3月7日に朝日新聞デジタルが報じたところによると、手作りビーカープリンブランドの「MARLOWE(マーロウ)」の業績が右肩上がりで、しかも40年間も好調が続いているという。コロナ禍で飲食業界が軒並みダメージを受けているなか、好調を維持できている秘密はいったいどこにあるのだろうか。フードアナリストの重盛高雄氏に、マーロウの人気の秘密を分析してもらった。
ブランディングが秀逸なマーロウのプリン
「マーロウのプリンにはいろいろなフレーバーがありますが、主力商品の『カスタードプリン』(税込734円)の材料は、牛乳・卵・上白糖・バニラビーンズという非常にシンプルなもの。それゆえに北海道の根室や釧路で育った乳牛からとれる牛乳や、植物性原料を食べている鶏が産む食菜卵など、食材には非常にこだわっています。食べると懐かしい味なのですが雑味や安っぽさがなく、非常に洗練された王道の味といえるでしょう。
マーロウのプリンは、数年前までブームになっていた『なめらかプリン』とは異なり、なめらかさは残しつつも、どちらかというと『昭和の固めプリン』に近い食感になっています。近年はZ世代を中心に昭和レトロがインスタ映えすると人気ですが、こうしたブームにもうまくマッチしていますよね。また、近年増えていたカップのまま食べるスタイルではなくお皿に開けて食べるスタイルなので、頭に浮かぶプリンのイメージそのままのビジュアルで楽しめるのもいいですね」(重盛氏)
マーロウのプリンへのこだわりは、味以外の面でも光るものがあるという。
「店名のマーロウというのは、アメリカの小説家レイモンド・チャンドラーが生み出した、私立探偵フィリップ・マーロウから来ています。ブランドロゴのベースにもなっているこのフィリップ・マーロウの、硬派でハードボイルドなキャラクター像は、同ブランドのシンプルな味を追い求める姿勢にリンクするものがあります。
また、プリンが入った特徴的なビーカーの容器も、ブランドのイメージ作りに貢献していますね。食べた後に洗ってコレクションしたくなるほどしっかりとした作りなうえ、限定のフレーバーなどで毎回異なるデザインになっているので、海外産の珍しいビール瓶を集めてしまう感覚でつい手元に置いておきたくなるのです。味は王道でも、こうした部分できっちりと個性と名前を消費者に印象付けているので、『美味しかったけどあの店の名前なんだっけ?』と忘れ去られづらいのもうまい戦略です」(同)
「急がば回れ」で地に足のついた店舗展開
マーロウとはどういった出自の企業なのか。
「1984年に横須賀市の秋谷で創業された『カフェ&レストラン マーロウ』がその始まりです。創業者であり会長の白銀正幸氏は、スーパーマーケット『ダイエー』のバイヤーを長年務めていた人物。飲食は素人だったそうですが、1980年代になって故郷である横須賀に戻り、三浦半島で獲れる新鮮な魚介類などを使った地産地消の飲食店を作ろうと、同店をオープンさせたそうです。
そこから15年以上地元で愛されるなかで、デザートのプリンがお客さんから好評を博し、あるとき『ぜひ家に持って帰りたい』と言われたのだそうです。その際にプリンの調理に使っていた耐熱ビーカーのまま提供したことで、同グループの看板商品となったビーカー入りのプリンが誕生しました」(同)
それ以後の足跡も気になるところ。
「プリンが好評になった後の2000年にオンラインショップを開設したほか、2店目となる『マーロウ そごう横浜店』をオープンしています。04年には現在の『葉山マリーナ店』をオープンし、続く10年にテイクアウト専門店となる『逗子駅前店』もオープンしています。それまでは発祥の地である神奈川でのみ展開していましたが、17年に初めて東京に進出。テイクアウト専門の『GINZA SIX店』をオープンさせました。創業者の白銀氏は公式ホームページで『ただただ愚直に目の前のお客様に喜んでいただくために、 お客様が期待していることのほんの少し上をご提供することを38年間続けてきた』と語っていますが、地元特化でスタートしたときの気概を忘れない、地に足のついた店舗展開をしてきたという印象です」(同)
二極化する中間の「プチ贅沢」的な需要
そんなマーロウが好調な理由は何か。
「もともとバイヤーとしてその辣腕を振るってきた白銀氏の経営戦略が、うまく機能してきたことが理由でしょう。というのも同社は実店舗での展開はさほど急がず、まずはオンライン販売で10年じっくりとブランドが広まっていくのを待つという戦略をとっていました。初期からプリンメインの実店舗をどんどんオープンさせても、それでは知名度が広まりにくいと考え、まずはオンライン販売に注力したのでしょう。また、地元の神奈川から出て東京進出する際の店舗選びも秀逸で、東京出店の足がかりとして高級洋菓子店が集まる銀座を選んだのもうまいですね。『高品質なプリンを提供する』という同社のポリシーとブランディングに合った、的確な戦略といえるでしょう」(同)
そんなマーロウだが、近年はコロナ禍が追い風になっていたのだという。
「メディアのインタビューで白銀氏は『40年以上好調を維持している』と語っていますが、確かに好調ぶりがうかがえます。20年に『西武池袋本店』をオープンし、すでに出店していたそごう横浜内に、飲食できる『マーロウブラザーズコーヒー』というカフェもオープンしています。22年には同ブランド初となる大規模工場『MARLOWE YOKOSUKA FACTORY』も作っていますからね。コロナ禍でも業績を伸ばしていた、からあげ専門店などは中食需要をうまく捉えたものでしたが、マーロウもこの中食需要にマッチして、流れに乗れたのだと思います」(同)
現在の洋菓子業界のなかでマーロウはどんな立ち位置になっているのか。
「洋菓子業界における消費傾向は、厳しいお財布事情を捉えた低価格路線と、その反発から需要の高まっている、質にこだわった高価格路線で二分化していています。そんななかで1個1000円未満という価格帯を保ちつつも、味にこだわったマーロウのプリンは、両方の需要をうまく捉えたプチ贅沢的な需要を満たしているので、今後も伸びていくでしょう」(同)
「洗練された王道の味わい」と「堅実かつ的確な経営戦略」が、40年間も好調を維持し続ける理由だったようだ。
(文=A4studio、協力=重盛高雄/フードアナリスト)