ケネディ家はアメリカの王族
アメリカ合衆国は大英帝国から分離独立して誕生した国であることから、王族や世襲主義を否定した国でもある。しかし、そのような性格を持った国でありながらも、米国民はある一族に対しては王族に匹敵するような羨望の眼差しで眺めている。その一族とはケネディ家である。ケネディ家はジョン・F・ケネディ大統領を筆頭に多くの政治家を輩出しており、今でも4名のケネディ一族が大使や政府職員として政治の中枢に入り込んでいる。
特に、1960年代初頭に颯爽と登場し、格調高いスピーチをいくつも行ったケネディ大統領への米国民の評価は死後60年以上経っても高いままだ。2013年に実施された世論調査によると、米国民はケネディ大統領が現代の大統領の中で最も優れた大統領だったと答えていた。2020年にCSPANが歴史家への調査を元にした出したランキングによると、ケネディは全大統領の中で9番に評価の高い大統領と回答されている。
だが、功績もある一方で、ケネディ家は悲劇やスキャンダルに絶えない一族でもある。政治家を志したジョンとロバート・ケネディは共に暗殺され、ジョンの息子も不慮の飛行機事故で若いうちに亡くなっている。ジョンの末の弟であるエドワード・ケネディは自動車事故により、同伴していた女性を死亡させる事件も起こし、この事件を機に大統領になるという可能性がついえている。そして、当時は公然の秘密であったジョンの不貞行為も批判的な目で見られるようになっている。
しかし、様々な評価がありながらも、ケネディ一族は米国社会において特別な地位を築いており、今でもそれは色あせない。
ケネディ家の異端がバイデンに挑戦?
このように米国民の誰もが知っているケネディという名前だが、その一族から大統領を目指す人物がまた現れた。ケネディ政権で司法長官を務め、1968年の大統領選の選挙期間中に暗殺されたロバート・ケネディの息子のロバート・F・ケネディ・ジュニアである。
ロバートは元々は環境弁護士として実績を残したが、近年はワクチン懐疑論を広める活動家として名が知られている。あまりにも反ワクチン活動に熱心なせいで、一族郎党からも敬遠されており、自身の姪などから意見記事で批判される程だ。
そのような政治的スタンスがあるためか、2024年大統領選の民主党候補指名争いへの出馬を宣言を表明した会場にはケネディ家の人間は一人も参列していなかった。
ケネディはバイデンに勝てるのか?
ロバートがバイデン大統領を予備選で倒すことができるとは誰も思っていないが、直近の世論調査の数字を見たところ意外な強さを見せている。民主党候補の支持率を測ったUSAトゥディの調査によると、バイデンが67%を獲得したのに対し、ロバートは14%の支持を得ている。FOXニュースによると、ロバートが19%の記録している調査結果も出てきている。
再選を目指す現職大統領が7割以下の党内支持を獲得できていないのは異例である。そもそも半分以上の民主党員がバイデンの出馬をそもそも望んでいないため、バイデンの支持率が67%という数字は驚愕するようなものではない。しかし、そのことを鑑みても、19%もの民主党員が同党支持者の一般的なワクチンに対する考え方からかけ離れている候補を支持したという事実は大きい。この数字はいかにバイデンの再出馬に快く受け止めていない層が党内に存在するかを浮き彫りにする。
だが、ロバートが獲得した支持は、ケネディブランドが持つ影響力の強さを反映するものでもある。YouGov調査によると、48%の米国人が「ロバート・F・ケネディ・ジュニア」という名前を聞いて好印象を持ったとのことである。
Just a theory, but I suspect people don’t really know much about Robert F. Kennedy Jr. beyond that fact that he’s a Kennedy. pic.twitter.com/4uMnHHDMRc
— Aaron Blake (@AaronBlake) April 12, 2023
ロバート・F・ケネディ・ジュニアについては、「ケネディである」という事実以上に、あまり知られていないのではないでしょうか。
実際のところ、ロバートが異端の存在として一般的に認識されていることを考慮すれば、ここまで支持が高いのはおかしいと考えるのが自然である。そのため、好印象と答えた回答者の殆どが「ケネディ」という名前に好意的に反応したということになり、ロバートの名字がいかに意外にも高い支持率に貢献しているかが分かる。
ケネディが挑戦した現職大統領は負ける?
ケネディ家から挑戦を受けた大統領が惨めな結末を迎えることを知っている筆者としてはロバートの出馬に不吉な予感を感じずにはいられない。過去二回、ケネディ家から挑戦を受けた民主党の現職大統領は全て、大統領選への不出馬、又は敗北に追い込まれている。
一回目は1968年のリンドン・ジョンソン大統領である。彼はロバートの父であるロバート・ケネディからの挑戦を受けて、再選資格がありながらも、大統領選からの撤退を表明した。
Bobby speaks to the press after Lyndon Johnson announces he will not run for re-election, 1968. 🍂
–#BobbyKennedy #RFK #RFK50 #History #Icon #1960s #lbj pic.twitter.com/orGKTaMT5m— morgan 👽 (@flynnsfancy) November 16, 2018
リンドン・ジョンソン氏が再選不出馬を表明した後、ボビーが記者会見に臨む
二回目は、にロバートの叔父のエドワード・ケネディからの挑戦を受けたジミー・カーター大統領であった。エドワードは1980年の民主党予備選で全体得票数の37%を獲得するほど善戦し、疲弊したカーターは本選でレーガンに大敗している。
Ted Kennedy concedes to Jim Carter. Democratic convention 1980
For me, a few hours ago, this campaign came to an end.
For all those whose cares have been our concern, the work goes on, the cause endures, the hope still lives, and the dream shall never die. pic.twitter.com/YqkDOtzq39
— Barry Ipapoh🇰🇪🛡️ (@BIpapoh) August 14, 2022
テッド・ケネディ、ジミー・カーターに譲歩。
ケネディ家を含め民主党内の重鎮はバイデン再選への支持を表明しており、党内エリートから盤石の支持をバイデンは獲得している。一方、ロバートの2割前後の支持率が浮き彫りにしたように、予備選で投票する民主党支持者からのバイデン待望論は薄く、バイデンの再選に向けたは地盤は意外ともろい。そのため、ロバートのような候補が、民主党内の不満を取り込み、バイデン再選に向けた障壁になる可能性も無きにしも非ずである。歴史は繰り返されるのか?