バルミューダ、円安直撃で原価率が増加–営業利益は大きく減少「意地で黒字に」

CNET Japan

 バルミューダは、2022年度(2022年1~12月)業績を発表。売上高は前年比4.3%減の175億9500万円、営業利益が95.1%減の7500万円、経常利益は99.0%減の1400万円、当期純利益が99.7%減の300万円となった。売上原価率は、前年の60.2%から68.9%へと、8.8ポイント上昇。営業利益率は8.3%から0.4%へと、7.8ポイントも悪化した。

業績サマリー
業績サマリー

 国内は携帯電話事業の反動減と、家電販売の減速により、売上げが減少。外出機会の増加と、物価上昇による消費動向の変化が逆風になった。だが、海外は2021年末に発売した「BALMUDA The Brew」と、「BALMUDA The Range」が韓国において貢献し、増収になった。

 バルミューダ 代表取締役社長の寺尾玄氏は、「記録的な円安の直撃により、原価率が大幅に上昇した。今回の業績はここに尽きる。また、経費の効率運用を徹底し、年後半はこれ以上絞れないというところまで圧縮したが、営業利益率は大きく減少した。意地で黒字にした」と語る。

バルミューダ 代表取締役社長の寺尾玄氏
バルミューダ 代表取締役社長の寺尾玄氏

 2022年11月時点で通期業績予想を下方修正し、売上高見通しを184億1000万円としていたが、今回の発表では、そこからも8億1400万円減少している。「高い精度で見た数字ではあったが、年末商戦の伸び悩みが想定以上であった」とした。

 製品カテゴリー別売上高は、空調関連が前年比13.4%増の37億9800万円、キッチン関連が12.5%増の108億3700万円、携帯端末関連が69.5%減の8億6800万円。その他(クリーナー、スピーカー、照明など)が18.0%減の20億9100万円となった。

製品カテゴリー別売上高(空調関連、キッチン関連)
製品カテゴリー別売上高(空調関連、キッチン関連)
製品カテゴリー別売上高(携帯電話端末関連、その他)
製品カテゴリー別売上高(携帯電話端末関連、その他)

 また、地域別売上高は、日本が19.2%減の109億1800万円、韓国は30.5%増の43億2800万円、北米が49.4%増の6億5800万円、その他が52.6%増の16億9000万円となった。

 販管費比率は、前年同期の31.6%から30.6%に減少。販管費の内訳は、人件費が14億8000万円(前年実績は15億6000万円)、広告宣伝費は4億8000万円(同6億5000万円)、試験研究費は3億3000万円(同6億9000万円)となっている。従業員数は前年同期の147人から168人に増加。そのうち、エンジニアは87人、デザイナー15人、その他が66人となっている。

 「非常に厳しい1年であった。ここが、がんばりどころであると感じている」と、2022年を総括した。

 ちなみに、バルミューダでは、円安の進展にあわせて、一部国内生産を検討していたが、「現時点では、国内生産の検討は具体的には進めていない。実際に見積もりをとってみたが、日本での生産は安くない。部材も輸入品であり、人件費も高い。ただ、中華圏で生産しているものが多いため、そのバランスは良好ではない。日本での生産もあきらめてはいないが、ほかの地域での展開も検討していく」とした。

 一方、2023年度(2023年1~12月)の業績見通しは、売上高は前年比5.1%減の167億円、営業利益は33.3%増の1億円、経常利益が254.8%増の5000万円、当期純利益が1052.9%増の3500万円とした。営業利益率は0.6%、売上原価率は67.1%を見込んでいる。

業績予想
業績予想

設計完了していた携帯電話の製品化を断念でも「撤退は視野に入っていない」

 バルミューダを取り巻く事業環境として、「イエナカ需要の反動」「物価上昇による生活防衛意識の強まり」「円安による仕入れコストの高止まり」の3点をあげながら、「2022年に続き、厳しい事業環境にあると認識しており、現時点では売上減、利益微増の計画にした」と述べた。

 寺尾社長は、「これまでは、巣ごもり需要やイエナカ需要の享受を得てきたが、その反動が出てくることになる。また、各家庭で電気代が上昇するなかで、高価な家電を購入する理由が弱まっている。円安についても一時は150円まで到達したものが、130円になってきたが、その為替レートでも環境は悪い。バルミューダは110円半ばから後半の為替レートをもとに10年間かけてビジネスモデルを構築してきた。それが崩れている。元の為替レートには戻らないという状況で考えていかなくてはならない」などと厳しい見方をしている。

 製品カテゴリー別の売上高見通しは、空調関連が前年比20.1%減の30億3400万円、キッチン関連が7.9%増の116億9300万円、携帯端末関連が99.5%減の400万円。その他が5.9%減の19億6800万円とした。

業績予想 製品カテゴリー別
業績予想 製品カテゴリー別

 「為替が大きく動いた2022年後半に、大型製品を含めて、かなりの開発案件をストップした。原価がいくらになるかわからず、ビジネスが読めないため、開発を止めるしか選択肢がなかった。これらは、2023年3月、5月、6月に投入する予定だった製品であり、それが2023年前半の業績に大きく影響することになる」とした。

 携帯電話は、2022年8月に設計は完了していたが、為替の影響が読めず、価格設定ができないため、製品化を断念。「これは、幻の製品になった。いま、新たな製品を開発しているが、2023年の業績予想のなかに取り込めるものにはなっていない。スマホ事業からの撤退は私の視野には入っていない」とした。

 キッチン関連では「BALMUDA The Toaster Pro」の上振れの影響のほか、新製品をいくつか投入する計画であり、新製品を中心に売上げを拡大することになるという。

 「下期から投入する新製品は、品質を確保しながらコストダウンできる設計にしている。原価率は改善できる。下期予定の新製品を、少しでも上期に投入できるようにしたい」と述べた。

 また、地域別売上高見通しは、日本が前年比13.0%増の123億3600万円、韓国は44.5%減の24億円、北米が49.6%増の9億8500万円、その他が42.2%減の9億7700万円となした。「韓国では物価上昇を含めて、消費マインドが冷え込んでいる。米国や中国も同様である。海外事業は厳しい1年になる」と予測した。

業績予想 地域別
業績予想 地域別

 試験研究費は前年比15.7%増の3億8400万円としているが、「2022年の期初には、試験研究費として6億円としていたものを、後半の開発案件の停止によって絞り込んだ。今期の数字も少ない水準である。試験研究費はなるべく増やしていきたい」と語った。

 寺尾社長は、2023年において、「原価、経費の最適化」「海外マーケットの強化」「新たな価値の創造」の3点に取り組む方針を示した。

 「10年かけて構築してきたビジネスモデルの構成要素のひとつである為替レートが大きく変化した。そのため、開発の構造を変え、新たなビジネスモデルを開発しなくてはならない。いまこそ、丁寧に、誠実な気持ちで仕事をしなくてはならないと思っている。ただ、ときには大胆に決断をしていかないと、いまを乗り切れないと考えている」と、いまの心境を吐露した。

 「原価、経費の最適化」では、製品原価の低減や、経費構造の最適化による収益性改善を推進。「原価も、経費も目標以上に下げる取り組みを全社で行っているところだ」と述べた。

 「海外マーケットの強化」については、北米市場に子会社のBALMUDA North America Inc.を設立するほか、駐在員派遣によるマーケティングの強化、東南アジアでの新たな販路の拡大に取り組むという。現時点では、東南アジアのどの国に参入するのかは明言しなかった。

 「新たな価値の創造」においては、バルミューダの強みであるアイデア、デザイン、エンジニアリングの力を統合。さらに、下期に向けて、既存カテゴリーでの新製品投入、新ジャンルでの可能性の最大化に向けた研究開発を推進する。

人に必要とされるものからより社会的な価値が高いものへ

 寺尾社長は、「ここまで悪い数字を目の前にすると、バルミューダの強みはなにか、ということを改めて考えざるを得ない」と前置きし、「バルミューの強みはデザインである。ここは圧倒的に強い。そして、デザインしたものを、絵に描いた餅のままではなく、実物にしていく力がある。デザインとエンジニアリングの力を統合して、お客様と社会に利益を提供し、再び成長路線に乗せる」と意欲をみせた。

 寺尾社長は、創業時を振り返りながら、「この仕事を始めたのは、デザインが持つ輝きのすごさを感じたからである。デザインは社会を変えていく力になると思い、バルミューダの仕事が始まった。デザインをするだけでなく、町工場に行って製品を作ってもらった。1人でやっている頃は拙いものだったが、これはエンジニアリング以外のなにものでもない。バルミューダは、デザインとエンジニアリングを20年続け、それだけをやってきたともいえる。だからこそ、原点回帰をして、自分たちがやりたいこと、やるべきことを一致させ、がんばり抜きたい」とコメント。

 「やりたいことが、社会、会社、従業員、株主、お客様に対して、良いといえるものでなくてはいけない。これが、バルミューダがやるべきことである。そして、やりたいことと、やるべきことを一致させるのがデザインである。パンをおいしく焼くことはデザインであり、自然界と同じ風を生み出すグリーンファンはエンジニアリングであると同時にデザインであった。バルミューダの夢と、お客様の幸せをつなぐのがデザインである。これがバルミューダの強みである。この強みを発揮するためにどうするのかを考えている」とした。

 バルミューダでは、2022年前半から本部制を敷き、5人の本部長がそれぞれの担当分野で業務を推進する体制となっている。なかでも、デザインチームから多くのアイデアが生まれており、エンジニアリングチーム、マーケティングチーム、セールスチームとの連携で、製品づくりを進めているという。

 また、「創業時の夢は、単純に格好いいものを作りたいということであり、中学生のような気持ちで始めた。自分の欲しいものを作っていて、倒産寸前になって、気づいたのが、人に必要とされるものを作らなくてならないということであり、その第1弾がグリーンファンであった。必要とされるものが提供でき、初めて世の中と結びついた。最近思っていることは、より社会的な価値が高いものを作ることである。バルミューダは、そうした時期に差し掛かっているのではないか。5年後に作っているものは、いま作っているものよりも、社会的な価値が高くなっている。より多くの人に楽しんでもらえたり、必要としてもらえたりするものを作るべきだと考えている」とも語った。

 なお、バルミューダは、2023年に創立20周年を迎えることになる。

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