月から運ばれる微生物による汚染から地球を守るためのアポロ11号の「検疫プロトコル」はほぼ無意味だった

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by NASA

アポロ計画の実施にあたり、政府や科学者は月から微生物を持ち帰ってしまうと地球環境に影響を及ぼすおそれがあるとして、宇宙船や宇宙飛行士、搭載機器、回収したサンプルに対する検疫プロトコルを設定しました。しかし、このプロトコルは、社会に起きそうもないリスクより宇宙飛行士に起こりそうなリスクを優先したもので、実際にはほぼ無意味なものだったことが指摘されています。

One Small Step for Man, One Giant Leap for Moon Microbes? Interpretations of Risk and the Limits of Quarantine in NASA’s Apollo Program
https://doi.org/10.1086/724888


NASA’s Apollo 11 Moon Quarantine Was Mostly for Show, Study Says – The New York Times
https://www.nytimes.com/2023/06/09/science/nasa-moon-quarantine.html

The Apollo moon landing was real, but NASA’s quarantine procedure was not | Live Science
https://www.livescience.com/space/the-moon/the-apollo-moon-landing-was-real-but-nasas-quarantine-procedure-was-not

1969年、アポロ11号は史上初めて人類による月面着陸ミッションに成功しました。この当時、アメリカもソ連も月からの探査機を地球に無事帰還させることはまだできておらず、月に生物がいるのかいないのか、誰にもわかっていませんでした。

しかし、仮に何らかの生物がいて、月探査機に付着して地球にやってきた場合、どんな汚染が発生するかわからないため、NASAはヒューストンに隔離施設「月受信研究所(LRL:Lunar Receiving Laboratory)」を建設。アポロ11号に搭乗した宇宙飛行士3名は、地球に帰還後、3週間をこの施設で過ごしました。

約1年がかりで建設されたLRL

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LRLの乗組員寝室でイスに座っている宇宙飛行士マイケル・コリンズ氏。これは1967年、施設完成時に説明を受けているときの写真。このあと、自分が実際にアポロ11号のミッションに参加し、LRLで隔離措置を受けることになるとは本人も知りません。

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ミッションに参加した宇宙飛行士の1人、ニール・アームストロング氏は隔離期間中に39歳の誕生日を迎えました。LRL内で誕生日パーティーをしたときの映像があります。

Armstrong’s Birthday in the LRL – YouTube
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LRL内で、アポロ11号の持ち帰った月の土壌が植物に与える影響を調べる植物学者チャールズ・H・ウォーキンショー氏。

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ニクソン大統領が隔離施設内の3人の宇宙飛行士に会いに来た写真もよく知られています。

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しかし、このLRLは見せかけにすぎず、検疫プロトコルも不適切なものだったと、ジョージタウン大学のダゴマー・デグルート氏は指摘しています。

たとえば、アポロ計画の宇宙船は、潜在的な月の汚染物質が地球環境にさらされることを防ぐようには設計されていませんでした。太平洋に着水したカプセルは、飛行士が脱出するためにハッチが全開になる上、大気圏に再突入した時点で乗員の二酸化炭素中毒を防ぐため、モジュール内の空気は大気中に排出されていました。

NASAは、もともとアポロ11号の宇宙飛行士たちが月から疫病を持って帰ってくるリスクは極めて低いことを知りつつ、国民がパニックにならないように、「微生物の脅威は封じ込められる」と見せつけるためにLRLを作ったのだというのがデグルート氏の指摘です。

仮にアポロ11号がなんらかの微生物を持ち帰っていた場合に、地球の環境にどんな影響があったか、危険性はあったのかを言及するのは難しいものの、このときの失敗は今後、火星やその他の惑星から宇宙飛行士やサンプルを地球に運ぶことを目的としたミッションを行うにあたって貴重な教訓になる可能性があるとデグルート氏は述べています。

なお、NASAの研究者によると、月の南極近くの過酷な条件下でも微生物が生息している可能性はあるとのこと。NASAはアポロ計画以来となる有人月面着陸ミッション「アルテミス計画」を推進中で、この微生物との接触が発生するかもしれません。

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