人の群衆で人間性を表現するゲーム制作の挑戦–中村勇吾氏と水口哲也氏に聞く「HUMANITY」

CNET Japan

 「瞬間的な楽しさを生み出すことはできても、何十時間とプレイするゲームとしての面白さを作るということが全然わからなかった」「ゲームを作りたいという気持ちがあるなら、絶対に作ることができる。その才能に長けている方」――エンハンスから5月16日にリリース予定となっているアクションパズルゲーム「HUMANITY」を手がけた、デザイナーとして活動している中村勇吾氏と、さまざまなゲームを手がけてきたクリエーターの水口哲也氏は、インタビューのなかで、それぞれこのように語る。

 本作は、すべての人類から自我が失われた世界のなかで、唯一、理性と意思を保ち続ける、最後の指導者として目覚めた柴犬(プレーヤー)が、意思も目的も失った人間たちを「光の柱」へと導く使命を与えられ、群衆をコントロールしながら進めていく内容。「ワン」と吠えるだけで群衆をコントロールすることができ、謎解きやギミックにあふれたステージをさまざまなアクションを駆使して攻略していく。このほか、自分だけのオリジナルステージを作成することができる「STAGE CREATOR」を搭載。シェアすることも可能で、他のプレーヤーが作成したステージをプレイできるようにもなっている。

群衆をコントロールして、ゴールへと導く
群衆をコントロールして、ゴールへと導く
巨大ボスと戦うような、アクション要素も
巨大ボスと戦うような、アクション要素も

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 中村氏は、これまでNHK教育番組「デザインあ」「デザインあ neo」映像監修、「ユニクロ」のTVCMやデジタルサイネージなどのデジタルメディアのディレクション、KDDIスマートフォン端末「INFOBAR」のUIデザインなどを手がけ、多摩美術大学美術学部統合デザイン学科の教授としても活躍。本作は、中村氏が手がける初の本格ゲーム作品で、開発は同氏が代表を務めるデザインスタジオのthaが担当している。

 水口氏はセガ在籍時に「スペースチャンネル 5」「Rez」を手がけたことでも知られている。エンハンスは同氏が代表を務め、これまで「Rez Infinite」などをリリース。本作では、スタジオ兼パブリッシャーとしてレベルデザイン、プロデュース、パブリッシングを担当している。

 本作は水口氏がデモ映像を目にし、強く印象に残ったことから、自らプロデュースを願い出て開発がスタートしたという。今回、中村氏と水口氏に制作の経緯をはじめ、中村氏にとって初めてのゲーム制作だからこそぶつかった困難、実に5年かかったという開発中のエピソード、本作に込めた思いなどさまざまなことを聞いた。

中村勇吾氏(左)と、水口哲也氏(右)
中村勇吾氏(左)と、水口哲也氏(右)

鳥の群れから着想した“人間の群れ”とで、人間性を表現する

―― まず、中村さんから本作の経緯についてお話いただけますか。

中村氏: 私はこれまで、いわゆる「オンスクリーンメディア」と呼ばれるような、画面上で表現するようなデザインを手がけていまして、モーショングラフィックやアニメーションといったことに注力していました。そして“動きというのは、なぜ、どこから生まれているのか”と考えることが、興味や関心のひとつとしてあります。

 そのなかのひとつに、鳥の群れの動きもあります。その動きをじっと目で追い続けてしまうぐらい好きなんです。それで以前、鳥の群れの動きをモチーフにした「GUNTAI」というゲームアプリ(※現在は配信終了)を作ったことがあったのです。レースゲームのように進めるのですけど、従来のレースゲームは車1台での操作になりますが、何百匹もいる鳥を操作して渓谷を飛んで、ぶつかると鳥の数が200匹減ったり、アイテムをとると300匹増える、といったようなものですね。

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 その延長で、鳥はシンプルなBOIDSというアルゴリズムで動いていますが、より複雑なアルゴリズムで動くのは人間ではないかと思い、人間の群れをモチーフにしてインタラクティブに関わり合えるようなコンテンツが作れないだろうか、と考えたことがそもそものきっかけになります。

 そして、2017年ぐらいにデモを作りました。ネット上にアップしたり、UNITYの開発者向けイベント「Unity Developer’s Delight」などでいろいろな方に見ていただく機会があったのですけど、そうしたら水口さんから突然連絡をいただいた、というのが本格的なゲーム制作へと進む転機になりました。

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――映像を見たり、実際にゲームもプレイさせていただきましたが、人の群れが動くということは、これだけインパクトを与えるのか、と驚いたところがあります。

中村氏: 従来であれば、人間らしい動きにフォーカスすることで人間らしさを表現するものですけど、集団での動きで人間らしさをどう表現するかをテーマとしておきました。

 よく言っているのですが、例えば家を作るときに、多くの場合は家族の人数から間取りを考えるように、トップダウン的に大きい計画から立てると思います。そうではなく、レンガで建てると面白いから、それを生かした家を作れないかなと考えるように、このディティールが面白いから、それを生かした何かを作れないか、というアプローチなんです。

 「HUMANITY」については、群れの中の人間の動き、というディティールが面白いので、それを生かしたインタラクションコンテンツが作りたい、というのが基点になっています。

―― 水口さんは、デモを見てプロデュースを申し出たということですが、改めて当時のことを振り返っていただけますか。

水口氏: とにかく、映像を見たときのインパクトが大きかった。1カ月ぐらい頭から離れなかったんです。それで、たまらずに勇吾さんに連絡をして「これをどうされるおつもりですか?ゲーム作品にする考えはありますか?」と、ストレートに聞いてみたところ、その意思があると。それで僕とマーク・マクドナルド(HUMANITY エグゼクティブ・プロデューサー)と勇吾さんで何回か話し合いをさせていただいて、これは面白いものになるという感覚がみんなで得られたので、それならやろうということでスタートしました。

―― デモを見たとき、どんなところにひかれたのですか。

水口氏: 鳥の群れの話がありましたけど、“鳥の視点で見た人間”という勇吾さんの発想に惹かれました。そして、人間が群衆としてフィジックス(物理演算)を用いたシミュレーションをしているところに、すごさを感じたんですね。僕が見たデモは、群衆が斜面を滑り落ちていくものだったんですけど、一人一人人間の動きをしているうえで、物体のように物理シミュレーションのなかで動いていたんです。

 これまでも「Rez Infinite」などで、パーティクル(粒子)を活用した表現の作品も手がけましたが、このデモでやっていたこと、そして「HUMANITY」で表現しているものは、パーティクルのひとつひとつが人間としてちゃんと動いていること。そのうえで群衆になったときに、群衆同士がぶつかり合うと物理法則が発生するという、かなり高度なことをしています。

 予測不可能な動きもする物理シミュレーションの技術を使ったパズルゲームというのは、素敵すぎると言えるぐらいに素晴らしい発想に思えたんです。群衆が押し出されたり落ちたり、また動いたりするという光景は、コミカルでもあるし、すごくシリアスにも見えます。それが面白いと感じたんです。

 あとはタイトルですね。そのときから「HUMANITY」と付けられていて、最終的にそのまま正式タイトルにもなったのですけど、ただの「HUMAN」ではなく「HUMANITY」としているのは、人間性を表現しています。

 単なるパズルゲームだけではなく、人間性というものをゲームの中にストーリーとして織り込み、プレイ体験を通じて味わってもらうこと。そして最後にどういう感情になってもらうかを設計することは、すごく大変なことというのもわかっていましたが、それが実現できれば面白いものになると直感しました。実際にすごく大変で、3年ぐらいでできるかなと思いましたが、結局5年かかりましたので。でもその分、いい作品に仕上がりました。

―― 水口さんから話があったときは、どう感じましたか。

中村氏: デモを作ったときに、何かしらゲームのような形にまとめて、一般の方にも触れられるようにリリースしてみようと、漠然と考えていたんです。世の中の片隅でやっている試みですけど、最終的には水口さんのような方に伝わるといいなと思っていたら、本当に来たと。だからびっくりしましたね。積み重ねを行ってようやく到達するであろう方からいきなり連絡があったのは、本当に驚きました。

―― お互いのことは、それぞれご存じだったのですか。

中村氏: 著名な方ですし、お仕事も拝見しています。なので連絡をいただいたときには「あの水口さんだよ!」ぐらいのテンションでした。

水口氏: 僕からしたら逆です。勇吾さんといえばスタークリエーターですよ。街に出れば、勇吾さんが手がけた仕事を見ないことはないぐらい。ユニクロ関連もそうですし、テレビ番組にも関わっている。幅広く活動されていますし、他の人とは違う魅力があります。

 ご自身でインターフェースデザイナーと称されていますけど、“体験をデザインする”ということをされてきた方で、人が触れる部分に対して手触り感を生み出して提供できることが素晴らしい。なので、勇吾さんがゲームに関して作りたいという気持ちがあるなら、絶対に作ることができると。実際に取り組んでみて、その才能に長けている方だとハッキリわかりました。

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