クジラは気候変動対策において重要な役割を果たしている、その理由とは?

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気候変動に対処するためには人為的な温室効果ガスの排出を削減することに加え、大気中から二酸化炭素を除去することも必要とされており、近年は生物が持つ炭素を貯蔵する能力にも関心が集まっています。生物による炭素貯蔵においては森林が注目されがちですが、新たに発表された論文では地球上で最大の生物である「クジラ」の炭素貯蔵能力が、気候変動対策において重要な役割を果たしていると報告されています。

Whales in the carbon cycle: can recovery remove carbon dioxide?: Trends in Ecology & Evolution
https://doi.org/10.1016/j.tree.2022.10.012

Whales Can Actually Help Us Fight Climate Change. Here’s How : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/whales-can-actually-help-us-fight-climate-change-heres-how

アメリカ・アラスカ大学サウスイースト校の研究チームは、「シロナガスクジラナガスクジラは地球上にこれまで存在した中で最も巨大な2種の動物です」「大型のクジラはそのサイズと寿命により、膨大な量の獲物を摂取して大量の排せつ物を出すことで小動物よりも効果的に炭素を貯蔵し、炭素循環に強い影響を及ぼしています」と指摘しています。

シロナガスクジラやナガスクジラに加え、ヒゲクジラ類マッコウクジラも含めた大型クジラの寿命は数十年以上といわれています。クジラを巨大な炭素の塊と見なせば、クジラが海洋と大気間の炭素循環および炭素の隔離に占める重要性は大きなものと言えます。

シロナガスクジラは1日に体重の約4%にあたる8000ポンド(約3.6トン)ものオキアミやプランクトンを食べており、結果として生じる排せつ物には鉄や窒素などの栄養素が抱負に含まれているため、プランクトンのエサとなります。海面付近に生息するプランクトンは体に炭素を貯蔵しており、このプランクトンをエサとするオキアミがさらに炭素を蓄え、ペンギン・海鳥・アザラシ・魚・クジラといったその他の動物へとさらに栄養と炭素が循環していくのです。

以下の図はクジラと排せつ物、プランクトン、オキアミ、その他の動物からなる海洋の炭素循環を表したものです。

by Alex Boersma/Pearson et al., Trends Ecol. Evol. 2022

過去の研究では、クジラが毎日大量のオキアミを食べているにもかかわらず、クジラの生息数が多い海域ではオキアミの生息密度も高いことがわかっています。「オキアミのパラドックス」とも呼ばれるこの現象は、クジラのフンが生態系の下層において重要な食糧供給源として機能しており、結果としてオキアミの個体数を増やしているために生じるとのこと。また、オキアミは炭素を海の深い層まで送り届ける役割も果たしているそうです。

産業捕鯨が始まって以降、大型クジラの個体数は急激に減少しており、海洋における炭素循環および除去の役割も担えなくなってきています。かつて南極海に生息していたマッコウクジラは200万トンもの炭素を除去するのに役立っていたそうですが、現在ではその量が約20万トンにまで落ち込んでいるとのこと。

大型クジラの死体は海の底に沈み、海底に住む多くの動物のエサとなっており、ここでも大規模な炭素循環を起こしています。また、大型クジラの多くは栄養豊富な餌場と栄養不足の繁殖地を行き来しており、栄養不足の海域に栄養を運ぶ役割も担っているとのこと。

以下の図は、大型クジラが栄養豊富な餌場(薄いオレンジ色の領域)と栄養の少ない繁殖地(濃いオレンジ色の領域)を行き来していることを示したものです。研究チームは、「ヒゲクジラは地球上で最も長い移動距離を持っていることを考えると、クジラの移動は潜在的に海洋盆地スケールでの栄養素動態と炭素循環に影響を与えます」と主張し、大型クジラの減少はこの点でも打撃だとしています。たとえば、産業捕鯨が始まる以前のシロナガスクジラは南半球で140キロトンもの炭素を輸送していましたが、記事作成時点では0.51キロトン程度になっているとのこと。

by Alex Boersma/Pearson et al., Trends Ecol. Evol. 2022

近年はクジラの保護活動が実を結びつつあり、南大西洋西部ではザトウクジラの個体群が驚くほど回復していることも報告されています。

「絶滅の危機だったザトウクジラの個体数が驚くほどに回復している」という報告 – GIGAZINE


研究チームは、クジラを炭素吸収源として評価して個体群を保護することは、海へ肥料を与えて炭素吸収量を増やしたり、海の奥深くに炭素を注入したりする地球工学的ソリューションよりもリスクが低く、永続性や効果の面でも期待できると主張。「クジラの個体数回復には、海洋の炭素供給源を長期的かつ自律的に強化する可能性があります」「大型クジラおよびその他の生物による二酸化炭素削減の役割は、個体数の増加を直接的に促進する強固な保全・管理介入を行うことでのみ実現されます」と述べました。

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