対話型AIの登場でグーグルら巨大ITとニュースメディアの関係はどう変わるか

CNET Japan

 2021年、オーストラリア政府は「Facebook」のフィードやGoogleの検索結果に表示されるニュースの対価を報道機関に支払うことを義務づける法律の制定に向けて、Facebookを運営するMeta、そしてGoogleの親会社Alphabetと対決した。


提供:SOPA Images/Getty

 それは劇的な戦いだった。両社の幹部はオーストラリアの首相と非公開の会合を持ち、突然Facebookのフィードにニュースが表示されなくなった。最終的に、報道機関への対価の支払いを義務化する世界初の法律、ニュースメディア取引法(News Media Bargaining Code)が2月に成立し、MetaとGoogleはオーストラリアの報道機関に年間2億豪ドル(約180億円)を支払う契約を結んだ。

 その2年後、戦いは新たな局面を迎えた。今回、GoogleとMetaに戦いを挑んでいるのはカナダ政府だ。「続編」の例に漏れず、ハードルは上がっている。

 現在、カナダではオンラインニュース法案(Online News Act)をめぐる議論が続いている。この法案が可決されれば、GoogleとMetaはカナダのニュース放送局やラジオ局などの報道機関と交渉し、FacebookのフィードやGoogleの検索結果に表示されるニュースの使用料を決定しなければならない。交渉が決裂した場合は仲裁機関が金額を決定する。両社が負担する金額は巨額になるとみられ、対象となる報道機関の支出の30~35%になるとの予測もある。

 問題はこれにとどまらない。オーストラリアとカナダで高まった立法化の動きは、フランスやスペインなど、すでにニュースコンテンツのライセンス問題争われてきた国にも飛び火する可能性がある。米国でも、カナダのオンラインニュース法案に似た、超党派によるジャーナリズム競争・保護法案(Journalism Competition Preservation Act)が上院に提出された。提出したのはAmy Klobuchar議員(ミネソタ州選出・民主党)とJohn Kennedy議員(ルイジアナ州選出・共和党)だ。しかし、2022年12月の議会では同法案は可決されなかった。

 Klobuchar氏は12月、「今後も可決に向けた活動を続けていく。この法案は幅広い層から支持を得ている」とニュースサイトのDeadlineに語った

 この種の法律が世界中で整備されれば、Googleは検索結果にニュース記事へのリンクを表示する対価として、数十億ドル(数千億円)を支払わなければならなくなると指摘するのは、カナダのオタワ大学法学教授でインターネットおよび電子商取引法のResearch ChairでもあるMichael Geist氏だ。「これは(Googleの)ビジネスモデルを根底から変えることになるだろう」

 報道機関への対価の支払いをめぐる議論が世界規模で広がるにつれて、同様の議論が人工知能(AI)の分野で起きる可能性も高まっている。「ChatGPT」や、かつてMicrosoftの検索エンジン「Bing」に組み込まれていた「Sydney」などのチャットボットは、ニュースサイトなどから集めた情報をもとに回答を出力するが、元の記事へのリンクはない。この問題は、すでに画像の世界では顕在化しており、写真素材サイトのGettyが「Stable Diffusion」などの画像生成AIを手掛ける企業を相手取って著作権侵害の訴訟を起こしている

 オンラインニュース法案をめぐる争いは、3800万人のカナダ国民にとどまらず、複数の国を巻き込んだ複雑な対立を引き起こす可能性がある。

FacebookとGoogleのおなじみの戦術

 Meta、そして特にGoogleはカナダのオンラインニュース法案の行方を注視している。2月下旬、Googleはカナダの検索利用者の4%未満を対象に、検索結果に表示されるニュースコンテンツを制限する5週間の「実験」を行った。これはオンラインニュース法案が成立すれば、Googleは検索結果からニュースサイトを完全に締め出す可能性があるという明白な脅しだ。一方、Metaは法案が可決された場合、Facebookや「Instagram」からニュースにアクセスできないようにすると明言している。


提供:lBoomberg/Getty

 Google Canadaのバイスプレジデント兼マネージングディレクター、Sabrina Geremia氏はオンラインニュース法案について次のように述べている。「特定の情報へのリンクに料金を課すなら、自由で開かれたウェブは手に入らなくなる」「リンクに支払いを求めるということは、質の高いジャーナリズムではなく、つまらないクリックベイトを推奨するということだ」

 これは両社がオーストラリアで展開した戦略と同じだが、対応は逆だ。オーストラリアでは、ニュースやニュースサイトの表示を突然消したのはFacebookだったが、カナダではGoogleが一部の利用者の検索結果に表示されるニュースを制限した。また、GoogleはFacebookほど露骨にはカナダ政府に圧力をかけていない。

 オーストラリアのニュース・メディア研究センターの副長官であるCaroline Fisher氏は「両社は権力を振りかざして、このようなことを行った」と述べ、こう続けた。「このやり方は世間から不評を買い、ブランドにもダメージを与えたが、特にFacebookによる強力な交渉により、両社は譲歩を勝ち取った」

 オーストラリアの法案には土壇場で修正が加えられ、ハイテク企業が運営するプラットフォームがメディア産業に「大きな貢献」をしていれば、報道機関との交渉が決裂した場合は仲裁機関が支払額を決定するという取り決めを回避できるようになった(修正前は、プラットフォームと報道機関の交渉が90日以内に成立しなかった場合、プラットフォームが報道機関に支払う金額は仲裁機関が決定することになっていた)。

 修正版の法案が可決されると、AlphabetとMetaはそれぞれすぐにオーストラリアの多くの報道機関と交渉し、厳選されたニュースフィードを読者に届ける自社のニュースサービス「Googleニュースショーケース」と「Facebook News」に記事を提供してもらう契約を結んだ。こうした取引の一部は、数千万豪ドルに及ぶのものだった。この結果、両社はメディア産業に「大きな貢献」をしていると見なされ、仲裁機関が支払額を決定する可能性は遠のいた。

 「両社が報道機関に支払った対価が公益ジャーナリズムに寄与したかは分からない。ジャーナリストのために使われたのかも分からない。また、ジャーナリズムのために使わなければならないという条件もない」とFisher氏は述べる。The Guardianをはじめ、GoogleとFacebookとの契約を機に数十人のジャーナリストを採用したことを明らかにした報道機関もあるが、他の報道機関の状況は不透明だ。両社が支払った対価は記者に使われたかもしれないし、華やかな新社屋の建設費に消えたかもしれないし、株主に還元されたかもしれない。

 「ニュースメディア市場の健全性を高め、質の高い公益ジャーナリズムを支えることが目的なら、支払われた対価の使途をわれわれは知る必要がある」とFisher氏は言う。

 問題は透明性の欠如だけではない。例えば、MetaとAlphabetが支払った対価の大半はRupert Murdoch氏が会長を務めるNews Corpなど、すでに強大な権力を持つ巨大メディアの懐に収まった。一方、優れた小規模な報道機関は対象から除外され、結果としてニュース産業内の格差が拡大した。シドニー工科大学のCenter for Media Transitionで上級講師を務めるSacha Molitorisz氏は、すでに強大な力を持っている報道機関をさらに強化することはイノベーションの抑圧につながりかねないと指摘する。

 Molitorisz氏は、「大きな貢献」条項が「透明性の欠如の元凶だ」と述べた。

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