鏡の空間に花が敷き詰められたチームラボ。時は来た。おれのチームラボを作る。
花で埋め尽くされた空間に人物がいる。きれいだなと思ったらチームラボの展示の広告だった。
メディアアートを主とするアーティスト集団チームラボ。自分の写真を載せるSNSの隆盛と相まって、チームラボが手掛ける展示は私達のちょっと良いお出かけ先として浸透してきた。
であるならばそろそろ有名税を払ってもらわないといけない。私による「おれのチームラボ」も受け入れてもらいたいのだ。
鏡に囲まれた空間を作る
やることは簡単だ。鏡で囲まれた空間を作る。そこに花の代わりに自分の好きなものを入れる。最後に自分自身が入る。これでおれのチームラボができあがるはず。
【Floating Flower Garden】
人々が花々の中に埋没し、花と一体化する庭園。
花を近くで見続けると、花もまた人を見はじめる。その時、人は花と一体化し、はじめて花を見ていることになるのかもしれない。空中に咲く、13000株を超える生きたランの花々をお楽しみください!https://t.co/xfKNdqImdI pic.twitter.com/oLfPQLqwZS
— チームラボ プラネッツ TOKYO (@teamLabPlanets) January 15, 2023
いける、おれのチームラボを作りましょう、とデザイナーのよシまるシンさん、ライターの張江浩司さん、デイリー編集部の藤原浩一を呼んだ。筆者と一緒に明日のアーという舞台を作ってる面々である。
鏡が高いので早速妥協する
まずは鏡の調達である。ここで多くの一般市民チームラボたちは挫折をすることだろう。大きな鏡はとても高い。10万円あれば人が入るサイズになるかもしれない。だがそれでもほぼ棺桶みたいなぎゅうぎゅうさだろう。
そこで「自分の全身が入る」を「自分の顔が入る」程度に諦める。そして鏡ではなくミラーのシートにする。みるみるチームラボから遠ざかっていく。
妥協の空間ができあがっていく
ダンボール板にミラーを貼ってみるとここでも挫折がある。ダンボール板は独特の凹凸がありたわみもある。妥協の城が組み上がっていく。
それでも像はゆがむものの反射はする。最高でもなければ最低でもない、そんな普通の人生を歩んできたであろう人の「そこそこチームラボ」が出来上がった。
いいかげんなチームラボができる
頭とカメラの穴を開けてライトも置いた。装置は完成だ。いよいよ実際に稼働してみる。
本家のチームラボはランの花だったそうだが、おれのチームラボはスーパーに売ってる連なった小袋のお菓子である。なんとなくたくさんあったから、といういいかげんな理由でだ。
やっとできた~。持ち上げてもらっていいですか。
いきますよ、はーい
(見る)うわははははははは(笑)うわー(笑)うわー(笑)だめだだめだ(笑)すごいチームラボ、お菓子ぶらさがってるもの(笑)でも全然足らない(笑)
これは……(笑)なんだろうなあ。お菓子が全然足りませんでしたね。ちょっと代わってもらっていいですか?
ものすごい安さのチームラボができる
(見る)あ~!(笑)でも、これでも無限に続いてるように見えるのでチームラボですね。
アンパンマンのお菓子が並んでいるだけなんですけどね(笑)。
(見る)(笑)結構チームラボなんじゃないすかね。なんか感動がありますよ。悲しい気持ちにはなりますけど(笑)
くるくる動いてるのが本家にはないし。
赤ちゃんあやす感じになってますよね。
実際に見るよりも、写真で見た方がすごい感じがしますよね。それは「映え」だと思うんですよね。
お祭りに来た感じありますよね。
それだ。「これがチームラボか…なんて地域のこども会みたいな世界なんだ!!」だ(笑)
おれたちの、それぞれのチームラボ
お菓子でもそれなりにチームラボ感が出た。中に入れるものを変えるだけで「おれのチームラボ」ができるのだ。
今日はそれぞれに中に入れてチームラボ化させたいものを持ってきてもらっているので試したい。
家に数があったんで持ってきました。
なんだろう。卵型のカプセル。模様化するかな。
(見る)うん、なんだかわからないですけどいい感じですよ。なんか説得力あります。
(見る)あ~、見た目におもしろい空間ですよ。映画の『攻殻機動隊』※あたりに出てきそうな場面。
※日本のSFアニメ作品
(見る)はいはいはいはい。現代アート感ありますね。草間彌生※っぽい。
※ドット柄のモチーフで有名
白色っていうのもいいですよね。『2001年宇宙の旅』※というか。
※SF映画
(見る)あ~。ここに3時間いたら気が狂いそう。
この白い卵ってなんなの?
この卵を割ると…。
不良在庫のチームラボ
コロンブスですね。
コロンブスの卵だったんだ。
はい、コミケで一儲けしようと思ったんですけど。100個頼んで1個しか売れなくて。
1個は切ない。15万くらいするのかなあ…。
今年の確定申告では廃棄分として計上しようと思ってます。
まだいけるんじゃないですかね?
いや、もうダメなんです…。
あきらめないで…。
こんな切ないバックストーリーがあったとは。
もう一回入ってみましょうか。
悲しさの無限連鎖へ
(見る)悲しい! 悲しい悲しい!
(見る)だめだ、無限に続いてます!
(見る)ああ~、そうだよな~、コロンブスの卵ってこういうことじゃないよな~!!
というツッコミが日本全国から聞こえてくるはずだったのに…。
この中では無限にツッコめますよ…。
俗なるチームラボへ
つづいてのおれのチームラボですが
私、ハロプロが好きだった時代があって、その時に買い集めたプロマイドを持ってきました。しかももう今全員辞めてしまった方々の。
おれのチームラボ、全員辞めたアイドル…。
夢の後って感じですね…。
特定の人の写真を小さな箱にみちみちに入れていくと言葉にしにくい切なさがありますね。入ってみましょうか。
(見る)ああ、走馬灯だ。私が死ぬ時に見る思い出のような…。
あの時好きだったものがここにあるわけですね。
人はチームラボにしたらあかん
(見る)うっ…。人にすると急にチームラボじゃなくってくるな…。アイドルショップ化する?
アイドルファンの部屋になってしまいますね。
(見る)キラキラしてるのも逆効果ですね。
安く見える。アイドルの方には残念ながら、人の顔がたくさんあるのは怖さがありますね。
猟奇的な。
これがとは言いませんが、殺人鬼の部屋にはターゲットの写真がたくさんありますから…。
チームラボの作戦会議で「全部鏡にしてアイドルの顔で埋め尽くしましょう!」とか聞くことはないだろうなあ。
でも、これはこれで現代美術的な感じもありますよ。
オタクカルチャーと結びついた年代の現代美術ですね。
なるほど、だんだん高尚に見えてきましたよ…。いや、どうなんだ…。
カールおじさんを無限増殖
ぼくはこれです。カールおじさん。家にあったんで。
1体だけだとどうですかね。4体くらいは認識できるだろうけど…。
(見る)おお! 4体どころじゃないですよ。
ほんとですか? でもそれはチームラボではないんじゃないですか?
や、でも結構チームラボかも。ほらなんか形もシンプルだし。ジェフ・クーンズ※みたいですよね。
※米美術家。キャラクター的なモチーフや鏡面素材をよく使う
驚くほど人はカールおじさんに無感動
(見る)あ~、キャラクターの展示として美術界隈でありそうな。
7人の小人みたいな。
でもなんだろうこの気持ちは。
どうしたんですか?
なんにも思うところがないんです…。
おやおやおや!?(笑)
(見る)確かにめちゃくちゃいますけど「めちゃくちゃいるな」っていう以上でも以下でもない……。
やっぱり(笑)カールおじさんさんに対しての思い入れが全くないからだ。
(見る)カールおじさんがいっぱいいる……
カールおじさん(=0)×たくさん=0
確かにそうですね。感動は増えない。
そうだ、いっぱいいるからといって感動はしない。
「花は綺麗」だといっぱいあるといいかもしれないんですけどね。「カールおじさんだ」だと感情は動かないから、それをかけ算にしても0
0でしたね。
そうか、感情が少なくとも必要。
カールおじさんに我々は感情がない…!!
カールおじさんに負い目も恨みもリスペクトもない…!!
暖かなチームラボへ
さて、最後なんですけど。貼るカイロだとわ~あったかいチームラボだな~みたいにならないかなと。
ライトがあったので一回色をつけてみました。
おっ、きれいじゃないですか?
これがチームラボか~。
一回見させてください。
(見る)うん……
(見る)……だからなんなんだ!! すみません、ちょっと。
大丈夫ですよ。我々がこれに慣れてきちゃったっていうのはあるかもしれない。いっぱいあるってこと自体に価値がなくなってきちゃう
(見る)うん……一番、多いですね。
すごい写実的な感想だ(笑)
感情が死んでいる。
私たちは刺激に慣れてくる
(見る)う~ん、最初の方がやっぱ感動がありましたね。それがだんだん薄れてきた感は否めない。
飽きが来てるんだという。ヒア・カムズ・ザ・飽き、ですね。
本家のチームラボも何回も行くようなものじゃないのかもしれないし。
パッとわかるものは刺激が強くて、刺激に慣れてくるのかもしれないな~。
ウルトラマンはずっと光の国にいてあれが日常なんでしょうね。
光ってるなーみたいな。
私達がチームラボに暮らすときが来ました。
こんなものはチームラボではない
なにごとも一線を越えるから評価されるのである。広い空間にきれいな鏡にたくさんの花。突き抜けてこそすごいねと言われるのである。
これはたしかに鏡に囲まれていて、中にあるものが無限に増えている。定義で言えばチームラボなのかもしれない。しかし程度でいえばもちろんチームラボではない。
バえますよと言いつつ頭しか入ってないからだ。鏡がたわんでいるからだ。そして100均で適当に買ったものを吊るしてはいけないのだ。
これはまったく無駄なことであった。だけども意味がないわけではないのだ。私達が新しい文化に出会うとき、そこには歪みが生まれる。は~ん? チームラボ? あたしゃ気に食わないねえ、と大衆演劇の先生がムッとするようなものが人々の心の中に生まれている。そうした歪みを解消するのがこのような無駄な行為である。なので大人しく有名税を払ってもらいたい。
ライターからのお知らせ
吉祥寺シアターにて演技についてのワークショップをすることになりました。明日のアーは3/28から新喜劇をします。
講師は「明日のアー」主宰の大北栄人さん!コメディとは何か、私たちは何が面白いのか、座学と実技を交えて考えてみましょう。
演劇経験不問、見学のみの参加も可能です。
https://www.musashino.or.jp/k_theatre/1002068/1002070/1004530.html