農林水産省の令和4年度「フードテックを活用した新しいビジネスモデル実証事業」の成果報告会が3月22日に実施され、以下の7社による実証事業の成果報告が行われた。
- 「個別栄養最適食『AI食』のユーザーフレンドリーなビジネスモデル実証試験」(ウェルナス)
- 「食品由来材料のみで作製した培養鶏肉の安全性評価」(ダイバースファーム)
- 「発酵由来プラントベース素材を用いた3Dフードプリンター介護食の開発」(三菱商事ライフサイエンス)
- 「低環境負荷・高付加価値な牡蠣養殖のスマート化に向けた大規模データ収集事業」(リブル)
- 「食のバリアフリーを実現するアレルギー低減卵の社会実装」(プラチナバイオ)
- 「個人の嗜好・健康状態に併せたパーソナライズ可能な炒め調理ロボットの開発」(TechMagic)
- 「昆虫を活用した革新的有機廃棄物処理システムのスケールアップに向けた、単位面積あたり生産性の検証事業」(ムスカ)
個別営業最適食「AI食」で最大88%が体重減少を実現
ウェルナス 代表取締役の小山正浩氏は「個別栄養最適食『AI食』のユーザーフレンドリーなビジネスモデル実証試験」の成果を発表した。
AI食とは個人の実現目標達成のために栄養素を最適化した個別営業最適食のことで、たとえば「体重減少」を目標とする場合は毎日の体重と摂取栄養素量の関係を解析し、体重を減らす栄養素と増やす栄養素を「関与栄養素」として特定。「カロリーや糖質とは関係のないミネラルやビタミンなどの栄養素を調整することで、カロリー制限や糖質制限をすることなく体重をコントロールできる」と小山氏は語る。
個別栄養最適食(AI食)の概要
実証実験では同社が提携する食事管理アプリ「あすけん」ユーザー101人を対象に、カロリーを維持したAI食による体重変化を評価した。AI食を食べる頻度を「毎日3食」「毎日2食」「毎日1食」「平日のみ3食」の4群参加者を分けて実施。試験期間12週間のうち、最初の3週間で参加者の日々の体重を記録するなどのデータを収集し、残りの9週間で体重減少のために個別提案したAI食をユーザー自身が調理・摂取する期間とした。
結果として「データ収集期間の体重に対し、効果実証期間の体重はすべての群で有意に低下を示した」と小山氏は紹介した。
実証実験の成果。4つの群すべてで体重が減少する結果となった
「効果実証期間最終週の体重と、データ収集期間の体重を比較すると、体重減少はAI食の摂取回数に依存していることも示唆た。すべての群でAI食摂取前の摂取カロリーは維持されているので、体重減少はAI食の栄養調整によるものと考えられる」(小山氏)
ウェルナスは1月からAI食提案サービス「NEWTRISH(ニュートリッシュ)」の提供を開始しており、実証試験で検証した4つのAI食摂取頻度を選択できる機能も既に実装していると小山氏は紹介した。
食品由来材料のみで作製した培養鶏肉の安全性を確認
ダイバースファーム 共同創業者 CEOの大野次郎氏は「食品由来材料のみで作製した培養鶏肉の安全性評価」実証事業の成果を発表した。
細胞性食品とも呼ばれる培養肉の安全評価については厚生労働省で検討が始まりつつある状況だが、まだ明確な基準は定められている状況ではない。そのため、現行の安全性試験を実施するのが本事業の目的だ。
大野氏は同社の特徴として、「食品由来の材質だけで培養肉を開発している」と語る。「厳密な実証は必要だが、食品として実績があるため安心安全で比較的社会受容性が高い手法だと考えている」(大野氏)
鶏肉の種細胞を分離し、培養液で増殖させてから組織化して肉のような形に成形し、最大4g程度の培養鶏肉を作成。これを使って遺伝毒性2つ、微生物検査、経口毒性、BSE(狂牛病)の5つの安全性試験を実施し、すべて陰性を示したという。
ダイバースファームが作成した培養鶏肉
それに加えて、鶏肉との全ゲノムシークエンス比較も実施。「完全な分析はできていないものの、大きな変化はないという結論になった。このデータにより、培養肉で変なものになることはあまりなさそうだと言える」と大野氏は語った。
安全性試験の結果
プラントベース食材で「ベジサーモン」を作成
三菱商事ライフサイエンスの福本氏は「発酵由来プラントベース素材を用いた3Dフードプリンター介護食の開発」実証事業の成果を発表した。
同社は食品事業を展開する3社が統合して誕生した経緯もあり、調味料や食感にかかわる増粘多糖類など約4000品目の食品原料を取り扱っている。
今後、特に介護職の分野で3Dフードプリンターの普及が期待されていることから、「3Dフードプリンターでどういった食材を組み合わせて介護食を作れるのか、また潮流となっているプラントベースフードなどの食品素材をどう適用させていくかという観点で取り組んだ」と福本氏は語る。
今回の事業では日常の食事から介護食まで幅広く使える「ユニバーサルデザインフード」作りを目標として設定。「ユニバーサルデザインフードは硬さや粘度などの明確な基準があるため、これに合ったものを3Dフードプリンターで作るための配合やノウハウを検証した」(福本氏)。
今回はスペインメーカー製の「FOODINI」と日本の武蔵エンジニアリングが開発した「3DFP」という2つの3Dフードプリンターを使用して実証した。
スペインメーカー製の「FOODINI」と日本の武蔵エンジニアリングが開発した「3DFP」という2つの3Dフードプリンターを使用して実証した
「2種類のプリンターで造形性とか違いはあるものの、同じような形のものが出せた。また、作った後に電子レンジで加熱する可能性も視野に入れ、電子レンジで加熱しても介護職の硬さの範囲内に収まり、形もしっかり保てるかどうかも意識して検討した」(福本氏)
2つの3Dフードプリンターを用いて作成した「ベジサーモン」
今後について福本氏は「介護食を提供されている事業者や食品メーカーなどと協働で介護食カートリッジの開発などを一緒にやっていきたい」と語った。