「バッテリーなしで動作するゲームボーイ」を開発した猛者が現る

GIGAZINE



携帯型ゲーム機で遊ぶ際に最も気になるのが「バッテリー残量」です。せっかく外に持ち出したのにバッテリー残量がゼロになってしまいゲームを遊べなくなるのは困るところですが、かといってモバイルバッテリーや充電アダプタを持ち歩くのは面倒です。そんなバッテリー残量問題を全く気にせずに遊び放題になる「バッテリー不要のゲームボーイ」を開発した猛者が登場しています。

BATTERY-FREE GAME BOY
https://www.freethegameboy.info/

バッテリー不要のゲームボーイを開発したのは、ジャスパー・デ・ウィンケルさん、ヴィト・コートベークさん、ジョサイア・ヘスターさん、プルツェミスロー・パウェルチャクさんの4人。バッテリー不要のゲームボーイでは、ボタンを連打したり、ディスプレイ脇に設置されたソーラーパネルで電力を供給することが可能です。

しかし、ただソーラーパネルを設置すればバッテリーなしでゲームボーイが動作するようになるというわけではありません。エネルギーハーベスティングでは、停電の原因となる電圧変動が頻繁に発生してしまうという問題があります。以下の画像はゲームボーイからバッテリーを取り外し、ソーラーパネルで電力を供給した場合に何が起きるのかを示したグラフです。ゲーム(テトリス)は電力がなくなる(数字の185)までプレイできますが、電力切れを起こして停電になったあとは当然ですがプレイできなくなります。その後、電力が十分貯まり再びゲームボーイが起動(数字の1)できるようになっても、ゲームのプレイ状況は記録されていないため起動画面からスタートする羽目になるというのが普通です。


停電が起きても停電前と同じ状態からシステムを実行できるようにする技術を「インターミッテント(断続的な)コンピューティング」と呼びます。この技術を応用することで、前述のような停電が起きても、落下してくるテトリミノの状態を正しく記憶し、途中からテトリスを再開することが可能になると開発陣は主張しています。

上記のアイデアをベースに開発されたバッテリー不要のゲームボーイが「ENGAGE」です。開発陣はシステムを機能させるための4つの重要なアイデアとして、以下の4つを挙げています。

1:ボタンを押すなどの操作や環境エネルギーから電力を生成する。
2:システムレベルで最小限の状態を追跡してチェックポイントを設定することで、より高速なゲームの保存・復元を可能にする。
3:プロセッサエミュレーションを通じてレトロゲームをプレイすることで、古典的なプラットフォームの懐かしさを再現する。
4:最新の32ビットARM Cortex M4マイクロコントローラーと外部のFeRAMを活用して、インターミッテントコンピューティングを高速化する。具体的にはAmbiq Apollo3 Blueと富士通のFeRAMである512KBのMB85RS4MTを利用する。

つまり、ENGAGEはバッテリーが不要になるようにゲームボーイを改造するわけではなく、ゲームボーイのタイトルをプレイできるようにエミュレーターを用いて作った自作のゲームボーイ風携帯ゲーム機であるというわけ。


ENGAGEでは、ARMのマイクロコントローラーをベースにしており、メインメモリにはFeRAMを採用しています。これについて、開発陣は「インターミッテントコンピューティングを実現した端末で、メインメモリにFeRAMのような高速かつバイト単位でアドレス指定可能な不揮発性メモリが利用されている事例はありません」と言及しました。通常メインメモリに使用されるのは、低速でエネルギー消費の大きなフラッシュメモリですが、電源障害が発生してもシステム状態を保存・復元できるようにするには、不揮発性メモリのような高速なメモリが必要だったと開発陣は語っています。さらにマイクロコントローラーに96MHzで動作するAmbiq Apollo3 Blueを採用した理由について、開発陣は「クラス最高のエネルギー効率を実現しているため」と説明しました。

エネルギーハーベスティングシステムとしては、ボタン部分に市販のボタンプレス式発電機とソーラーパネルを採用。ボタンプレス式発電機は十字キーとA/Bボタン部分に採用されており、各ボタンを押した際に電力を生成することが可能となっています。なお、ソーラーパネルはテキサス・インスツルメンツの電源管理チップである「BQ25570」で管理しているそうです。

ディスプレイにはジャパンディスプレイ製の液晶である「LPM013M126A」を採用。オリジナルのゲームボーイのディスプレイはサイズが47mm×43mmで解像度は160×144ピクセルでしたが、LPM013M126Aはサイズが26.02mm×27.82mmと小さいものの解像度は176×176ピクセルとわずかに優れています。

以下の画像はENGAGEの基板です。


基板の各所で使われているパーツは以下の通り。

A:Ambiq Apollo3 Blue
B:MB85RS4MT
C:ZF AFIG-0007
D:NSR1030QMUTWG
E:デバッグ用のMicro USBポート
F:ディスプレイコネクタ
G:ソーラーパネルコネクタ
H:カートリッジインターフェイス
I:BQ25570
J:TPS61099

開発陣のひとりであるヘスターさんが、ENGAGEについて語る動画も公開されています。

The Next Gaming Revolution Starts With a Battery-Free Game Boy – YouTube
[embedded content]

ヘスターさんはENGAGEを「持続可能な未来のコンピューティングとIoTの発展に向けた真のスマートデバイスの始まりとなるシステム」と説明しています。ENGAGEの最大の特徴は、環境からエネルギーを採取している点で、具体的にはソーラーパネルとボタン式発電機から電力を生成しています。ボタンには磁石がついており、コイルを通すことで磁場を変化させ、ここから電力を供給しているとのこと。「ボタンを押す頻度により生成されるエネルギー量は変化してくる」とヘスターさんは語っています。


ただし、このシステムでは電力供給が安定しないため、すぐに端末の電源が落ちてしまうとのこと。しかし、インターミッテントコンピューティングシステムを採用しているため、電源が落ちたとしても落ちる前のゲームデータを保存し、復旧時に即座にデータを復元できるようになっています。これを実現しているのがFeRAMと呼ばれる不揮発性メモリで、これは電源が落ちた際にもデータを保存することができるというものです。


ヘスターさんはENGAGEを開発した理由を、「コンピューティングとは何か?コンピューティングのためのエネルギーはどこからきているのか?といったあらゆる前提を見直すことを促すため」と説明しています。「地球温暖化や気候変動の影響は無視できないものになりつつある今、人類は自然エネルギーに注目し、フットプリントを減らし、より持続可能なデバイスを作るための方法を模索すべきです」とも語りました。


地球上には人口よりもはるかに多くの携帯電話が存在しますが、そのバッテリーとして使用されているリチウムイオンバッテリーの製造には膨大な量の真水が必要となります。しかし、リチウムイオンバッテリーの材料となるリチウムが採取できる地域では深刻な水不足が起こっているため、リチウムイオンバッテリーの製造は環境への負担が大きいとヘスターさんは指摘しています。加えて、リチウムイオンバッテリーは使用後に廃棄されてしまうという問題も抱えています。このような問題に対処するために、ヘスターさんら開発陣はENGAGEを生み出したというわけです。


また、ENGAGEはゲームだけでなくFitbitやスマートウォッチといったウェアラブル端末や、埋め込み型デバイスなどさまざまな端末に応用することが可能です。

この記事のタイトルとURLをコピーする

Source