数多くの非営利団体や大学のプログラマティック広告が、誤った情報を提供する不適切なWebサイトに掲載されているというレポートが、ニュースの信頼性格付けサービスを提供するニュースガード(NewsGuard)によって5月12日に発表された。なかには出稿元の機関がめざす使命と明らかに相反するサイトに広告が掲載されている事例もあるという。
同社の調査によると、薬草を使った危険な中絶方法を奨励するWebサイトに、全米家族計画連盟(Planned Parenthood)の広告が掲載されていたという。ほかにも、アムネスティ・インターナショナル(Amnesty International)や赤十字社などの団体の広告が、ウクライナ戦争に関連して親ロシア派のプロパガンダを展開することで知られるWebサイトに表示されていたそうだ。
また、新型コロナワクチンに関する誤情報と並んで、各種保健機関や米国の大学の広告が表示された事例も報告されている。このレポートは、適切なアカウンタビリティを実現するにはあまりにも複雑で不透明だという声を代弁するような、プログラマティックプラットフォームが抱える問題を浮き彫りにするものだ。
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広告主は不適切なサイトの収益に貢献してしまっている
誤情報を発信しているとニュースガードが判定した50のWebサイトに掲載された57の非営利団体と政府機関の広告を取り上げるこのレポートは、ニュースガードが欧州委員会の共同研究センターとともに進めている取り組みの一環だ。同時に、さまざまなコンテンツ形態やプラットフォームにわたる誤情報の問題について、ニュースガードがここ数カ月のうちに発表したいくつものレポートのひとつでもある。
ほかにも、ニュースガードでは過去1年のあいだにAI生成コンテンツのコンテンツファーム、ChatGPTにおける偽情報、TikTokの検索エンジンの誤情報問題などに関する調査レポートを発表している。
今回の最新のレポートに含まれる広告の数は108件のみだが、それらは誤情報の収益化――ときには善意の団体が、自分たちが取り組んでいる問題そのものに資金を提供するはめになっている――の問題をよく表している。レポートでは、この調査結果がアドテクのエコシステムにおける不透明性と複雑性を浮き彫りにしている、とも論じている(ニュースガードとコムスコア[ComScore]によると、2021年に広告主が誤情報Webサイトに投じてしまった金額は年間26億ドル[約3380億円]に上る)。
透明性の乏しいプログラマティック広告
ニュースガードの共同編集長であり、共同CEOを務めるスティーブン・ブリル氏は、「広告主がまさに避けたいと思っているサイトに広告料や広告が送り込まれている」と話す。ニュースガードが特定したWebサイトに表示される広告の数は少ないとはいえ、誤情報は全体的に大きな問題であり続けている。
スタンフォード大学が4月に学術誌「ネイチャー・ヒューマン・ビヘイビア(Nature Human Behavior)」に発表した論文では、2020年の米大統領選挙期間中にあった誤情報Webサイトの訪問件数15億件のうち、6800万件は米国人の訪問だったと推定されている。だがそれでも、米国人の44.3%が誤情報Webサイトを訪れたとされる2016年の大統領選に比べると、2020年は26.2%と状況は改善しているのだ。
無数のWebサイトを特定してアドサーバーから除外していく作業は、Googleのような企業にとってはもぐらたたき的な様相を呈するかもしれない。ニュースガードによれば、Googleはレポートで取り上げられた広告の70%を掲載している(残りはヤフー[Yahoo]などのほかの広告プラットフォーム、または不明)。
「プログラマティック広告にもっと透明性があったとしたら、業界はずいぶん前に改革されていたはずだ」と話すのは、ニュースガードの共同CEOで共同編集長のゴードン・クロヴィッツ氏だ。「これは解決が難しい問題ではない」。
Googleの対応は間に合っているのか?
Googleのスポークスパーソンであるマイケル・アシマン氏は、調査結果に関するコメントの依頼に対し、同社が誤情報の拡散と収益化に関するポリシーの拡充に「近年大量に資金を投じている」と回答した。
同氏によると、Googleはニュースガードから知らされた「少数の事例」を検討し、Googleのコンテンツポリシーに違反するページを広告配信先から除外しているという。ニュースガードがGoogleに知らせたWebサイトには、サイト内のページ単位ではすでに除外対象になっているものもあったようだ。だが、「ニュースガードがレポート全体を共有することを拒み、具体的なWebサイトとそこに表示される広告の完全なリストも提供しないため、調査結果全体に関するGoogleのコメントは出せない」と、同氏は述べた。
同氏は米DIGIDAYに対し、「Googleでは、当社プラットフォーム上で広告が誤情報とともに表示されないように幅広い対策を設けている。選挙に関する偽の主張、気候変動否定論、新型コロナおよびそのほか健康関連の問題に関する主張に対応したポリシーがある」とメールで語り、「当社のパブリッシャーネットワーク内のすべてのサイトを普段から監視し、ポリシー違反のコンテンツが発見された場合にはただちに広告が配信されないようにしている」と記した。
同氏によると、2022年だけでもパブリッシャーのページ単位で15億件、サイト単位で14万3000件の措置を実行したそうだ。Googleの現行ポリシーでは政治、新型コロナなどの健康関連の話題、気候変動、ロシアのウクライナ侵攻といったトピック(それぞれ2019年、2020年、2021年、2022年に追加)をはじめ、誤情報を巡る数多くの問題にすでに対応しているという。
ブランドの品位を損なうリスクは常に潜む
米DIGIDAYでは、全米家族計画連盟、アムネスティ・インターナショナル、米国赤十字社など、いくつかの団体にコメントを求めたが、公式見解を返したのは赤十字社だけだった。赤十字社のスポークスパーソンからのメールには、同組織とその広告パートナーが「世界的な赤十字運動の基本原則から外れる広告配信がないか、懸命に監視に取り組んでいる」と返信があった。
また、メールには「最も厳しいレベルのフィルターを活用しながらヘイトスピーチ、暴力、政治コンテンツなどを含むサイトへの広告配信を防止する、インテグラル・アド・サイエンス(Integral Ad Science:以下IAS)というプラットフォームとパートナーを組んでいる。私たちの広告が表示されるべきではないサイトのリストは常時更新しており、問題サイトへの掲載の報告があった場合には十分に対応している。Webには数多くの新しいサイトが常に追加されているため、このような状況はどうしても発生する可能性がある」と記されていた。
かなり前から、広告主のブランドセーフティの問題はニュースガードのような企業にとって大きな事業分野となっているが、除外リストや許可リストを広告主に提供するダブルベリファイ(DoubleVerify)やIASなどのアドテク大手にとってもそれは同じだ。
ブランド・セーフティ・インスティテュート(Brand Safety Institute)の共同創設者であるニール・サーマン氏は、誤情報の収益化に対する対策基準について業界内で合意に達することができていない、と話す。たとえば、それはドメインのレベルで判別されるべきものなのか、それともコンテンツのレベルで見るべきなのか、といった問題がある。このほかにも、何が有害なコンテンツで、何が「単に思慮に欠けているだけ」なのかを判別する方法を巡る問題もある、と同氏は付け加えた。
「完璧な状態になることはない」と話すのは、TAG(Trustworthy Accountability Group)のCEOでブランド・セーフティ・インスティテュートの共同創設者でもあるマイク・ザナイス氏だ。「ブランドセーフティ企業を利用し、許可リストや除外リストを設定しても、問題は最悪の種類のコンテンツに少しでも広告が載ってしまうと、確実にブランドに影響が出てしまうことだ」。
専門家は、誤情報Webサイトに表示された広告が何百万ものインプレッションを稼がなくても、まずい環境のなかで広告が表示されるだけで、その企業に対する印象が影響を受けてしまうと話す。ときには、アフィリエイトマーケティングを介して、またはアドテク企業が厳格な基準を設けていないために、広告が意図せずして網の目をくぐってしまう場合もあるという。
ジェネレーティブAIはサイトを見定められるのか?
現在の広告と誤情報を巡る懸念は、台頭するジェネレーティブAIの世界が問題を解決してくれることになるのか、単に現在の問題をさらにややこしくしてしまうのかという疑問にもつながる。
とくに重要なのが、Googleのバード(Bard)、マイクロソフト(Microsoft)のビング(Bing)といったチャットボットが、チャット内でユーザーにどのように情報を提供していくのか、信頼できるWebサイトや怪しいWebサイトにどうトラフィックと広告収入を向けていくことになるのか、という点だ。質問に回答する際には、質の高いコンテンツが、誤情報やそのほかの疑わしいコンテンツが広がっているWebサイトより優先されることになるのだろうか。
クロヴィッツ氏の意見はこうだ。「従来の検索をジェネレーティブAIと比較するとき、そのうち従来の検索が猛烈に懐かしくなる日がやってくるだろう」。
Marty Swant(翻訳:SI Japan、編集:島田涼平)