日本航空(JAL)は2月20日、アクティアと高精度センサー技術やクラウド基盤などを活用した「サウナ室リアルタイム人数カウントシステム」を共同で開発したと発表した。
JALが新たなスタートアップ事業としてスタートする事業で、デジタル技術を核とした事業開発を行うオープンイノベーションの活動拠点「JAL Innovation Lab」とテクノロジーイノベーションを強みに持つアクティアが企画・開発。サウナ室内の混雑状況やビッグデータについて、リアルタイムで温浴施設の事業者やサウナ利用者に提供する新サービス「TOKYO SAUNIST」の提供を開始する。
リアルタイムで混雑状況がわかる。デモではガラス張りだが、実際のサウナでは扉を開けるまで混雑状況がわからないことが多い
サウナブームを受けて、サウナ施設が混雑していることも増えている。一般の施設では、サウナ室の扉を開けるまで混雑状況が分からないことが多いが、サウナ室内にいる人にとっては満室なのに頻繁に開けられると温度が下がるため、タイミングが悪いと嫌な顔をされることも少なくない。そうした問題を解決する試みだ。
外気浴といった休憩所からも、サウナ室の混雑状況を見えるようにできる
TOKYO SAUNISTでは、センサー周辺の距離からその場所の形状やセンサー位置の把握に活用される「3D-LiDARセンサー」をサウナ室前に設置。高精度に人を検知し、クラウドにデータを集約する。
また、集約したデータを用いて、リアルタイムでサウナ室内の混雑状況を可視化。サウナ利用者および、施設管理者向けにアプリケーションを提供するクラウド型のサービスとなる。
サウナ室リアルタイム人数カウントシステムのしくみ
なぜJALがサウナのシステムを手がけるのか?
そもそもなぜJALがサウナのシステムを手がけるのか。これは、サウナ愛好家のJAL イノベーション推進部アシスタントマネージャー 岡本昂之氏の存在が大きいという。岡本氏はサウナ好きが高じてサウナ部を設立。いまでは470名が在籍し、社内だけではなく、157社が集う企業間のコミュニティでもあるという。
日本航空 イノベーション推進部アシスタントマネージャーの岡本昂之氏
同社では、2019年より「JALサ旅」と題し、サウナを目的に旅をするサウナツーリズムを核としたツアー商品やグッズ販売、ウェブメディア、地域プロモーションなどを積極的に展開している。それも岡本氏が手がけたもののひとつ。「『サウナ』を日本の観光産業におけるキードライバーに」というビジョンのもと、新たな日本のカルチャー創りを目指している。
日本では2017年頃からのサウナブームにより、主に首都圏に在住する20〜30代を中心に利用者が急増。月に1回以上サウナに入る愛好家は、全国で推計1400万人以上いるとされている。
しかし、急速かつ、継続的に利用者の拡大が進むサウナマーケットでは、「ととのいにいったのに、逆にストレスがたまる」といった声もあるほどで、特に首都圏を中心に「人気施設におけるサウナ室の混雑」が最重要課題となっている。
サウナは、ビジネスパーソンの愛好家も多く、TOKYO SAUNISTは「サウナの時間を確かなものへ」をコンセプトとして掲げる。サウナ室の混雑状況をリアルタイムで可視化することで、利用者は事前に混雑状況をチェックし、時間帯や施設を柔軟に選択することを可能にする試みだ。
データを蓄積し、混雑している曜日や時間、空いている時間を解析することで、業務の効率化やクーポンを配布するといった検討にも役立てられる
温浴施設にとっても、ビッグデータを用いて混雑の平準化や効率的なスタッフ配備に生かすことが可能になるという。実際に試験導入した東京・新宿の「テルマー湯」では、混雑状況を見える化したことで、混雑に応じて見回りを強化したり人が少ないときにサウナマットの交換をしたりできるようになったとコメントした。
スマートフォンからも状況を見られる
TOKYO SAUNISTでは、リアルタイムモニターにより、リアルタイムかつ、1人単位でのサウナ室内の利用状況を表示可能。23年秋頃より提供を開始する「TOKYO SAUNISTアプリ」(iOS/Android)を利用することで、スマートフォンを利用してサウナ室の混雑状況をリアルタイムでチェックできるようになる。
アプリには、ログイン機能を搭載。お気に入りの施設の登録や、位置情報と連動した自動サウナ利用記録機能などを提供予定。
施設管理者向けとして、Webアプリケーションサービスを提供。利用人数の確認、日単位・週単位での簡易集計機能や過去のデータ参照、CSVファイルでのローデータのダウンロードなど、細かな分析を可能とするダッシュボードとなる。
裸になる場所なので、カメラを使わず正確な人数をカウントできる手段を検討した結果、3D-LiDARセンサーにたどりついたという
同社によると、イベント登録機能やクーポン発行機能、ユーザー向け通知機能など、順次サービスや機能を拡充予定だという。
今回のサービス開発では、リーン・スタートアップ方式によるアジャイル開発でMVP(Minimum Viable Product)を制作し、その後プロトタイプ(β版)を開発。実証実験での精緻なシミュレーションおよび、検証を経て、サービスの提供となった。
また、アリババクラウド・ジャパンサービス、サムスン電子ジャパン、ジック、テルマー湯が開発を支援している。
今後は、順次課題を抱える温浴施設への導入を推し進めると共に、並行して各種サービスの追加開発・改良を実施する。
将来的な展望として、JALサ旅とのサービス連携やJALグループが推し進めるさまざまな事業や取り組みとの連携などを実現する。また、このシステムを応用して、保安検査場やラウンジなどの混雑を正確に把握できるのではないかという声もあるとしており、事業領域横断でのシナジーを創出していく考えだ。
なお、3月よりサウナ施設を対象として申し込みを受付を開始し、8月より初期導入サウナ施設へ納品を開始する。また、9月をめどにユーザー向けアプリの提供を開始予定だ。TOKYO SAUNISTスタートアップキャンペーンとして、37施設の初期導入費用を無償で提供する。初期費用には、3D-LiDARセンサーとサービスセットアップ費用が含まれる。月額サービス利用料は別途かかり、料金は後日発表するとしている。