数千年前の芸術が最新技術で明らかに。
国際的な研究チームが、作品にダメージを与えることなく元素の分布を可視化する「蛍光X線イメージング」という方法で約3100年前の古代エジプトの絵画2点を調査。
その結果、数千年間も肉眼では確認できなかった制作過程で手直しされた痕跡が明らかになったのです。
この研究は先日、PLoS ONEに掲載。筆頭著者でパリにあるソルボンヌ大学の研究員Philippe Martinez氏は、「マクロ撮影や多用途のX線、マルチまたはハイパースペクトルイメージングのおかげで、塗装された表面を分子レベルで深く調べることができた」と話しています。
対象となった2点の絵画
分析された絵画は、2点ともテーベ・ネクロポリスのトゥーム・チャペル(神殿型平地墓)にあった、ラムセス朝期(第19・20王朝とも、紀元前1330~1069年)の頃の作品。
1つはアメンホテプ3世の下の監督官Mennaの墓にあった彼自身が描かれた絵、もう1つは古代エジプトの第20王朝頃に葬祭殿の祭壇の神官だったNakhtamunの墓にあったラムセス2世の肖像画でした。
論文によれば、Mennaの絵画は「古代エジプト絵画の最高作として一般的に知られている」ものの、「Nakhtamunの絵は過小評価されたままで、難解なだけ」なんだそう。
何が隠されていたのか?
論文によれば、Mennaの絵画に紫外線を当てたところ「Mennaの3本目の腕が現れた」とのこと。
ほかに考えられる理由がなかったため、この腕は審美的な理由で消されたのだろうと予想されていますが、予想はできても古代エジプト人たちの美的感覚を知ることはできないと研究チームは考えています。
ラムセス2世の肖像画でも、いくつかの興味深いポイントが明らかになりました。1つに、このファラオには「エジプト絵画の中では滅多に表現されない」生え始めのヒゲが描かれていたこと。Martinez氏は「王であればなおさら珍しい」と述べています。
またこの肖像画では、完成作から「shebyu」という黄金の首飾りが消えていることも発覚しています。この首飾りはラムセス2世の描写ではあまり見られないモノなんだそう。
古代エジプトの絵画は何世紀にもわたって研究されてきましたが、考古学に使われるテクノロジーはこの数十年間で随分と進歩しました。今では、研究者たちはこのような古代芸術作品の顔料の層を非侵襲的にめくることができ、作品の下書きを詳しく調べられるようになったのです。
最新の技術で見直せば、古代エジプトでの芸術制作の詳細だけでなく、画家と絵画のテーマが宗教やほかの文化的な慣行をどう捉えていたかも明らかになるかもしれません。