こんにちは、編集部 石川です。
毎月1回、当サイトのライターに専門分野や得意分野の話を聞いています。今回は、人形劇団出身のとりもちうずらさん。
人形のかわりに玉をもって演技する稽古や、一度出発すると一カ月くらい帰ってこないという旅公演、人形で荷物ギュウギュウの海外公演など、幅広くききました。
イカをこよなく愛する人形劇人。特にコウイカが好きです。
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石川:人形劇団にいたのっていつ頃ですか。
とりもちうずら:大学卒業してすぐ入団して、3年間ぐらい。コロナのタイミングで転職しました。
石川:そうとう濃厚な3年間ですよね。
とりもちうずら:人形劇団員って定年ないんですよ。やる人は延々、80歳の人なんかもいて。40でも若手って感じなので、私なんかはほぼ素人です。
石川:40代は若手なんだ。じゃあ、40代の人が若者の役をやることもあります?
とりもちうずら:あります。なんの役でもできるのが人形劇の面白いところだと思います。人間の役者だと50代の人が演じたら50代の印象になるけど、人形劇は自分以外のものに違和感なくなれます。
石川:たしかに。
とりもちうずら:役でいうと、私は目玉焼き役だったときもあります。妖怪とか、ただの丸い玉の役とか。そういう人以外のものにもなれるのが面白いところです。
石川:丸い玉の役?
とりもちうずら:そういう稽古があるんです。丸い玉で喜怒哀楽を表現しろみたいな。
石川:丸い玉の人形があるんですか?
とりもちうずら:丸いスチロール玉に棒が刺さってるだけです。劇団に入ったときに最初にやる訓練が、その丸い玉でいろんな年代の人を表現するというものでした。丸い玉でおばあちゃんやってみて、とか。
石川:すごい(笑)。
怒るまで帰してもらえない
石川:人形での表現ってどういうところが難しいですか?
とりもちうずら:人間の役者の演技って相手に伝わりやすいと思うんです。でも間に人形を挟むと、100%の力でやっても80%ぐらいしか伝わらないんですよ。怒ったり、嬉しいとか悲しいとかそういう感情も全部。こっちが120%でやって、初めて100%に見えるかなっていう。
石川:なるほど、ワンクッション置いちゃうから。そういう意味ではこの「出づかい」は、直接人間が出るじゃないですか。表現としては伝わりやすい?
とりもちうずら:そうですね。でも人形より役者さんに注目されちゃったらそれはそれでダメなんです。あくまで人形劇なので、人形を主役にしつつ動く。上手い人はちゃんと人形を邪魔しないような演技をします。
石川:人の方が伝わりやすいのに、主役になっちゃいけないんだ。
とりもちうずら:そうです。そこが出づかいの難しいところだなと思います。
石川:人間の表現力が高すぎちゃだめなんですね。逆に。
とりもちうずら:人形の邪魔にならないような動きをどの劇団も研究されていると思いますね。
石川:なるほどー。ちょっと戻るけど、さっき120%の表現をしなければいけないって話があったじゃないですか。120%怒るっていうのはどういうことなんですか?
とりもちうずら:私、怒る演技がすごい下手なんです。最初、怒る演技の稽古のときに、じゃあ怒ってくださいって言われたんですよ。人形も持たずに、「いま怒って」って言われて。何も怒ることがないし、できないじゃないですか。そしたら「今日怒らないと帰れないと思ってね」って言われて。
石川:めちゃめちゃスパルタですね。
とりもちうずら:そしたら本当に私の怒り待ちみたいになってきて、どんどん日が沈んでも帰らせてくれなくて。
石川:どうなったんですか?
とりもちうずら:本当に帰りたすぎて怒りました。演じるというより、本当に気持ちを入れて怒るのがけっこう重要なんじゃないかと思います。
石川:人形をこういうふうに動かすと怒って見える、みたいなテクニックの話じゃなくて、気持ちを高めないとダメっていう。
とりもちうずら:動かし方もありますよ。大げさに動かしすぎるとバタバタしてるだけになるんです。実際に人が怒るときって、そんなバタバタしないじゃないですか。ただ首を振るぐらいのシンプルな動きなんです。でも人形でやるとなるとけっこう大げさにやっちゃいがちなんですよね。
石川:120%なのに、大きく動かしちゃだめなんだ。難しいですね。めちゃめちゃ難しい。
とりもちうずら:劇団によっても方針がかなり違うみたいですけどね。歩くときも、体を揺らして歩く劇団と、スーッと横移動みたいな劇団もあったりして。よりリアルな人の動きに寄せるのか、コミカルに漫画的に演じるのか。
石川:あと表情も難しそうだなと思って。人形って怒った顔とかないですよね?口がパクパクするぐらい?
とりもちうずら:動かせるやつもあるんですけど、棒づかいとかは基本的には全く動かないのも多いです。
石川:身振りで表現しないといけないんだ。人形劇の難しさがちょっとずつわかってきた気がします。