南国の無人販売所めぐりは極上のエンターテインメントなのです。
旅の思い出や場所の記憶を持ち帰るのにかかせないアイテムがお土産である。せっかくだからそこでしか手に入らないものがほしい。特産物や自治体のゴミ袋なんかもそうだけど、奄美や沖縄など南西諸島にお出かけの折にはぜひ、無人販売所をのぞいてみてほしい。
まさにその時に、そこでしか会えない逸品が、静かに私たちとの出会いを待っている。
徳之島は無人販売所のエルドラド
毒蛇のハブを探して奄美諸島のハブのいる島を巡っている。だから徳之島も当然巡るのだが、随所で無人販売所が視界に入ってきてなんかいいねえ、となってその無人販売所を巡ることとなる。
形状やロケーションだけでなく売り物にも興味津々。でかい瓜やゴーヤなどとれたて野菜がごろっと並び、付けられた値段はタイムスリップでもしたのかと思うほどにリーズナブル。
しかし野菜とかは地元の人たちの間で流通すべきもので来訪者はなあ、となんとなく遠慮していたのだが、品揃えはそういった類のものだけではなかった。
奄美大島と徳之島だけに住むアマミノクロウサギのくろかわいい手作りアクセサリーだ。地元の誰かが作ったものだろうか。こんなん買うでしょ、買うしかないでしょ。
手に取って小銭を探していると、「こんにちは、ありがとうございます」と声をかけられた。たまたま販売所を見に来た近くに住む親子の方で、私がまさに買わんとしているアクセサリーの作者がそのお子さんだったのだ。
アクセサリーの感想から話は広がった。島に移住してきたいきさつやハブのこと、コロナのこと。レンズのでかいカメラをセミプロっぽく持ってるけどさっき見つけて撮影したアカヒゲ(オレンジがきれいなスズメみたいな鳥)はボケボケだったこと。
「ハブはさておき、島に来てくれるのはうれしいですね」と言ってもらった。
翌年も来たらアクセサリーは無かった。あの子はまた他の何かを作っているだろうか。
島の北側で集落の入り口にたたずむコンパクトな販売所ではドラゴンフルーツと一緒に貝やさんご細工が売られていた。
県道の路側帯では黄色いアダンの販売所が他にはない存在感を放っていた。
アダンとは南西諸島の海岸近くでよく見かけるタコノキ科の植物で、手榴弾の親分みたいな形の実でおなじみだ。
沖縄では新芽を炒めて食べたりするようだし、こちらでもニーズがあるのかしらんとのぞいてみたがアダンは無く、ドラゴンフルーツが売られていた。
それを買いにきた地元のご夫婦がドラゴンフルーツを1つわけてくれた。関西のほうから移住してきたらしい。無人販売所はぜんぜん無人ではなかった。
竹富島の販売所ではスターな砂
ハブを探して奄美だけでなく沖縄の八重山諸島も巡っている。だから竹富島も当然巡るのだが、竹富島の無人販売所にはファンシーとロマンがあった。
島の西側のビーチ、カイジ浜は星砂が見られることで有名だ。
砂といっても星型のおっとっと(森永のぷっくりとしたスナック菓子)みたいなフォルムをした有孔虫類の死骸が堆積したやつなのだが、浜からの持ち出しは禁じられていいるので島内のみやげ店か無人販売所で手に入れるしかない。
見つけたら買うという判断でまったく問題ない。
小浜島、マザーコンピューターのような貝
なんせ巡る対象がハブのいる島なので他にもいろいろ巡っているのだが、ヤギとちゅらさんの島、小浜島ではとんでもない逸品との出会いがあった。
小浜島の貝がらをふんだんに使った置物がところせましと並んでいる。
幾何学的でありながらどこか原生的で生々しく、太古の昔に生きていたホヤみたいな貝にも見えてくる。なんともいえない奇妙なフォルムが心をとらえて離さない。
立派なタカラガイがたくさんの貝をしたがえたマザーコンピューターのようなオブジェを500円で手に入れた。
練馬の自宅で本棚の上に飾って、なんというか、ここからしか得られないミネラルを受け取り、またすぐ島へ行きたくなった。
「ここでしか買えない」とはみやげ物の売り文句でしばしば目にするフレーズだが、この「ここでしか」の貴重さはやばい。
おしゃか様は「盲亀浮木(もうきふぼく)っていいましてね」と人が人として生まれてくる貴重さや出会いの有り難さを「百年に一度海の底から上がってくる盲目の亀が海面に浮かんでいる浮木に開いた穴にちょうど頭を突っ込んで顔を出すようなもの」と説いたという。
たまの休みの旅先でのこうした出会いも、いやあ盲亀が浮木ってますよねという感じではないだろうか。
自分でも何を言っているのかよくわからないし、なんだかんだ結構なお金を使っている気がしないでもないが実質0円なのでまったく問題ない。