中国の経済減速を心配する日本メディアに落胆する

アゴラ 言論プラットフォーム

中国報道に必要な総合的視点

「中国人口減61年ぶり」「経済成長率は2.9%に失速」など中国経済の不振をメディアは大々的に報道しています。私は中国経済の減速、人口減少は歓迎すべき変化と考えているのに、メディアは「経済回復に不安」「構造改革が急務」とか、懸念ばかりしているのです。

中国経済に対する日本メディアの報道にいつも、違和感を覚えています。

中国経済への依存度が高い日本への影響は大きいから、そう受け止めるのでしょう。中国経済の減速は軍事的膨張にブレーキをかける一因になる。国際情勢、安全保障・軍事、地球環境問題などを総合的に考える視点が中国経済の報道から欠落していると思います。

習近平国家主席 中国共产党新闻

恐らく中国経済の担当記者は、中国の現地新聞、テレビなどの報道に常時、接して記事を書いているため、中国の共産党政権、政府の懸念が伝染している。「日本の視点からみた中国経済論」ではなく、「中国の視点からみた中国経済論」になってしまっているのでしょう。

国際情勢の分析、安全保障のあり方、日本の防衛政策などにおいては、日本は一段と中国に厳しい目を向けています。昨年12月、政府は国家安全保障戦略など防衛3文書を閣議決定しました。新聞の見出しもずばり「対中国『懸念』から『挑戦』へ」(日経)です。

「中国は国防費を高い水準で増加させ、軍事力を急速に増強している。ロシアとの戦略的連携を強化し、国際秩序への挑戦を試みている」「中国の対外的な姿勢や軍事動向は、日本と国際社会の平和にとって最大の戦略的な挑戦である」とまで同文書は言い切っています。

新聞報道では、人口減少・少子高齢化との関係について、朝日は「中国政府は人口の規模が国の経済力に直結として、危機感を強めている」(1面)と書いています。中国にとってはそうであっても、日本や国際社会からみたら、持つ意味は違ってくる。

「日本と国際社会にとって中国の姿勢は脅威」(同文書)であるならば、中国の人口減少と経済減速はむしろ歓迎すべき現象です。そうであるはずなのに、日本のメディアは中国共産党、政府と同じ立場から経済減速を懸念しまっています。

朝日の社説(18日)は「中国は構造改革が急務である」「中国の不振は世界経済低迷の主因の一つに挙げられる」「世界経済の安定にも資する成長軌道が描けるか」などと指摘しています。

日経新聞はどうか。1面の見出しは「働き手、今後10年で9%減」「老いる世界経済のけん引役」でした。記事では「世界経済をリードしてきた中国の潜在成長力が衰えている」と、書いています。日本は中国経済への依存度が高いから、困ったことになったという気持ちでしょう。

中国経済の急成長が止まり、国内から不満が高まれば、軍事力の増強で国際情勢を攪乱する要因が減る。地球環境に有害なCO2の排出量(世界最大)の伸びも鈍化するはずです。世界や日本経済にとって相対的にプラスの材料になりうると考える視点が必要なのです。

日経の社説は、まるで中国の新聞が書きそうな論調です。「習近平氏は経済浮揚に向けて明確な改革の意志を示すべきだ」「少子高齢化は成長の大きな下押し要因になる。抜本的な対策が求められる」。

私なら「人口減と成長率低下が避けられなくなっているのだから、国際情勢をかき乱すような軍事的膨張路線を修正し、民生安定や社会保障へ重点をシフトすべきだ。そういう時期に差し掛かってきたと思う」と書きます。

人口減についていえば、多くの主要国で出生率は減少しています。1960年代あたりからのグラフをみると、日本ばかりでなく、中国、ロシアも減っている。米国もなだらかな下降線を描いています。

社会の成熟、結婚という選択の回避、育児・教育費の高騰、地球環境面からの制約、コロナの感染拡大など、出生率低下の要因は多い。世界人口が80億人を突破し、地球環境面からみても、もう限界にきているのです。世界1位だった中国の人口(近くインドが1位の予測)が減り始めることはいい転機になる。

読売新聞では、大和総研の主任研究員のコメントとして「23年の成長率は数%に回復する。ゼロコロナ政策の反動増(リベンジ消費)が期待できる」を書いています。そのような短期的、経済的な視野で中国の経済減速、人口減を考えるべきではないと思います。

こう指摘すると、「国内情勢が悪化すると、国民の不満をそらすために、中国は対外的な膨張政策をとってくる」との反論がでてくる。どうなのでしょうか。もうとっくに膨張政策をとり続け、国際社会の批判を浴びている。経済成長にブレーキがかかったほうがよいのだと思います。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2023年1月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。