自然界をテーマにした写真コンテストの興味深い作品9選

オープンアクセスの科学誌「BMC Ecology and Evolution」が写真コンテストを主催し、その受賞者やファイナリストが選出されました。

現在進められている保護活動絶滅した生物の調査などなど、これらの写真は、人間が世界を守るために(あるいは自然と共存していくために)いかに考えを尽くし、どんなアクション起こしているかを示すものともいえるでしょう。

自然界の動物や植物、菌類などさまざまな分野での写真をまとめてご紹介いたします。

海洋公園に無人潜水機を配備

Image: Victor Huertas

こちらは、オーストラリアのジェームスクック大学サンゴ礁生態学研究所の博士研究員Victor Huertas氏によって撮影されました。撮影場所は、オーストラリアの自然保護区・コーラルシーマリンパークという海洋公園

サンゴ礁域の近くに、遠隔操作型無人潜水機(ROV)を投下するチームの姿を映しています。この写真は「Research in Action」という部門の受賞作品です。

写真は、上下2セクション(青い空を背景とした表面とその下の浅い海)に分割している構図も評価を受けました。

スコットランドに打ち上げられたクジラの解剖

Photo: Submitted by Professor Paul Thompson, photo captured by James Bunyan from Tracks Ecology.

こちらは「Research in Action」部門の次点作品。

スコットランドにて座礁したザトウクジラを真上から撮影するという恐ろしさも感じる写真。ドローンにより撮影された写真の中の一枚で、解剖の記録や、写真測量技術を駆使してクジラの3Dモデル作成のための撮影だったとのこと。

このクジラは死亡しており、研究者がまさに解剖を行なっている瞬間が収められています。研究チームはクジラがロープなどに絡まり溺死したと結論づけたとのこと。

ギニアのチンパンジー保護センターのミツバチと飼育員

Photo: Robert García-Roa

「Protecting Our Planet」部門の受賞作品。

ギニアのチンパンジー保護センターが行なっている養蜂プロジェクトの写真。チンパンジー保護センターが養蜂?とちょっと困惑しますが、これには理由があります。

というのも、この地域で伝統的に行なわれている野生のミツバチでの蜂蜜採取は、森林破壊を引き起こす可能性があるそうです。そのため、サスティナブルなプロジェクトとして彼らが養蜂を行なっています。

また、この養蜂により得た収益はチンパンジー保護センターでの収入の一部となるそうです。

森林の保護ミツバチや植物の生態系の維持、そして収益によりチンパンジー保護をさらに推進できる、というひとつのプロジェクトにより多くの意味を見出せる良い事例といえます。

ポリネシアで放流された生まれたばかりのツマグロ

Image: Victor Huertas

「Protecting Our Planet」部門の次点作品。

フランス領ポリネシアにて、生まれたばかりのツマグロというサメを放流している写真です。

このツマグロは、生まれたての状態での生体データが収集され、その後タグを取り付けられています。研究者たちは、このタグによりツマグロが成長する過程をトラッキングします。

彼らは、温暖化による海水温度上昇で、ツマグロの幼体がどのような影響を受けるのか、という課題を解き明かすための調査としてこれらを行なっています。

菌に寄生されたゾンビアリとそのキノコにさらに寄生する別の菌類

Image: João Araújo

「Plants and Fungi」部門の受賞作品は、ニューヨーク植物園の菌類学者のJoão Araújo氏によって撮影されました。

ゾンビアリとは、寄生菌が昆虫に寄生し、その宿主の行動を操作するまでになるというもの。この写真は、ゾンビアリ化したアリとその菌の子実体(キノコ)にさらに寄生する菌類を捉えたものです。

これら菌類の生態と自然の複雑さを示したこの写真。科学者たちも菌類の進化に関してはまだ研究は続くとしています。

菌に覆われゾンビ化したクモ

Image: Roberto García-Roa

「Plants and Fungi」部門の次点作品は、同じく菌に寄生された虫ですが、こちらはゾンビ化したクモの写真です。

自然保護フォトグラファーのRoberto García-Roa氏の作品。同氏は、この写真について、

野生で菌類に寄生されて”ゾンビ化”した昆虫に遭遇するのは珍しくありませんが、大型のクモが菌類に支配される姿を見ることは希です。

と語っています。

この珍しいケースによって、あたかも毛深いクモのように見えるこの写真が生まれたわけですね。

約7000万年前のハドロサウルスの胎児を描いたイメージ

Image: Submitted by Jordan Mallon. Restoration by Wenyu Ren.

「Paleoecology」部門の受賞作品。こちらは少し趣向が変わり、卵の中で成長するハドロサウルス類を再現したデジタル画像です。

この画像はカナダ自然博物館の古生物学者のJordan Mallon氏らが、ハドロサウルス上科恐竜の卵と胚の化石という注目すべき発見について説明するために作成されました。

卵のサイズが比較的小さく、その中にあった恐竜の胚が特殊化されたものではないため、初期のハドロサウルス類は小さな卵を産み、晩成性の幼体を孵化させていたと考えられます。

と語りました。

くわえて

さらに派生したハドロサウルス類は最終的に体積にして4倍近く大きな卵を産み、それに応じて大きな幼体を孵化させていました。

とも述べています。

恐竜の血管の顕微鏡写真

Image: Dr. Jasmina Wiemann

「Paleoecology」部門の次点作品です。

こちらは、ディプロドクス科恐竜の血管を抽出した顕微鏡写真です。これらの細胞の残骸は、約1億5000万年前のものとのこと。

写真を発表したのは、シカゴのフィールド自然史博物館の分子古生物学者のJasmina Wiemann氏です。同氏は、血管を抽出した顕微鏡写真について以下のように説明しています。

かつては逆説的だと考えられていましたが、壊れやすい軟組織の保存は、化石化の際に起こるタンパク質や脂質、糖質の化学変化の結果であると、今日ではわかっています。

過去の生命のそのような証拠が途方もなく長い年月を経ても残っているのです。

こうした分子古生物学の分野は、絶滅した種の生理機能や生態、生物間の関係性や進化を分析する上で重要な研究といえます。

侵入性のあるオレンジ色多孔菌「Favolaschia calocera」

Image: Cornelia Sattler

最後に今回のコンテストの最高賞作品がこちらです。

オーストラリアの熱帯雨林で発見された侵入性のあるオレンジ色の多孔菌Favolaschia calocera」。

このようなきれいな見た目で、印象的な写真として撮影されているこの真菌は、未知の生態学的影響をもたらすといいます。

菌類は生態系のバランス維持に必要なものですが、この真菌がどのような影響を及ぼすかは注意深く観察し、理解する必要があるそうです。

選考委員のひとりのArne Traulsen氏は、以下のように述べています。

(こうした写真は)私たちの世界とは、まったく異なって見える世界を覗くことができます。

私たちの住む世界に存在しながら、私たちが見ている世界とは異なる世界のように見えるものもあります。自然界のそうした不思議や、あるいは驚異は私たちの想像を超えることもしばしば。

こうした世界を覗くことで、そのときに芽生えた興味は、自然界の生態や進化への理解を促し、自然を保護する(あるいは自然と共存していく)ためのアクションにつながっていくきっかけになるかもしれません。

Source: BMC Ecology and Evolution