田んぼの外で独自に進化するかかしたち(デジタルリマスター)

デイリーポータルZ

かかしコンクール、はじまるよっ!

9月!秋だ!秋といえば赤とんぼ。あと「かかし」!

8月のある日、何気なく区報を見ていて、江東区でかかしコンクールが行われるという情報をつかんだ。これは見に行かねば、と胸を膨らませつつ8月をやりすごし、いよいよやってきた9月。ついにきた。秋だ。かかしだ。コンクールだ。

同類のかかしコンクールとして、以前ライターの小野さんが鴨川市のかかしコンクールについて書いている。しかし、むこうが農地密着型ならこちらは下町系かかし。農地を知らずに育ったかかしたちには、また違った魅力があるはずだ。

そんなわけで、さっそく見に行ってきた。東京都のかかし達。

2007年9月に掲載された記事を、AIにより画像を拡大して加筆修正のうえ再掲載しました。

今年で10年目だそうです

かかしコンクールが行われているのは、江東区の深川資料館通り商店街。昔ながらの店が並ぶ下町の商店街だ。このコンクールは今年で10周年、10回目のコンクールなのだという。

取材日は台風9号上陸の前日。朝から強い雨が降っており、もしかしたら展示作品はどこかに取り込まれているのでは…。そんな心配をしていた。しかし商店街に差しかかると、さっそく芭蕉かえるがお出迎え。そして、そこから先、歩道に沿ってずらりと並ぶかかし、かかし、かかし。

雨に濡れてもものともしないその雄姿。それでこそかかしだ。台風が怖くてかかしなんてやってられるか!とでも言いたげな表情。頼もしいじゃないか。 

芭蕉かえるからの一句。「古池や たづねてみれば ビルがたち」

歩道ぞいにずらりと並ぶかかしたち。間隔が広めのため、写真ではずらり感が伝わらなくて歯がゆいのだが、実際に道の真ん中に立って見てみるとけっこう壮観だ。ドラクエで王様の部屋の赤じゅうたんの両脇に兵士が整列している感じ、といえば伝わるだろうか。それが7~800mくらい、延々と続いているのだ。

歩道沿いにずらりとかかしが並ぶ

世界のかかしたち(うそ)

かかしは本当にバラエティ豊か。木の枝と古着で作ったオールドスクールなかかしから、張りぼてで自由自在に作ったかかし、ペットボトルなどのケミカル素材で作ったかかしなど。しかしどれもアイデア満載だ。中には「農地を害鳥から守る」という目的からはいささか逸脱しているものも多々みられるが、別にいいよ。だってここ商店街だもん。

こんな武骨でオールドスクールなかかしから
こんなにモダンでポップなかかしまで
こ、こわい。タイトルは「おいで」。絶対行くものか
こちらは布製。妙に肉感的なお相撲さん
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そしてやっぱり自由なかかしたち

この手のコンクールの例に漏れず、このかかしコンクールもやっぱりフリーダムな作品が目白押しだ。紹介しないわけにはいかないだろう。

枝豆。え、えだまめ?
こっちはとうもろこし。

豊作を祈るあまり、かかし本来の「鳥をおどかす」という目的を忘れてしまっているきらいはあるが、その惜しい感じまでひっくるめて、いい作品だ。造形的にどちらもよくできているのが心憎い。

なんだかわかるのにだいぶ時間がかかったが、これはたぶん、あれだ。ぬりかべだ。
かぐや姫。この小ささはかかしとしてはどうかと思うのだが、か、かわいい
それはかかしではなくガーデニングでは!
一人で立ってるのだけがかかしだと思うなよ!わーい、わーい

どの作品も、例外なくなにかひとアイデア盛り込まれていて、平凡なただのかかしを探すのが大変なくらいだ。これはかかしの進化した形ではないだろうか。

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子供も負けてない

自由という点に関しては、やはり子供の作品は見逃せない。かかしである以前に、作品として、物として自由だ。

六歳の子が作った「ドーナツ君」。アバンギャルドな作風の中にみなぎる才気
「13500km えものを食べようとしているライオン アフリカのさばく・草原」。その矢印はなんだ
戦車。戦車?
「ねらわれし、タコ」。農業どころか、もはや陸ですらない。

 

独自の進化を遂げたかかしたち

この手のコンクール、こういった自由な作品がみどころのひとつであるのはいつものこと。しかし、今回に限ってはなんというか、大半の作品が自由だ。これは自由を謳歌しすぎなんじゃないだろうか。守るべき作物がないからこんなことになってしまったのだろうか。これがかかしのアーバンライフなのか!

これは憶測だが、思うに、10年というコンクールの歴史がこんなかかしたちを育ててきたのではないだろうか。最初はおとなしかったかかしも、誰かが面白いことをやると「その手があったか」と他の人がまねをする。あるいは、「それがアリならこれもアリだろう」と自分のアイデアをぶつける。「これもアリ」「その手があったか」「じゃあこれはどうだ」の繰り返しでかかしは独自の進化を遂げ、かかしの定義を勝手に拡張しながら、10年かけて今の形になったのではないか。

本来の趣旨はそっちのけで、独自にすごくなってしまう。こういう現象を個人的に「エクストリーム化」と呼んでいる。このかかしコンクールはまさにエクストリームを体現するようなコンクールだ。おもわず胸が熱くなった。

迫力

自由な作品ばかり紹介してしまったが、ここでちょっと違った方向に進化を遂げたかかしをご紹介しよう。100点以上もの作品がひしめく商店街だが、なかでも特に目を引く作品たち。群を抜いてでかいやつがいるのだ。

で、でかい

一番でかかった作品は、ザリガニ。藁でできていて、足元には防火用水がなみなみ。後ろの車と比べてそのでかさを味わってほしい。

「とにかくでかい」というだけで相当な威圧感があるのに、威嚇するようなこのポーズ。これならかかしとしての実用性も十分だろう。

(これは文句なくかかしですよね。)

キツネ。こっちもでかい

こちらはキツネ。細かく裂いた紙のような素材で作られている。雨よけのビニールがかかっていて見にくいが、手前には子供の狐もいる。こちらも実はけっこうでかくて、全長は2mくらいあったように思う。

さきほどのザリガニがワイルドな力強さを感じさせるのに比べ、こちらはふわふわとした素材のせいもあってか、大きいながらも繊細さを感じさせるつくりだ。

(そろそろ忘れてきてるころだと思いますが、これはかかしです。)

壁一面を埋め尽くすカブキモノ

そしてもっと繊細なのがこの歌舞伎。でかさもさることながら、衣装など細部まで作りこまれた緻密な作品だ。

横についているパンダとキティちゃんは、この人の子供だろうか、それとも追っかけだろうか。パンダは遠くから見るとガイコツに見えて怖いことに気づいた。

(思い出して!これはかかしです。)

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インタビューしてみる

せっかくなので街行く人にかかしコンクールの話を聞いてみようと思う。

あ、あの人に
かかしだった

今度こそ町の人に聞く

かかし鑑賞の旅は長い。展示は道路の両脇に7~800mにわたって続いている。往復で1.5キロほどの長旅だ。そのあいだに、濡れて滑りにくくなったサンダルで靴ずれができてしまった。薬局でばんそうこうを買おう。ついでに、店の女性にかかしコンクールについて聞いてみた。

昔ながらの町の薬局

薬局のおばちゃんの話

・コンクールの期間中は人が多く訪れ、通りは活気づく。

・東京都現代美術館が近いので、通り道に見ていく人も多い。

・うちみたいな商店の客足はそんなに変わらない。でも飲食店は違うだろうね。人が増えるとみんなご飯を食べるから。

・コンクールも回を重ねるごとに、だんだん大きくて凝った作品が増えてきた。

・さいきんは知名度も上がってきて、区外からの応募者も多い。

・ずらりと並んだかかしは確かにすごいけど、近所に住んでいるとわりと慣れっこな光景だ。

 地域に溶け込むかかしコンクール

かかしの話となると終始笑顔で対応してくれたおばちゃん。「客足は変わらない」「慣れっこだ」なんてクールな受け答えだが、僕が「近所でこんなイベントがあってうらやましいですね」と言うと、まんざらでもない、といった表情だ。とりたてて楽しみにしているわけではないにしても、地域のイベントとして、やっぱりそれなりの愛着を感じているのだと思う。

それではかかしを作る側の人はどう思っているのだろう。

出展者にも聞いてみる

前のページに載せた、狐の親子のかかし。このかかしは伏見屋というレストランの軒下に飾られていた。このお店の人にも話を聞いてみた。

雨が降り出してぜんぶカバーをかけられてしまった

伏見屋のお兄さんの話

・このかかしはオーナーが一人で作った。

・製作期間はあまりかかっていなくて、2、3日くらい。

・コンクールの展示が始まる前は店内においていたので、怖がって入ってこないお客さんもいた。

・外に出したら目立つので、かかしを見て入ってきてくれるお客さんも結構いる。

・コンクールが終わってもこのままかざります。キツネは店のシンボルなので。

商店街を盛り上げるかかしコンクール

「オーナーは集中し始めるとそれしか見えなくなっちゃって…」と語る若い店員さんは苦笑い気味だったが、そうしてできあがったかかしは店のシンボルとして大切にされているようだ。

実はこのコンクール、このように店で出展しているケースもけっこう多い。目立つかかしを作るといい宣伝になるのだろう。

こうやっていろんなお店が楽しいかかしを作って、イベントが盛り上がっていく。すると見にくる人が増え、商店街がうるおう。個人の参加者も増えて、イベント自体が盛り上がっていく。そうするとまた商店街に来る人が増えるし、地域の人たちにも、ちょっとした楽しみになる。

なんだか町おこしの理想的な形じゃないか。

伏見屋の石焼深川めし(イタリア風)。うまかった

しあわせな地域社会とエクストリームかかし文化

豊作のためにつくるかかしだが、この商店街ではかかし自体が大豊作だった。そしてその豊作のおかげで、商店街も豊作なのだ。

かかしと一緒に写真をとる若いカップルや、お母さんに一生懸命かかしの説明をしている子供を見ていると、なんだか地域社会の幸せなあり方を見た気がして、この町の人がちょっとうらやましくなってしまった。

そしてそんな人々の生活とよりそうように育っていく、エクストリームかかし文化。今後も独自の進化を続けるかかしたちに注目していきたい。

なんでもかかしに見えてきた

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