銚子電鉄の「ぬれ煎餅」を初めて食べた者が受けた衝撃について / 先入観を吹き飛ばすクオリティ

ロケットニュース24

2023年のマイベストグルメが決まってしまったかもしれない。1月にこんなことを書くライターが最も信用ならないのは重々承知しているが、しかしそれほどの衝撃だった。何の話かと言えば、「ぬれ煎餅」だ。銚子電鉄の「ぬれ煎餅」である。

筆者はこの「ぬれ煎餅」というものに前々から興味を抱いており、今回初めて実食したのだが、驚くほどに美味しかった。今年最上位は言い過ぎでも、5本、いや10本か20本の指には入るだろうし、少なくとも「濡れた煎餅部門」ではトップに違いない。

後から及び腰になって予防線を張り出すライターも信用ならないのは承知しているので、そろそろ具体的なレビューに移ろうと思う。

そもそも銚子電鉄の「ぬれ煎餅」と言えば、千葉県にある同社の鉄道員が、収入減少を補うために開発した商品である。改めて名前の由来を確認したところ、煎餅に醤油タレが染み込んで濡れていることから「ぬれ煎餅」と呼ばれているらしい。

今やメディアを通じてその存在が知られているものの、しかしまだローカル感が強くはある。さらに付け加えるなら、普通の煎餅しか知らない者からすれば、そこはかとなく亜流感と邪道感も漂う。

筆者が入手に乗り出したのも、美食を求めてというより好奇心からだった。要するに若干舐めていた。公式オンラインショップを覗くと数種類の味が並んでいたが、今回は「赤の濃い口味」と「青のうす口味」を購入。前者は最初に発売された「ぬれ煎餅」とのこと。価格はいずれも5枚入りで500円だった。

先入観が崩れ始めたのは、実物と対面したあたりからだ。勝手にビショビショに濡れているものだと思い込んでいたが、全くそんなことはなかった。見た目だけなら限りなく普通の煎餅に近い。

しかし触ってみると、しっとりとしている。指に力を込めると、しなる。煎餅がしなっている光景を初めて目の当たりにしたので心を揺さぶられる。同時に、もしかしたら、これは味に関しても新感覚を体験させてくれるのではないかという期待が芽生えていた。

突き動かされるままに、まずは「濃い口味」の方からかじりつく。結果、まさに期待通りだった。口に含んだ瞬間に、心は美食に浸っていた。濃厚な醤油の味わいと香ばしさ。そして何より特徴的なのが食感だった。

濡れていながら硬さもあり、もちもちとした弾力もある。煎餅と餅が組み合わさったような、あるいは餅の焦げ目の部分を食べているような。ともかくその絶妙な独特さが、「ぬれ煎餅」を単なる湿気た煎餅とは感じさせず、噛むほどに広がる醤油の風味を楽しませてくれる。

これは美味しい。味付けと食感の奥深いハーモニーがただただ素晴らしい。頬が落ちるし、目から鱗も落ちるし、これを侮っていた筆者の沽券(こけん)も地に堕ちている。

ただ、非常に味が濃い。筆者は味が濃いものにときめきやすい体質なので助かっているが、薄味が好きな人は少々覚悟が必要かもしれない。

ならば「うす口味」の方はどうかと食べてみたところ、あろうことか、こちらも普通に味が濃い。確かに「濃い口味」よりは少し抑えめだし、ダシの風味も感じられるが、決してあっさりなどしていない。ただちに「やや濃い口味」に改名した方がいい。

薄味が好きな人を救済するのかと思いきや、門戸をピシャリと閉ざすような手腕。間違いなく考案者の鉄道員は筆者と同類だ。とはいえ、個人的にはそれが嬉しい。健康志向の影響か、塩辛い商品が少なくなりがちな昨今、その流れに抗するような仕上がりが有難くて仕方ない。



最後に誤解のないように書いておくと、そうした個人的な嗜好を差し引いても、この銚子電鉄の「ぬれ煎餅」はハイクオリティだと言える。亜流や邪道といったレッテルを吹き飛ばすような気概と、食べる者の舌を喜ばせようという丁寧さに満ちている。

今となっては、「ぬれ煎餅」の一層の発展を願うばかりだ。また、この記事が発展の一助となれば幸いである。好き放題書いておきながら文末に都合の良いことを言い出すライターも信用ならないのは承知しているので、そろそろ筆を置こうと思う。

参考リンク:銚子電鉄 オンラインショップ
執筆:西本大紀
Photo:Rocketnews24.

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