ木材と低密度ポリエチレンのシートとともに分離し、どれだけ重量が減少したか(=分解できたか)の実験が行なわれました。
実験の手順を簡潔に書き出すと以下のようになります。
1. 木材腐朽菌を木材と低密度ポリエチレンシートとともに分離する
2. 同じ菌を低密度ポリエチレンシートのみと分離したものも用意する
3. すべてのサンプルを45日間培養する
4. サンプルの木材、低密度ポリエチレンシートそれぞれの重量減少量を計測・記録する
さて、その結果です。
木材は、前述のリグニンやセルロースの分解により、1.41~35.70%の重量減少が見られたとのこと。
一方の低密度ポリエチレンシートも、菌類の酵素により分子変換が起こり、劣化が確認されました。
ポリエチレンの重量は、4.18%~12.76%の減少が見られたそうです。
ポリエチレンシートのみのほうがより分解できた
さて、木材のないポリエチレンシートのみ分離されたサンプルでの結果は驚くべきものでした。
こちらは、7.37~23.68%の重量減少が観測されたのです。ほぼすべてのサンプルで木材がある場合より高い割合での重量減少が見られました。
真菌株のなかには、約2倍の減少が確認されたものもありました。
研究チームも、この「ほとんどのサンプルが木材がない場合においてより分解できた」という点を重要視しているとのこと。
ポリエチレンのみでの分解については、「リグニンとポリエチレンの間でいくつかの科学的性質が類似している」点も研究チームは指摘しています。それにより木材に含まれるリグニンを分解する場合と、そのパターンが同様であると考えられるようです。
また、真菌の酵素活性が、木材がない場合でも検出されたことも指摘されています。
これらのことから、木材腐朽菌は木材がない場合でも代替としてポリエチレンを分解する可能性が持てると結論づけました。
今後の課題
今回の研究で、木材腐朽菌がプラスチックを分解できる可能性が示されました。
一方で研究チームは、この分解のメカニズムの詳細をさらに研究する必要があります。
また冒頭に述べたように、プラスチックゴミの処理問題を解決するためにはまだ課題も多いでしょう。Ars Technicaが指摘しているように、実際にプラスチックゴミを処理するためには、大規模な作業が必要になりますし、そのための開発にも時間を要すると予想されます。
その実現にも期待しつつ、私たちはリユース、リサイクル、リデュースを続けていきましょう。
source: Ars Technica, PLOS ONE