なぜバレアレス州は病院や診療所でスペイン語による表示を削除したのか

アゴラ 言論プラットフォーム

カタラン語習得を医療従事者に義務づけることの抗議デモ ESPAÑA, CARTELES EN CASTELLANO A QUITAR.07-10-2021.

病院と診療所でのスペイン語での表示を削除

今月2日、カタルーニャ州の影響が強い5つの島(マジョルカ、メノルカ、イビサ、フォルメンテラ、カブレラ)から成るバレアレス州で社会労働党のフランシナ・アルメンゴル州知事が病院と診療所でスペイン語(カスティーリャ語)が単独で表示されているものはすべて削除するようにという知事令を出した。カタラン語とスペイン語が一緒に表示されているものとカタラン語だけのものはこの対象外となった。要するに、同州からスペイン語を排斥しようとする運動の一貫だ。

思慮分別なく指示された通りに州の職員はスペイン語の表示物を急ぎ削除したものだから患者や診察を受ける人にとって重要な内容が記載された表示も無くなるという事態が発生した。

このような軽率な州政府の決定に対し、その被害を受けている医療従事者は「馬鹿げたことを辞めるべきで、重要なことを解決すべきだ」と表明し、言語についてはこれまでいつもカタラン語でもスペイン語でも自由に選べたことを喚起した。(10月2日付「ABC」から引用)。

医師がカタラン語での診療を拒もうとした?

今回の出来事の発端となったのは、8月30日、パルマ・デ・マジョルカ市のソン・ピサー診療所で79歳の女性が身体の具合が悪いのを女医の前でカタラン語で説明し始めた時に診察していたその女医がスペイン語で説明してくれた方が分かり易いといった。それを耳にしたこの女性の息子バルトメウ・フォはメディアで仕事をしているということも手伝って、それを早速ツイートにて「診療所の一人の医師がカタラン語での理解を拒否した。マジョルカの市民への尊重が足らない。それを改め直すことを一人の市民として要求する」と訴えたのである。更に、彼が指摘しているのは「この女医は公的に給与をもらっているのだ。彼女が少なくともやるべきことは(バレアレス)州の公用語であるカタラン語を理解できるようにすることだ」「私の母親は高齢者だ。健康上の問題を伝えることに恐れを抱かせるようになる」と語ったのである。幼少の頃から日常カタラン語しか喋らずに育って来た高齢者にとってスペイン語で敢えて話さねばならないような場面に置かれると、うまく説明できないのではないかという恐れを抱くようになるということなのである。ましてや、それが自分の健康のことになると尚更である。

筆者が住んでいる町でも町民は日常バレンシア語をしゃべって生活している。特に高齢者の場合はスペイン語をしゃべる機会は非常に僅かだ。だから高齢者がスペイン語で話す必要に迫られると馴染めない言語を喋っているといった感じで話している本人自身が聞いてくれる相手が分かってくれるだろうかという不安に包まれながらたどだとしく喋っているという場面を筆者はよく観察して来た。

カタラン語とバレンシア語は筆記は同じで発音が幾分異なる(カタラン語の方が濁音が多い)。だから、今回のツイートの対象になった高齢者が抱いた気持ちは筆者も良く分かるような気がする。

しかし、それをツイートまでして荒立てる息子の行動にも疑問が湧く。これもカタルーニャで独立気運が高まっていることから仕方のないことかもしれない。

州政府は医療従事者にカタラン語の習得を義務化

フォン氏のツイートを早速利用したのが過激独立派政党CUPに属している若者の組織アラン(Arran)である。問題となった診療所の壁にその翌日「言語の侵略はもうたくさんだ」と書いてスペイン語を受け入れることを拒否する主張をしたのである。

それが発展して今回の州知事令による病院と診療所でのスペイン語で書かれた表示をすべて削除することが命じられたのである。

しかし、2007年の自治州条例ではカタラン語とスペイン語はバレアレス州の公用語とされている。そして州民の間でカタラン語とスペイン語の両言語が認められる権利があるとなっている。(9月14日付「ディアリオ・デ・マジョルカ」から引用)。

 医師不足から中南米の医師を雇用せねばならなくなっている

ところが、アルメンゴル氏が州知事に就任して以来スペイン語を排斥する姿勢が強くなっている。2018年の州条例で医師はカタラン語の初歩B1、看護師はA2のレベルを取得する義務があるとされたのである。このレベルは州政府が勝手に決めたレベルである。そして2年間で指定されたレベルに到達しない場合は職場を失うことになる。

ところが、問題はそのような基準を受け入れる医師は僅かで診療医が350人不足し、300人以上の看護師がバレアレスから去ったのである。それで州政府は仕方なくキューバ、コロンビア、ベネズエラ出身の医師を雇わねばならない羽目になっている。更に問題は雇用された中南米の医師の中にはスペインの医者として医療活動するために認定を受けていない医師もいるという問題を抱えることになっている。(9月12日付「エル・エスパニョル」から引用)。

バレアレス州の政治家による政治イデオロギーの犠牲されているのが公共衛生である。来年にはバレアレスの15%の医師が退職することが見込まれている。しかも、現在は一人の医師が2000人の患者を診るという医師の不足を如実に示している。にもかかわらず、政治家はカタラン語を医療従事者に義務付けしようとしているのである。だから、あえてバレアレスで医療活動を望む医師が次第に減っているというのが現状だ。

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