前回(「Z世代の就活生が『高給』の代わりに、本当に望んでいるものとは?」)に続き、Z世代の就活生が企業をどのような価値観で選択し、何を期待しているのか、その上で企業は彼らにどのように対応し、どのような会社像を目指すべきかについて、Google人事部で新卒採用を担当していた草深生馬氏(くさぶか・いくま/現RECCOO CHRO)が詳しく解説します。
中の上の「ちょうどいい企業」に人気が集中
前回(「Z世代の就活生が『高給』の代わりに、本当に望んでいるものとは?」)説明したように、Z世代の就活生が企業選択で重要視するのは、給与や福利厚生などの最低限の保証とワークライフバランスです。そして、ミニマムの就業時間内だけ働き、後は自分のクリエイティブな活動のために使いたいと考える傾向にあります。
彼らは「高給」にこだわらず、実際、有名な外資系コンサルや外資系金融は、人気がありません。ブランド力が高く入社3年目で年収2000万円を超えるけれど、体を壊すほど働く必要があるというような会社は、「そこまでして稼ぎたくない」と敬遠されがちです。
人気があるのは、(少し失礼な物言いですが……)“ちょうどいい塩梅”の企業。生活が保証されるレベルの給与で、福利厚生が整い、拘束時間が短く、企業文化も堅すぎないといったような会社です。人気ランクも業界トップ3に入るような会社ではなく、真ん中より少し上くらいの会社にエントリーが集中しています。
個性的に自分らしく生きることに価値を見出す
ちょうどいい塩梅の会社で、最低限の保障を受けながら、ミニマルに働き、後は好きなこと、自分自身のパッションのために時間を使う。これがZ世代の若者たちの理想の生き方ですが、なぜ、このような思考が生まれたのでしょうか?
マスメディアが全盛だった頃、若者たちは画一的な情報を一方的に受け取るしかありませんでした。ところが、今は、SNSで個々人が情報を発信してインフルエンサーになることができる時代です。また、多様性が受け入れられ、個性的に、自分らしく生きることが大切だという価値観を彼らは持っています。
就活に関しても、私の時代(もう10年以上前ですが)は、就活生はみんな、ダークスーツを着て、やんちゃな学生も髪を黒色に戻しました。没個性的であることがよしとされ、女子学生は就活で面接官にウケる控えめなメイクを習いました。ところが、今は、パーソナルカラー診断をして自分の肌にあった色を見つけ、それをベースにメイクをしているようです。「他人との違い」や「個性」を出すことが流行っているのです。
就職すれば、会社という画一的なフレームワークに組み込まれ、企業文化やルールに則って生きなければならない。そのような、個性を殺しながらパッションを感じられない生き方をすることに、彼らは疑問を感じているのです。
パッションの対象が見つけられず、「推し活」に走る若者も
ただ、Z世代の若者がみんなパッションの対象を持っているわけではありません。私が実際に接した若者の中には、パッションの対象が見つからず、熱くなりたいのに熱くなれない、という人も少なからずいました。
モノが飽和状態で何でも手に入る時代に、物欲は生きるモチベーションにならず、ブランド品、車、高級時計などを手に入れるために努力しようとは思わない。ただ、自分らしく生きて、クリエイティブなことをしたい、でも何をどのように突き詰めればいいのかわからない、といった様子なのです。
自分にとってイチオシのキャラクターやアイドルを応援する「推し活」が流行っているのも、自分に熱くなれない若者の心情を映しているのかもしれません。個性を前面に出すVtuberなどが憧れの対象となり、推しのVTuber にバンバン投げ銭をして応援することで「熱くなる」。
「推し活」をしている人を一概に、パッションの対象を見つけられない若者と括るつもりは毛頭ありませんが、誰しもが自分らしくクリエイティブに生きられるという感覚を持っている若い世代特有の「自己効力感の低さ」も一部で見受けられます。
「会社=ミニマムに働く場所でいい」と思わせた企業側の責任
ただ、Z世代の若者全員が最初から会社を「最低限の保障を受けながら、ミニマルに働く場所」と捉えているわけではありません。
本当は、彼らも夢中になれること、パッションを持てる対象を見つけ、それが仕事に繋がり、大成できればいいと思っている。だからこそ、一生懸命に就職活動をしているのです。ところが、それに応えてくれる企業が見つからず、結果として、会社は最低限の生活費を稼ぐためだけの場所でいいという思考に行き着いたのだと思われます。
実際、こうした若者の意識変容に気づかず、いまだに新入社員に対して「上の言うことを聞いて、最初の数年はがむしゃらに努力し、残業もして、体を壊すくらい働いて成長すること」を期待する企業が多いのです。
高度経済成長を遂げている最中の国であれば、高級車に乗ることや、ハイブランドに身を包むことが「かっこいい」と思えるかもしれません。また前向きに頑張れば、将来リターンがあると感じられるのなら、20代はがむしゃらに働くという選択肢も「アリ」と捉えられるかもしれません。でも、残念ながら彼らにとって、現状の日本はそのような期待や展望が持てる国ではないのです。
「小さいエンジンで効率よく生きていく」が、Z世代の基本的なスタンスです。そして、できることなら、社員の個性を尊重する会社で働きたいと考えている。企業側はそれを認識すべきです。
嫌われるのは「◯害のある組織」
これは私の主張ですが、今後、企業は、Z世代の若者たちが就職したいと思える強いコミュニティ作りを目指すべきです。
コミュニティとは、所属の縛りが強くなく、自由意志で在籍していると感じられる組織のこと。これが「コミュニティ」の一番大事な要素です。
若者たちが求めるのは、人間として魅力的な社員が集まり、年齢や肩書きに関係なくフラットに尊重し合える場所としてのコミュニティです。公私ともに長く緩く付き合い、相互的メリットのある関係を築ける環境が整っていることがポイントです。
具体的には「新陳代謝の高い、老害のない組織」という表現も、私が接した若者の口から出てきました。彼らは年功序列を不満に持っていて、肩書きは立派でも仕事をしない上司やお局様を嫌います。
終身雇用制であるがゆえに仕事のできない人が辞めず、その分、能力ある社員が損をする構造に疑問を感じているわけです。自分が所属する会社のことだけではなく、社会全体のことを考えて行動し、適切な判断ができるプロフェッショナルが在籍し続ける組織を理想としているといえます。
また、「リモートワークやフレックスタイムなどを取り入れた柔軟性の高い職場」を望み、自分の仕事が終わっても先輩が残っているから退社できないというような慣習を嫌悪し、ハラスメントにも敏感です。
上司や先輩に期待され、自分を伸ばしてもらいたい気持ちも
Z世代の若者たちはミニマムな働き方を望む一方で、上司や先輩から期待をかけて欲しい、自分を伸ばしてもらいたいという気持ちも持っています。もともとSlackやLINEで相手への関心をアピールし合う双方向コミュニケーションが当たり前の世代なので、会社組織の中でもケアし合うことを求めているのです。
彼らは物欲などに振り回されず、世界をより良くしたいというピュアな気持ちとエネルギーを持っています。仲間意識も強く、一度繋がった相手とは関係を長く維持しようとするので、一度コミュニティとしての会社へのロイヤリティが醸成されれば、高いモチベーションとハッピーな気持ちを維持しながら、組織の成長に貢献するでしょう。
「生活に必要なお金を稼ぐためにミニマムに働くだけの場所」と割り切られないために、企業はコミュニティの形成に努力すべきです。
草深 生馬(くさぶか・いくま)
株式会社RECCOO CHRO
1988年長野県生まれ。2011年に国際基督教大学教養学部を卒業し、IBM Japanへ新卒で入社。人事部にて部門担当人事(HRBP)と新卒採用を経験。超巨大企業ならではのシステマチックな制度設計や運用、人財管理、そして新卒採用のいろはを学んだのち、より深く「組織を作る採用」に関わるべく、IBMに比べてまだ小規模だったGoogle Japanへ2014年に転職。採用企画チームへ参画し、国内新卒採用プログラムの責任者、MBA採用プログラムのアジア太平洋地域責任者などを務めるかたわら、Googleの人事制度について社内研究プロジェクトを発起し、クライアントへの人事制度のアドバイザリーやコンサルテーションを実施。
2020年5月より、株式会社RECCOOのCHROに着任。「才能を適所に届ける採用」と「リーダーの育成」を通して日本を強くすることをミッションに掲げる。現在は、スタートアップ企業の組織立ち上げフェーズやや、事業目標の達成を目的とした「採用・組織戦略」について、アドバイザリーやコンサルテーションを提供している。