オンラインストレージサービス「Dropbox」で知られるDropboxが提供する電子署名サービス「Dropbox Sign」で、実際の利用金額(税込み)は2万1120円なのにもかかわらず、請求書とクレジットカードの利用代金明細では211万2000円となっており、カードの締め日までに問題が解決しなければ翌月に自動的にその金額が銀行口座から引き落とされてしまうという事象が発生している。海外事業者が提供するサービスでは同様の事象がしばしば発生するという指摘もみられるが、その原因は何なのか。そしてDropboxはどのような対応を取る予定なのだろうか――。
「Dropbox Signのダッシュボード上では1年分の利用料として2万1120円と記載されているのですが、発行された請求書をみると、なぜかちょうど『0』が2つ多く211万2000円となっていることに気が付きました。クレジットカードの利用代金明細もその金額になっていたのでカード会社に問い合わせたところ、毎月の締め日である15日までに解決しないと、いったん来月10日には引き落とされてしまうとのことです。のちのち返金処理されるとは思うので心配はしていませんが……」
こう体験を語るのは、サービスデザインを手掛けるアンカーデザイン株式会社の代表取締役兼CEO、木浦幹雄氏だ。Dropboxに限らず、個人で「Amazon Web Services(AWS)」や「Google ドライブ」「Adobe Creative Cloud」など海外事業者が提供するサービスを利用することは一般的になった。個人利用であれば月々の請求金額は数百円から数千円程度であり、カード決済で銀行口座からの自動引き落としに設定して、毎月の請求金額をチェックしていないという人も多いのではないだろうか。
<Facebookの広告請求で以前同じようなことありました>
だが、もし仮に実際の利用金額が月1000円であるにもかかわらず「0」が2つ多い10万円を請求されれば、年額で120万円となり、気が付かないままだとその損失額は決して見逃せないレベルとなる。木浦氏は今回の経験を踏まえて「利用するサービスやカードの利用明細書は常日頃からちゃんと確認しないといけないと、改めて実感しています」と語るが、SNS上の声をみると、Dropboxに限らず海外サービスの利用で誤請求が生じるケースはたびたび発生しているようだ。
<Facebookの広告請求で以前同じようなことありました。。0二つ多いだろうという。ゾッとしましたが、しばらく経ったら治ってました。バグってる可能性高いです>(原文ママ、以下同)
<米国中心で作られてるシステムでは金額を記録するときにセントの小数を避けるため100倍して整数にしてから保存することが多いので、決済代行業者に任せず自前で実装するとこういうバグが起きがち>
<Stripe でセントが無い通貨への請求が100倍になる罠があるんだけど、関係してるかも>
<システム的に 21100.00 になってて、それがなぜかバグって 2100000 になったんだと思います。海外のサービスを使うときにたまにありますね;Dropboxではありませんが、私も経験あります>
<ゼロ二つ増える現象は、決済システムにおける、ドル以下(セント)の単位の変換ミスかもしれません。100.00円->10000円 経験上ですが、こういう処理をしてしまう決済サービスが以前ありました>
システム開発会社のSEはいう。
「日本に住んでいると『企業からの請求金額が間違えているはずはない』という感覚になりがちだが、もし仮に誤った金額の料金が口座から引き落とされ、一定期間過ぎた後に気が付いても取り返しがつかなくなるケースも考えられる。特に現在では郵送どころかメールでも請求書や請求金額の通知が来ず、利用者自らサイトのマイページを見に行かないと金額を確認できないケースもあるので、カードの利用明細も含めて月1回はチェックするという習慣が重要でしょう」
通貨の換算が問題を起こす一つの原因
木浦氏は14日にDropbox側から「お問い合わせ頂いた件に関しまして確認し、弊社のミスにより問題が発生しましたことをお詫び申し上げます。また、こちらで適切な返金手続きを行います」との連絡を受けたというが、海外サービスでこうした誤請求の例は多いのか。ITジャーナリストの山口健太氏はいう。
「海外から100倍の金額で請求が送られてきたという事例は、過去に何度か報告されています。Dropboxには日本法人もありますが、サービスの契約先はアイルランド法人です。そのため、世界各国の通貨の違いを考慮した料金請求には慣れているはずですが、何らかの理由でバグが発生し、誤請求に至った可能性があります」
海外サービスで誤請求が発生する原因は何だと考えられるのか。
「日本では日常的な決済に小数点以下の数字を使うことはありませんが、そうした国は珍
しく、北米や欧州など多くの国では小数点以下2桁まで扱います。こうした国に合わせる
と『100円』は『100.00円』となりますが、システムでは整数のほうが処理しやすいため、小数点を省いて『10000』として扱う場合があります。これは『10000銭』といえる状態ですが、日本の通貨には小数点がないものとして扱う別のシステムを通すと『10000円』になってしまいます。また、日本や米国で小数点を表す記号はピリオドですが、これは世界共通ではなく、欧州など一部の国では小数点にコンマを使います。これも通貨の換算で問題を起こす原因の1つになります」
Dropboxでは、こうした誤請求は他にも発生しているのか、また原因はなんなのか、当サイトは運営会社に問い合わせ中だが、回答があり次第、追記する。
(文=Business Journal編集部、協力=山口健太/ITジャーナリスト)