運勢が傾いてきた?独「緑の党」

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人には運勢がある。いい時は全てがうまくいくが、そうではない時(運勢がない時)、何をやってもうまくいかないものだ。長く生きているとそのように感じることが多々ある。ただ、人だけではない。団体、組織、機関にも運勢というものがある。換言すれば、勢いだ。勢いのある時は押せ押せで前に進めばいいが、勢いがなくなった場合(運勢がない場合)、何をやってもマイナスとなって跳ね返ってくる。そのような時は、焦ってやっても単なる運動暴発で終わることが多い。

ハベック経済相 Wikipediaより

ドイツの「緑の党」に関連するニュースを追っていると、「運勢が下がってきているのではないか」と感じる。同党は地球温暖化阻止、脱原発、再生可能エネルギーの促進などを環境保護政党として国民にアピールしてきた。「緑の党」が運勢を享受していた時は2017年から前回の連邦議会選挙(2021年9月)前後までだろう。前回の連邦議会選前の世論調査では一時期、「緑の党」は第一党となると予測されるほど勢いがあった。アナレーナ・ベアボック共同党首(当時)はこの時、同党の看板だった。そしてショルツ連立政権に参加して1年が経過した。「緑の党」の運勢に陰りが見え出してきたのだ。

「緑の党」には2人のスターがいる。1人はロベルト・ハベック経済相(副首相兼任)、もう1人は先述したベアボック外相だ。今年に入り、両者のコミュニケーションがうまくいかなくなってきた、といったインサイダー情報が流れてきた。そのような時、ハベック経済相の省内の人事で縁故政策といった批判が聞かれ出した。経済省内の高官に環境保護運動を一緒にしてきた仲間たちが多数入っている。ハベック経済相の人事を顧客政治(クライアンテリズムまたはクライアントの政治)と酷評する声すら出てきた。それを受け、ハベック経済相自身、「ポストの割り当てで問題があったかもしれない」と過ちを認め、人事問題で改革をしていく意向を表明したばかりだ。

また、「緑の党」出身のテュービンゲン市のボリス・パルマ―市長(50)が民族主義的な発言や暴言を繰り返し、メディアばかりか、「緑の党」内からも非難が出たことから、同市長は脱党を決意した。

それだけではない。環境保護活動グループ「最後の世代」が朝のラッシュアワー帯に路上に座り込み、手を接着剤で固定して車の通過を阻止する過激な活動に対して、ドイツ国民から批判が高まってきた。「最後の世代」の路上妨害に対して厳しい刑罰に処すべきだという声が出てきたのだ。

ハベック経済相は2日、ハンザ同盟都市ブレーメンのミュージカル劇場で数百人の前で開かれた「緑の党」キャンペーンイベントで、「最後の世代」の気候変動活動家の行動について質問を受け、「政治的には間違っている」と述べている。

同経済相は、「民主主義の社会では政治運動は幅広い多数派を生み出すべきだ。『最後の世代』の活動家には敬意を持っている。彼らは未来に対して恐れているのだ。ただ、国民から批判を受ける活動は間違いだ」と強調し、環境保護グループの過激な活動に対して距離を置く発言をしている。

「緑の党」の政治家の中で「最後の世代」の路上封鎖活動を「政治的に間違っている」とはっきりと批判したのはハベック氏が最初だろう。それだけに、「緑の党」内の左派系から反発が予想されている(「環境保護活動『最後の世代』の台頭」2023年1月15日参考)。

「緑の党」の一連の不祥事は世論調査の結果にも表れてきた。RTL/ntvトレンドバロメーターによると、ショルツ首相の社会民主党(SPD)が17%と前回比でマイナス1ポイント、「緑の党」は16%に留まり、極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)と並んでいる。いずれにしても、社民党、「緑の党」、自由民主党(FDP)のショルツ現連立政権の3党の支持率は合わせても40%と過半数を下回っている。ちなみに、第1党は野党第一党「キリスト教民主・社会同盟」(CDU/CSU)で30%と独走している。

ドイツの世論調査研究所Forsaのギュルナー所長は、「『緑の党』が下降する一方、AfDが上昇している」と分析し、「『緑の党』の顧客政治(Klientel-Politik)への批判がAfDに追い風となっている」と指摘している。

(このデータはドイツの世論調査機関ForsaがRTLの要請を受けて2023年4月25日から28日まで実施したものだ。2507人の回答者。統計誤差の許容範囲:プラス/マイナス2・5%ポイント)。

「緑の党」は、ロシア軍のウクライナ侵攻以来(2022年2月24日)、従来の平和政党の看板を下ろし、ウクライナへの武器供与を積極的に支持、過去の対ロシア関与政策の見直し、厳格な対中政策などを実施してきた。「緑の党」の外交政策はベアボック外相の活躍で得点を挙げた。ただ、同党の本来のメインテーマ、環境保護政策では再生可能エネルギーの促進でイニシャティブをとっているが、ロシアのウクライナ戦争以来、エネルギー価格の高騰、脱原発によるエネルギー不足の不安など課題が山積している。そのような時、党指導者の不祥事や党内の不協和音が次々と表面化してきた。運勢は傾いてきているのだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年5月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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