ネバネバの粘液を出す巨大なトウモロコシが世界の農業を変える可能性

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メキシコの一部の地域では、最大16~20フィート(約4.8mから6m)にまで成長するトウモロコシの品種があることが知られており、このトウモロコシの根から出る粘液が、化学的な肥料を使用した、従来の穀物の栽培方法を大きく変える可能性が期待されています。

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メキシコ南部のトトンテペックで栽培されているトウモロコシは、一般的なトウモロコシの高さである8フィート(約2.4m)から10フィート(約3m)を優に超え、最大で20フィートにまで成長します。


このトウモロコシの特徴は、地上から数mの高さにある根から放出されるベトベトした粘液です。


このトウモロコシはメキシコ南部のトトンテペックにおいて何世紀にもわたり、現地の農家によって大切に扱われてきました。


現地でトウモロコシ農家として働くトレンティノ・オルテガ・リベラ氏は「私がこのトウモロコシの栽培に携わり始めたのは13歳の時でした。私が幼いころは、トウモロコシの根から出る粘液で遊んだものです」と語っています。また「根から出る粘液の正体が何なのか、なぜにじみ出てくるのか分かりませんが、私たちにとって、このトウモロコシはとても大切なものです」と述べています。


しかし粘液を出すトウモロコシのうわさは科学者の耳にも届き、ハワード・ヤナ・シャピロ氏も「粘液を出す巨大なトウモロコシがある」という話を聞いたとのこと。現地に赴いたシャピロ氏はこのトウモロコシを見て、「神話のような大きさで、私は目を疑いました」と振り返っています。


トウモロコシの観察を行ったシャピロ氏によると、このトウモロコシの気根からは、ひとりでに粘度が高い粘液質の物質が染み出していたとのこと。またシャピロ氏は「この粘液がトウモロコシ自身に肥料を与えているように見えました」と述べ、「つまり、トウモロコシ農家は人工的な肥料をほとんど与えなくてもトウモロコシは大きく育ちます」と報告しています。


トウモロコシが自身の根から染み出す粘液によって成長できる要因をシャピロ氏は「窒素固定です」と強調しています。


窒素はすべての植物の成長に必要不可欠な要素で、植物においてタンパク質や葉緑素の主要な構成要素の役割を果たしています。


しかし、窒素は空気中に多量に存在するものの、そのまま使用することは困難で、窒素を活用するにはアンモニア硝酸塩二酸化窒素などの反応性が高い他の窒素化合物に変換する必要があります。このプロセスが「窒素固定」です。


窒素固定に必要な根粒菌と共生する一部のマメ科の植物を除く、多くの植物は大気中の窒素をアンモニア等の窒素化合物に変換して利用する事ができないとされています。


世界の多くの地域でトウモロコシや小麦、米、キビなどの穀物が生産されていますが、どの穀物も自力で窒素を固定することはできません。そこで、窒素を多く含む化学的な肥料を大量に散布して、穀物に栄養を与えるとともに、収穫量を増やしています。


しかし、化学肥料を散布しても多くの植物はその半分程度しか取り込むことができず、残った化学肥料は水源を汚染し、水源の富栄養化に伴う赤潮などが発生して魚類の大量死などを引き起こすとされています。


また、経済的に貧しい国では、化学肥料を購入することができず、その結果食糧難に陥る可能性が指摘されています。そのため、化学肥料を使わずに食糧難などの問題を解決できる農業の実現が望まれています。


メキシコで見つかった窒素固定が可能なトウモロコシは「オロトン」と呼ばれ、何世紀にもわたって地域住民の間で秘密にされていました。


そこでシャピロ氏はトトンテペックの地域社会の協力を得てオロトンの研究を行いました。


メキシコ在住の科学者やトトンテペックの住民らとの共同での研究の結果、粘液の中に本来土の中にいる窒素固定菌が多く含まれていることが判明しました。また、ゲル状の粘液は窒素固定菌を保護するシールドの役割を担っていることが明らかになっています。


窒素固定菌の活動に必要な嫌気的な環境が粘液によって作り出され、窒素固定菌は大気中の窒素を植物が成長に役立てることができる形に変換することが可能です。


粘液と窒素固定菌の働きにより、このトウモロコシは成長に必要な窒素の最大80%をそのまま空気中から直接取り入れることが可能だとされています。


一方でシャピロ氏の発見以降、「このトウモロコシの権利は誰にあるのだ」といったトウモロコシの権利を主張する声が多方面から上がるようになりました。


生物原料の流通に関する倫理組合(UEBT)のマリア・ジュリア・オリバ氏ははこのような意見を「Biopiracy(生物学的海賊行為)」と呼び、研究や製品開発のために生物を不正に利用することを批判しています。


オリバ氏によると、オロトンの場合、このトウモロコシを研究する場合、事前に地域コミュニティとの同意が必要で、商用化する場合は利益の一部を地域コミュニティと共有する協定を結ぶ必要があります。


協定では、売れたトウモロコシの種1粒につき半分のロイヤリティを企業は地域コミュニティに対して支払わなければならないと規定されています。


種子バイオテクノロジーセンターのアレン・ヴァン・デインズ氏は「トトンテペックの住民の協力があったからこそ、私たちは研究を進めることができました」と述べています。


次なる研究として、このトウモロコシを他の品種と交配させ、窒素固定が可能という性質を持った新たなトウモロコシの品種を開発する研究が進んでいます。


さまざまな企業などによる研究開発の結果、栽培に要する時間を半減することに成功し、空気中の窒素の約40%を固定できるようになったことが報告されています。


さらに今後は窒素固定が可能なトウモロコシだけにとどまらず、窒素固定が可能な稲や小麦、キビなどの研究が行われる可能性が示唆されています。


また窒素固定穀物の開発によって化学肥料の使用量が減少する、新たな穀物栽培の可能性が期待されています。


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