トレランシューズメーカー4社に聞く「ライバル製品ってどうですか?」:ガジェットメーカーさんいらっしゃい

GIZMODO

個性が光ってます!

ギズモードの名物企画となりつつある「ガジェットメーカーさんいらっしゃい」。この企画では、特定のジャンルのメーカーさんをお招きして、それぞれ自社製品の魅力をたっぷり語っていただき、お互いのメーカーの製品の気になるところを深掘りしていただいています。

これまでにもカメラワイヤレスイヤホンノートPCゲーミングノートPCオーブンレンジのメーカーさんに貴重なお話を伺ってきました。そして、6回目となる今回のテーマは「トレイルランニングシューズ」です。

多種多様なトレイルランニングシューズを手にお集まりいただいた、シューズメーカー4社のみなさんに大いに語っていただきました。今回も盛り上がりそうな予感……!

トレランシューズってガジェットだ

左から:アルトラ「SUPERIOR 5」、サロモン「SPEEDCROSS 6」、アシックス「FUJI SPEED」、コロンビアモントレイル「MONTRAIL TRINITY MX」

シューズなのにガジェット? と思う方もいらっしゃるかもしれません。でも実は、トレイルランニングシューズってガジェットと呼べるぐらいテクノロジー盛りだくさんで、奥が深いんですよ。

トレランシューズは山で走ることを想定しているため、軽量性はもちろんのこと、岩や土が多い山道で滑らないためのグリップ力、地面の衝撃から足・足裏を守る耐久性や衝撃吸収力、速さを生み出すための工夫や長距離を走るランナーの脚を疲れさせないための工夫など、多くの要素が盛り込まれた超高機能なシューズなんです。

その高機能さやデザイン性の高さから、街なかでトレランシューズを履いている人も見かけるようになりました。(※街中で着用すると滑りやすい場合もあるので、注意が必要です)

トレイルランニングを実際にやろうと思った場合には、履いているシューズを変えることでタイムが縮まったり、怪我をしにくくなったりするので、自分に合ったシューズを選ぶことがものすごく重要なんですよね。

とはいえ、シューズの種類が多すぎて、どれを選んでいいかわからない〜という方にぜひ読んでいただきたい今回の企画。初心者にもベテランにも「なるほど!」と合点がいく知識が満載です。

司会進行役はこの人!

ランニングのウェブメディア&ギアマガジン「Runners Pulse」の編集長の南井正弘さん

今回、司会進行役を引き受けていただいたのが、スポーツライター・編集者の南井正弘(みないまさひろ)さん

シューズとランニングギア全般に造詣が深い南井さんは、大手スポーツシューズメーカーに10年間勤務した後ライターに転身され、現在はランニングのウェブメディア&ギアマガジン「Runners Pulse」の編集長として活躍されています。

実は、本日お集まりいただいたスポーツシューズメーカーのみなさんのほとんどは南井さんとは旧知の仲。南井さんのおかげで、終始なごやかな座談会となりました。

アシックス: FUJI SPEED(フジスピード)

「Sound Mind, Sound Body」をブランドスローガンに、スポーツを通じて心と体が充実した社会づくりをめざすスポーツブランド。アスリートファーストなモノづくりを一貫しており、21年春に誕生したMETASPEEDシリーズをはじめ、アスリ-トの声をとりいれた商品開発が強み。

ご担当者はカテゴリー統括部 パフォーマンスランニングフットウェア部 部長の池田新さん。

ALTRA(アルトラ):SUPERIOR 5(スペリオール5)

2009年創業。「人間が裸足で立っているのと同じ自然な状態のランニングシューズがあれば、ランナーのケガは減らせる」がコンセプト。走れなくなったランナーのランニング障害を解決しようと試行錯誤する中で、ひとつのヒントとなったのがかかととつま先の高低差のないソールだったという。シューズの名前はすべて山の名前に由来している。

ご担当者はALTRAの輸入代理店である株式会社ロータス代表の福地孝さん。

Columbia Montrail コロンビアモントレイル:MONTRAIL TRINITY MX(モントレイル トリニティー マックス)*2023年2月末発売予定

1997年アメリカ・シアトル発祥のトレイルランニングブランド。2006年にモントレイルがコロンビアの傘下に入り、2017年からはコロンビアモントレイルの名称に。傘下になったことで、コロンビアのシューズ・ウェア・バックパックなどのテクノロジーの共有により開発が大きく進み、シナジー効果を出しながらシューズの開発も進めている。

ご担当者は株式会社コロンビアスポーツウェアジャパン マーケティング部 ブランドマーケティング課所属の五十嵐将人さん。

SALOMON(サロモン):SPEEDCROSS 6(スピードクロス6)

1947年にフランスで創業。アルプス山脈の大自然とともに歩み、スキー・スノーボードから夏のアウトドアやトレイルランニング・ランニングまで、四季を通してアクティビティを楽しむ人のためのシューズ・アパレル&ギアを展開。アウトドアフィールドを自由に楽しみ、挑戦するための革新的なギアを生み出し続けている。

ご担当者はソフトグッズマーケティングチームの中村友美さん。

というわけで、さっそく始めていきましょう〜!

コロンビアモントレイル:マックスクッショニング素材を使用

コロンビア モントレイル「MONTRAIL TRINITY MX」

南井さん:今日はよろしくお願いします。

各ブランドのイチオシのトレイルランニングシューズを持ってきていただいていると思うんですが、まずは五十嵐さんからおすすめシューズの商品名と機能的なポイントの紹介をお願いできますか?

五十嵐さん(コロンビアモントレイル):今回ご紹介するのは、2023年2月末発売のMONTRAIL TRINITY MX(モントレイル トリニティ マックス )です。2022 年は「TRINITY AG」のみだったのですが、2023年は新しいモデルが2つ出ます。

南井さん:「TRINITY AG」はバカ売れしましたね。

五十嵐さん(コロンビアモントレイル):おかげさまで、もう9 月ぐらいには秋冬の分の在庫もなくなっちゃって、今も販売が追いついていない状態なんです。今年はAG以外に新たに2モデルが加わる予定でして、「TRINITY AG」 がオーソドックスなモデルだとすると、マックスクッショニングの「TRINITY MX」 と、よりスピードを出す「TRINITY FKT」というモデルを出す予定です。

「TRINITY MX」の一番の特徴は、見ていただくとわかるこの分厚いミッドソールです。コロンビアのTECHLITE PLUSH(テックライトプラッシュ)という最高峰の衝撃吸収素材を使っています。この素材はリカバリーサンダルにも使われるほど衝撃吸収に優れていて、「TRINITY MX」は超ロングディスタンス、100マイル(160km)以上走るランナーの方々に履いていただきたいシューズです。

2022年 10 月に行われた日本山岳耐久レース(編集注:通称ハセツネCUP。総距離71.5kmのトレイルランニングレース)でも、モントレイルアスリートの三浦裕一さんが「TRINITY MX」を履いてハセツネダブル(71.5kmのコースを2周の143kmを走る)のレースで3位に入ったりと、アスリートさんにも気に入っていただいています。

マックスクッショニング

TECHLITE PLUSH(テックライトプラッシュ)という最高峰の衝撃吸収素材を使用。かかと部分にはゲイター装着用のストラップが付属

バランスの取れたクッション性と耐久性

一見重そうだが、シューズで一番重量があるアウトソールの耐久性のあるフルレングスラバーを必要最低限の接地面積だけ残すことで、最大限のクッション性を維持しながら軽量化に成功している

足の甲を包み込むアッパー

シューズの内側にメッシュ状のソックライナーを入れることでフィット感が向上

五十嵐さん(コロンビアモントレイル):見た目は重そうなのですが、履くとそんなに重さを感じない仕組みになっています。シューズの一番重い部分はミッドソールからアウトソールにかけたパーツなのですが、ミッドソールの外側部分をくり抜いて必要最低限の部分だけ残すことで、クッション性を維持しながら軽量化に成功しています

モントレイルはフィット感を非常に大事にしていて、過去に80万~100万人の足型をデジタルスキャンして理想的なフィッティングを生み出した「インテグラフィット」も開発したブランド。「TRINITY MX」にも様々な工夫を施しています。

シューズの内側にメッシュ状のソックライナーというパーツを入れていて、その生地がしっかりと足を包み込んでくれます。

靴ひもも足の舟状骨(しゅうじょうこつ:土踏まずの頂点に位置している骨。ランニングで特に負担がかかりやすい)をサポートする形になっていて、しっかり締めるとかかとがブレずに走行できるので、終始快適に走ることができます。靴ひもの位置が少し中央からズラしてあるんですよ(上の写真を参照)。靴ひもを斜めに配置することによって、ぎゅっときつく縛っても足が圧迫されにくいという特徴があります。

南井さん:足の甲の上って血管がたくさん通っているから、そこをまっすぐ締めつけすぎると血流が悪くなっちゃうんですよね。

五十嵐さん(コロンビアモントレイル):はい。それと、「TRINITY MX」の価格は税込で 1万7600円と、2万円を切りました。今まで出たことがなかったすごくテッキーで未来的な形ですけど、変わり種じゃなくてしっかり機能に基づいているところを、ぜひ履いてご体験いただければと思います。

南井さん:これだけの機能で、かなり安いですね。ありがとうございます。続いて、ほかのブランドの皆さんにコロンビアモントレイルについての印象を聞きたいと思います。福地さんいかがですか?

トレイルランニングの先駆者

福地さん(アルトラ):モントレイルさんはトレイルランニングでいうとオリジナルですよね。 トレイルのシューズというカテゴリーを作ったメーカーって感じですよね。

五十嵐さん(コロンビアモントレイル):創業が1988 年とかのタイミングなので、かなり古くからトレイルランニングのシューズを作ってきてますね。

福地さん(アルトラ):ほんと、モントレイルに関しては僕はヘビーユーザーだったんで。当時アメリカに住んでたんですけど、モントレイルが出てきて、山に行く人たちの靴が変わっていったんですよ。モントレイルはそういう文化を作ったメーカー。その道の上を我々は歩かせていただいているみたいな。

五十嵐さん(コロンビアモントレイル):モントレイルはアメリカのシアトル発祥なんですけど、当時シアトルの若いハイカーたちは皮のブーツみたいなものを履いていて、もっと軽い、新しい靴を作ることによっていろんな場所に行けるようになろうということで作ったシューズブランドなんです。

『We run because every mile is different』という創業精神を表したコピーがあるんですが、「もっとおもしろい場所に行けるなら、いつもと違う道を行ってもいい。」ということで、これまでのトレッキングブーツだとたどり着けなかった場所や道を目指して、トレッキングブーツの形からだんだんランニングシューズに寄っていって、今のトレランシューズができたんですね。

池田さん(アシックス):モントレイルのシューズは運動した時の履き心地が素晴らしいと感じていました。形も新たになって、進化されているんだなとも思いました。

五十嵐さん(コロンビアモントレイル):ブランドとしてずっと大事にしているのがフィット感なんです。人種のるつぼであるアメリカにはいろんな足の形をした人がいるんですが、「かかとの部分は意外と個人差がない」ということに「インテグラフィット」を通して気づきました。かかとをしっかり固定すればいろんな人が快適に履けるシューズを作れるということなんですよね。

南井さん:次は福地さんからアルトラのおすすめ商品をお願いします。

アルトラ:怪我をしないランナーを作るシューズ

アルトラ「SUPERIOR 5」

福地さん(アルトラ):今回はSUPERIOR 5(スペリオール 5)を持ってまいりました。まずはアルトラの特徴として、ドロップ差がゼロ。つまり、つま先とかかとの部分の高さが同じ(フラットな形状)なんです。

南井さん:かかとの部分が厚いと、どうしてもかかとから着地することになり、かかと一点に衝撃が集中してしまいます。だから足全体で着地するために、ドロップ差をゼロにしているんですよね。

そもそもなぜこのブランドが始まったのかっていうと、ランニング障害で走れなくなったランナーがたくさん創業者のランニングショップに来て、なんとかこれを解決しようとする中でひとつのヒントとなったのが高低差のないソールだったんですよね? 私が補足するのもなんですが(笑)

福地さん(アルトラ):ありがとうございます。ほかのメーカーさんにこういうのを作ってくれないかって相談しても、なかなか聞いてもらえなかったそうで。結局自分でシューズブランドを作るしかないという、結果論としてできた靴のブランドですね。

アルトラのもうひとつの特徴はフットシェイプデザインで、人間の足そのものの形をしています。アルトラでは大きく分けて3つの足型があって、それぞれが親指と、第一指の中足骨という部分と、踵骨が一直線に結ばれるような形状になっています。SUPERIORは3つの足型の中でも少し細めなものですね。

南井さん:SUPERIORは今回のモデルで5代目ですね。

ブリトータン

福地さん(アルトラ):そうです。代を重ねるごとにだんだんレベルが上がってきていて、「SUPERIOR 4」からはシュータン(足の甲と靴紐の間に入っている部分。べろ)が足を巻き込むような形のブリトータンを採用しています。できるだけ肌に当たる部分を少なくして、足の感覚を重視するように作られています

アルトラの靴は全体的に柔らかく作られていて、ヒールカウンターもシャンク(ミッドソールの中に入れこむ板)もないんです。地面を蹴った時の足のねじれるような動きは、ある程度はあるべきと考えているので、地面に足が着いた時に自然な足の変形を促すような仕組みになっています。かかと部分も、柔らかくしたほうが様々な人のかかとにフィットしやすくて足が安定しやすいということを、独自のラボで動画を撮って研究・確認しながら作られているんですよ。

「SUPERIOR 5」はアルトラのシューズでは最軽量で、スタックハイト(アウトソールのつま先とかかとの高低差)が21mmとトレイルランニングシューズの中ではかなり接地感があります。足の感覚をしっかりと感じられる靴です。

「SUPERIOR 5」にはオプションでストーンガードという中敷きがありまして、それをインソールの下側に入れると地面からの突き上げをガードできるようになっています。ちょっとガレたところに行く時は入れる、足さばきの練習や距離が短いコースで接地感を出したい時には入れないとか、履き心地をカスタマイズできる多様性のある靴になっています。

南井さん:ガレた所っていうのは、岩でガチャガチャしてるところですよね。

福地さん(アルトラ):そうですね。石ころがいっぱいあって、どうしてもそれを避けられない環境だと、スタックハイトが 21mm だとクッションが薄い分足裏が痛くて長時間走ることが難しかったりするので。

クッションの厚みのある靴だと足元をあまり気にしなくていい分、「何を踏んでるのか?」という認識も薄くなってくるんですよね。足をぐねる(ひねる)のは足元を見ないことが原因だったりするので、初心者の方には接地感のあるトレイルシューズを履いてもらって、まずは短い距離から練習しましょうとお伝えしています。

南井さん:なるほど、わかりました。皆さんはアルトラのシューズについてどんなイメージを持たれていますか?

人間の足は走れるように作られている

五十嵐さん(コロンビアモントレイル):アルトラさんには熱狂的なファンというか、信者の方がいるなっていうのは非常に感じていて。

南井さん:信者(笑)。間違いない。

五十嵐さん(コロンビアモントレイル):ゼロドロップで、自然の走りをしようというブランドの作り方に共感して買っている方が多くて。アルトラの「MON BLANC(モンブラン)」というシューズも、2万円くらいすると思うんですけど、UTMF(ウルトラトレイル・マウントフジ:トレイルランニングのウルトラマラソンレース。 総距離はおよそ100マイル、累積標高差は約8,000m、制限時間は46時間)に出る時に2 足買いましたなんて人も僕のまわりに結構いて。個人的にも履かせてもらったこともあり、足幅が広くてすごく履きやすいなって思ってます。

池田さん(アシックス):僕もアルトラさんのアウトソールにずっと興味があって。足の可動域をフルに活かすという発想を、トレイルランニングシューズで出すところにすごく感銘を受けてるんです。これはトレイル、特に悪路で本領発揮するところってありますか?

福地さん(アルトラ):そうですね。靴って、そもそもアーチ(土踏まずのお椀型に盛り上がった形状)が落ちると足は壊れてしまうという前提で作られることが多いじゃないですか? それが「シャンク」やかかとがねじれないようにする「ヒールカップ」の構造だったりします。でもどうなれば足が壊れている状況なのかって、明確なエビデンスが存在していなくて。

そこで、アルトラの場合は「人間の足はもともとナチュラルな状態でどんなサーフェス(走路・路面)でも走れるように作られている」というのを前提にして、靴を作るようにしているんです。もちろん、しっかりサポートのあるスタビリティ系のモデルもあるんですけど、SUPERIORは最もナチュラルな動きが出せるモデルになっていて、特に初心者の方が自分の足の機能をしっかり使える範囲で山を楽しみましょうというコンセプトなんです。例えばアーチが落ちたりとか、かかとがプロネーション(ねじれ)を起こしたりっていうのはある程度必要なので、その許容範囲をしっかり持った靴って感じですね。

トレイルとロード両方いける靴が増えた

池田さん(アシックス):なるほど。自然の動きとして許容するという考え方なんですね。

福地さん(アルトラ):当然そこを補正したほうがより長く、痛みなく走れる靴にはなると思うんですが、SUPERIORもまたひとつの選択肢としてあってほしいなって。

中村さん(サロモン):トレイルランニングって、足の形によっては下りは指先がつまってしまいますけど、アルトラさんは指先が広くて疲れにくいですよね。あと、ロードとオフロード兼用のシューズも結構いろいろ出してますよね。

福地さん(アルトラ):ロードはロードだけ、トレイルはトレイルだけってぶった切るんじゃなくて、いろいろ遊ぶ中でトレイルがあったり、ロードがあったりしたほうがおもしろいよねってことで、両方行けるような靴も最近は多くなってますね。

中村さん(サロモン):サロモンもそういう形でやってます。トレイルだけになっちゃうと、やっぱりソールが削れやすいじゃないですか、トレランシューズって。

南井さんラグ(アウトソールの凸凹した突起)が高いトレランシューズは街中で履くと、ソールが早く減っちゃうんですよね。アイススケート靴と一緒で、接地面積が少ないので雨の日は滑りますし。

福地さん(アルトラ):そうですよね、グリップが削げてしまうと山で使いにくくなっちゃうんで、もったいないですよね。

池田さん(アシックス):アスファルトならまだいいんですけど、タイルとかはグリップが効かないので気をつけたほうがいいですね。

中村さん(サロモン):雨の日のマンホールも滑るんで、絶対にやめてくださいね!(笑)

南井さん:次は池田さん、よろしくお願いします。

アシックス:1秒でも速く走るための最上級シューズ

アシックス「FUJI SPEED」

池田さん(アシックス):今回ご紹介させていただくのはFUJI SPEED(フジスピード)です。

アシックスには大きなコンセプトに特徴づけられたラインがふたつございます。ひとつが「プロテクト」で、より快適にクッション性や安定性を重視するランナーに向けたシリーズです。もうひとつはレースで勝利を目指すランナー、軽量性を重視するランナーへ提案する「スピード」シリーズで、今回お持ちした「FUJI SPEED」は、このスピードのラインの最上級モデルです。

スピードモデルには軽量化が求められるので、耐久性が必要なところに耐久力のあるパーツを配置しながら、いかに軽量化するかということで、今回はアッパー(足の甲を覆うシューズの上半分)にネクスキンという素材を使っています。

池田さん(アシックス):ミッドソールに使われているFLYTEFOAMというフォーム素材は、トレイルで岩肌や木の根の窪みの間を走行する時も、一定の柔らかさがありながらもしっかりと弾性をもって前に進むことができます。

池田さん(アシックス):さらに、ソールの中足部にPEBAXという素材のプレートを入れることで、安定的な走行推進力が促されると同時に、より効率よく脚を動かせるというメリットがあります。走行するときの足首の可動域が広ければ広いほど、脚、特にふくらはぎの筋肉をたくさん使ってしまうのですが、プレートを入れることで足の可動域を抑制することができて、ふくらはぎの筋肉を過度に使わないようにできます

前足部はフレキシブルに動くような構造にしつつも、より体重移動しやすい位置にプレートを入れることで走行効率性を上げているところがポイントです。

南井さん:PEBAXってナイロンの一種で、硬いプレートですよね。箱根駅伝とかで選手が履いている靴に入れられているカーボンプレートが今話題ですけど、それに準ずる形でPEBAXっていう合成樹脂があるんですよね。

池田さん(アシックス):純カーボンはあまり屈曲しないので、ある程度の脚力を持った人でないとちゃんと使いこなせません。屈曲しやすいのがこのPEBAXプレートの特徴ですね。

南井さん:PEBAXはアシックスさんのトレイルランニングシューズだけじゃなくて色々なものに使われていて、例えば野球のスパイクの底だとか、それを発泡させたミッドソール素材とかもあるんですよね。 コロンビアモントレイルさんの「TRINITY AG」もPEBAXの樹脂プレートを使ってますよね?

五十嵐さん(コロンビアモントレイル):はい。なぜPEBAXなのかっていうと、カーボンだと前に直線的に進む時の推進力はあるけれど、曲がる時に遠心力がかかって足をぐねっちゃったりとか、バランスが取りにくいと考えています。樹脂だとスピードとのバランスが取れて非常に小回りが利き、なおかつトレイルでもロードでもリズムが変わることなく走れると、すごくご好評をいただいてます。トレイルだとPEBAXのプレートが最適解なのかなと考えています。

南井さん:なるほど。「FUJI SPEED」は靴ひもがすごく変わってますよね。

池田さん(アシックス):そうなんです。シューレースはアシンメトリーになっていまして、アッパー自体を非対称にすることで足と一体化させる工夫を施しています。シューレースストッパーを使用することにより、素早い着脱や調整が可能な操作性も追求しました。

南井さん:シューレースポケットもついていますね。靴ひもの余った部分を入れこむことで、走っている時に引っかからないとか、そういう効果がありますよね。

池田さん(アシックス):その通りです。あとは、走行効率性を上げるポイントとして湾曲したソールデザインがあげられます。つま先を上げることによって、より前へ一歩踏み出す推進力を高めています。

日本人にベストなフィット感

南井さん:履き口でいうと、アシックスのランニングシューズのフィット感はいろんなブランドの開発担当者が「あれだけはなかなか真似できない」って言っています。

池田さん(アシックス):かかとはもちろんのこと、履き口からつま先までのフィッティングをどうやって最上に仕上げるかを考えて作っています。特にウィズ(足囲)のサイジングを豊富に扱っているのはアシックスの特徴だと思ってまして、ナローからスタンダード、ワイド、エクストラワイドとあります。母趾球から小趾球にかけては人によって千差万別ですし、日本には幅広甲高の方が多いので、そうした方々からいただいている支持は非常に大きいかなと思ってます。

福地さん(アルトラ):アシックスさんは日本人だったら知らない人はいないですよね、もう小学校の頃から履いてるから(笑)。あと、靴を扱うようになって思ったのは縫製の良さ。もう細かい部分のレベルが段違いに素晴らしいなと。ミシンのピッチが違いますもんね。クオリティコントロールというか、ほんと安心して売れるシューズだなあって思いますよ。完成度がもう世界一ですよね。

五十嵐さん(コロンビアモントレイル):僕が学生時代にスポーツショップでアルバイトしていた時も、アシックスがすごい売れていて。本当に日本発のブランドとして誇らしいですし、開発力がすごいので、見ていて次に何が出るのかが楽しみです。

中村さん(サロモン):私もアシックスさんには学生時代からお世話になってます。「FUJI SPEED」に関しては軽量シューズの要望が高かったんですか?

池田さん(アシックス):はい。「FUJI SPEED」は以前「GEL-FUJI TRABUCO SKY(ゲルフジトラブーコ・スカイ)」という名前だったんですが、現在は名前自体を明確に分け「FUJI SPEED」は、アスリートの要望に応えるため軽量性とスピードアップにフォーカスするシリーズとし、TRABUCOの名前を冠したシリーズは、快適性を重視し、クッション性・安定性を重視するランナー向けにフォーカスしていています。

南井さん:ありがとうございます。最後は中村さんから、スピードクロスのご説明をお願いします。

サロモン:ぬかるんだ道で威力を発揮

サロモン「SPEEDCROSS 6」

中村さん(サロモン):6シーズン目を迎えたSPEEDCROSS (スピードクロス )は、サロモンの中でもアイコニックなシューズとして、おすすめさせていただいております。

もともとぬかるみに強いモデルなんですが、今回アップデートされてさらに良くなっています。アウトソールがゴツゴツした作りになってるんですが、シーズン5までは三角形だったグリップの形を変えることで、よりグリップが効きやすく、ぬかるみに強く、土の抜けが良くなりました。雨の日も走りたい時は、これで走れば下りでも滑らずに行けます。

ソール全体のスタックハイトが3mm低くなり、シューズのコントロール感を高めました。

ホールド感のあるアッパー

ソールと一体化することで、ホールド感が強化されている

ぬかるみに強いアウトソール

グリップの形を変えることで、よりグリップが効きやすくなった

深いシャープなラグ

ぬかるみに強く、土の抜けが良くなった

クイックレース

丈夫で細いシューレースを1 回で締めあげる

中村さん(サロモン):サロモンは今年75周年を迎えたんですけど、もともとクロスカントリースキー用の革製ブーツを作っていたので、圧着の技術と、異なる素材を組み合わせることを得意としています。雪がなくなった閑散期に、その売れ残った皮のクロカンブーツのソールをゴム素材に付け替えてハイキングシューズとして売り出したのが始まりだったんですね。

トレランシューズも、トレイルランニングと呼ばれる前の“アドベンチャー”だった時代から作っていたので、本当に山をすべて遊べるようなアイテムが揃っています。

南井さん:サロモンの場合、ラインナップがダントツに多いので、いろんなタイプやレベルのランナーに対応できるのは本当にすごいなあと思います。ランニングシューズのデパートというか、ショッピングモールですね。足型だって中村さん、数え切れないぐらいあるでしょ?

中村さん(サロモン):トレイルランニングシューズだけで20型ぐらい……?(笑)けっこう幅広くラインナップしているので、いろんな方にしっかりと合うシューズがあると思います。

中村さん(サロモン):このシューズに限らず、アパレルとかバックパックもそうなんですけど、サロモンの製品は「フィット性」「軽量性」「多様性」をもとに作られていて、見えているデザインすべてが機能になっています

異素材を組み合わせたアッパー

靴ひもを引っ張るとすぐ脱げるような構造をクイックレースって呼んでるんですが、このクイックレースがすごく使いやすいって言ってもらえるんですね。特徴的なシューレースの部分のギザギザは単純にデザインとして入っているわけではなくて、ここがしっかりと足の甲を押さえることによってフィット感が強化されています。

南井さん:ありがとうございます。サロモンについて、皆さんはどう思っていますか?

過酷なロケーションにも耐えるシューズ

福地さん(アルトラ):トレイルランだとやっぱり最初はサロモンとモントレイルの二択みたいな感じではありましたよね。このふたつが業界の礎を作ったように感じます。今でもトップ選手はやっぱりサロモンをあげているイメージが強いですし。

五十嵐さん(コロンビアモントレイル):サロモンはアスリートファーストのブランドだなというのは非常に感じていて、アスリートさんと一緒に開発しているし、そういうブランディングはすごく得意なのかなと。

僕らモントレイルはアメリカのブランドで、いわゆる平行移動のトレイルが主戦場なんですけど、サロモンさんだとヨーロッパのアルプスとかの山岳地帯をスカイランニング(山岳や超高層ビルなどの急斜面を空に向かって駆け登るスピードを競う競技)するような、そういうバーティカルなイメージがあって。見た目もテッキーでかっこいいですし、日本のトレイルレースでトップ選手が愛用してるのが分かりますよね。

池田さん(アシックス):僕はファブリックの使い方がすごいなと思ってまして。耐久性と軽量性を突き詰めるのに異素材をいろいろ使って新たな提案を靴に表していく、斬新なメーカーなのかなと。やっぱりトレイルが一番過酷なロケーションですから、アスリートファーストという意味でも選手に沿って作っているんだなとわかるので、すごいなと思います。

トレイルランニングはここが楽しい!

南井さん:最後に、みなさんにとってのトレイルランニングの楽しみ方みたいなのがあれば教えてください。まあ、よく言われるのは、ロードランニングはずーっと走り続けないといけないけど、トレランは上りは歩いてもいい、みたいなね。

五十嵐さん(コロンビアモントレイル):僕もそれを言おうと思ってたんですよね(笑)。 あとは仲間ができるっていうところですかね。ひとりじゃなくて何人かで山に行って、走りながら美しい景色を見て。ちょっと旅行気分を味わえるというか、走るスポーツとしての新しい楽しみ方があると思います。

中村さん(サロモン):トレランを始めて思ったのは、ちゃんと自分の危機管理もして山に入るという新しい遊び方が身に着いたなと。ちょっとハイキングに行くだけだったらファーストエイドキット(応急処置用の救急箱)をつい忘れてしまうところを、トレランだと絆創膏とか、テーピングとか、そういう必携装備を持っていないと何かあったら対処できないという考え方が自分の中に浸透してきていて、新しい視点で物事を考えられるスポーツなのかなって思います。

トレイルランニングだとロードと違って石もあるし、実際に山に行ってみないとそこがガレ場なのかもわからないから、事前の準備と答え合わせをしていくみたいな感じですごく魅力のあるスポーツだなって思います。

池田さん(アシックス):走ることだけが目的じゃないっていうところもおもしろいですね。なにか食べたり、みんなでわちゃわちゃしたり、その場を長時間共有できるっていうことも魅力ですね。

福地さん(アルトラ):山って、走らなくても気持ちいいじゃないですか。でも走っていて景色が開けると、よくトレイルを走る方がいう「ヒャッホー感」がある(笑)。それが一番ロードと違うのかなと思いますね。

あとは、ある程度上りきったあと、なだらかな下りをずーっと巡行しながら走るのは感覚的に気持ちいいですよね。ほとんど力を使わず、体重を重力に合わせて落としていくような感覚はロードにはなくて、フローを感じやすい。ロードだと2Dでフラットなところを走るというのから、地形を楽しむ3D の遊びに変わるのがトレイルランニングの楽しみなのかなと思います。


どうです、みなさんもヒャッホーしてみたくなりました?

各社の技術とこだわりを知れば知るほど、トレイルランニングシューズは走るためのガジェットなんだと納得していただけましたでしょうか。それぞれのシューズの特性を知った上で、自分の目的や走法にベストな一足を探し出す一助になれば幸いです。

さて、次回はどんなメーカーさんをお呼びできるでしょうか。ではまた次回!

Reference: ALTRA, ASICS, Columbia Montrail, SOLOMON
Photos: 山田ちとら