「NanoPi R6S」は、CPUにRockchip RK3588S、メモリ8G、ストレージに32GBのeMMC、2.5Gbps×2+1Gbps×1のEthernetポート、HDMI×1を搭載したシングルボードコンピューターだ。汎用的なサーバーや小型デスクトップPCとしても利用できるが、2.5Gbps×2を生かして高速な有線ルーターとして活用できる。その実力を検証してみた。
8コアのRK3588Sを搭載
NanoPi R6Sは、中国のFriendryElecが開発したシングルボードコンピューターだ。
同社の製品は、本コラムでも何度か取り上げているが、今回のR6Sはハイエンドに位置する製品となっており、CPUにQuad-core A76+Quad-core A55構成のRockchip RK3588Sを搭載しているだけでなく、2.5GbpsのEthernetポートを2つ搭載しており、これらを活用した高速なコンピューティング環境を実現できるのが特徴となっている。
価格は本稿を執筆している2023年1月5日時点で、同社の直販サイトで119ドルとなっており、これに配送方法に応じた送料がプラスされるようになっている。筆者は今回、専用ケース付きで購入したため、最終的な価格は139ドル+12ドルの151ドルとなった。日本円にすると、為替レートにもよるが2万円前後になるだろう。
用途はさまざまで、今回、筆者は有線ルーターとして利用するために購入したが、UbuntuやDebianなどをインストールしてサーバーやデスクトップPCとして利用することもでき、パワフルなCPUと高速なネットワークを活用した汎用的なコンピューティングに活用可能となっている。
同様の製品としては、Orange Pi 5が存在する。こちらの方が大容量メモリを選べるうえ、NVMe SSDも搭載可能なので汎用性は高い。一方で、NanoPi R6Sは2.5Gbps×2を搭載している点がメリットとなる。
FriendryWrtをインストールする
詳細な仕様や使用方法に関しては、同社が公開しているWiki(英語または中国語)を参照するかたちとなる。
インストール可能なOSのうち、同社が公式なイメージとして配布しているものは、現時点ではOpenWrtベースのFriendryWrt、Ubuntu 22.04(サーバーおよびデスクトップ)、Debian 10(デスクトップ)、Android TVとなっており、今回はFriendryWrtを利用した(上記Wikiの4.5.1のリンクからGoogleドライブにアクセスしてダウンロード)。
本製品は、ボード上に32GBのeMMCを搭載しているため、最終的にはeMMCにOSをインストールできるが、まずはmicroSDカードにイメージを書き込んで起動するのが簡単だ。
同社が推奨するwin32diskimagerでもかまわないが、Raspberry Pi Imagerなどのツールを使って、ダウンロードしたイメージを書き込み、R6Sにセットして起動。あとは、画面の指示に従ってインストールする。
そのままmicroSD上で運用することもできるが、eMMCから起動したい場合は、FriendryWrt起動後、[システム]-[eMMC Tools]からインストールできる。
DS-LiteならIPv6 IPoE環境でも利用可能
以前、本コラムでNanoPi R2SのFriendryWrtをレビューした際は、国内のIPv6環境への対応が万全ではなかったが、執筆時点のバージョン(22.03)では、このあたりも改善されていた。
今回、1Gbpsのフレッツ 光ネクスト回線で、ASAHIネットの「v6コネクト」(契約としてはぷららのIPv6サービス)で検証したが、IPv6に関しては標準で利用可能になっていたうえ、IPv4接続に関しても「ds-lite」パッケージを追加することで接続できることを確認した。
具体的には、「ds-lite」インストール後、再起動すると[インターフェース]の[WAN]で[プロトコル]で[Dual-Stack Lite(RFC6333)]が選択可能になるので、これを選択し、AFTRアドレスとして契約しているVNEの情報を入力するだけでいい。
MAP-Eに関しては、残念ながら筆者宅に回線がないため検証できないが、検索するとOpenWrtを利用した接続事例がいくつか見つかるので、「map」を追加すれば可能になるのではないかと推測される。
気になるのは、何といってもWAN/LANともに2.5GbpsとなるEthernetポートの速度だろう。上記、DS-Liteの検証で使ったのとは別の、10Gbpsのauひかり(DHCP接続)回線でテストしたところ、Fast.comで1.8Gbpsと十分な速度が得られることを確認できた。
インターネット上の速度測定サイトの場合、時間などによって混雑している場合があるので、実際の速度は環境次第と言えるが、NanoPi R6Sのハードウェアとしての性能は十分と言ってよさそうだ。
2.5Gbps対応で簡易NASとしても優秀
さて、NanoPi R6Sは、2.5Gbpsを生かした高速なルーターとしても十分な実力を備えているが、正直、家庭でのインターネット接続程度では、リッチなCPUパワーを持て余してしまう。
そこで活用したいのが、自宅サーバーとしての活用だ。
FriendryWrtには、Sambaによる簡易ファイル共有用機能も搭載されており、USB接続したストレージのファイルを共有することもできるようになっている。NASのようにRAIDでストレージを保護することはできないので、一時的なファイルの保管や受け渡しが主な用途になるが、家庭内でのファイル共有も簡単に実現できる。
なお、ファイル共有時のパフォーマンスは以下の通りだ。USB 3.0用ケースにNVMe対応のM.2 SSDを装着して2.5Gbps接続したPCからCrystalDiskMark 8.0.4を実行した結果となる。
標準設定では、書き込みのパフォーマンスが低いが、ファイル共有の設定でチューニングパラメーターを有効にすると270MB/s程度まで速度が向上する。ただし、おそらくキャッシュを利用しているので、不意の電源オフなどでデータが失われる可能性があるため、通常は標準設定で利用することをおすすめする。
Dockerでアプリがガンガン動く
また、インストール時にDockerありのFriendryWrtイメージを選択することで、Dockerも利用可能になっており、豊富なCPUリソースと余裕のメモリを生かして、さまざまなサーバーアプリを稼働させることもできるようになっている。
どれくらい稼働できるかが気になったので、メモリの空き容量を見ながら、次々にコンテナを稼働させてみたが、最終的に11個のアプリ(アプリが使うDBも含むと合計12のコンテナ)を稼働させたところで、メモリが77%(5.79GiB/7.49GiB)となった。
実際にアプリを稼働させて利用することを考えると、50%前後にしておきたいところだが、これなら小規模なオフィスでルーター兼ファイルサーバー兼社内アプリサーバーとして利用することも現実的と言えそうだ。
FriendryWrtでは、Dockerコマンドをコピペすることで簡単にコンテナを作成できる機能が搭載されているが、Portainerを使った方がDockerの管理ははるかに楽なので、こちらを利用することをおすすめする。
なお、本製品はCPUがARMとなっているため、DockerもARMイメージが提供されているものでないと稼働しない(これを探すのが地味に面倒くさい)。ARMイメージが提供されており、かつ実用的なものをいくつかピックアップしてNanoPi R6Sで稼働を確認できたものを以下に掲載しておくので、参考にしてほしい。
いずれも、公式のドキュメントを参考にFriendryWrtの画面からDockerコマンドを読み込ませて設定を生成するか、PortainerのStackでDocker Composeコマンドを読み込ませることで簡単に稼働させることができる。
用途はあくまでもルーター
以上、FriendryElecのNanoPi R6Sを実際に使ってみたが、かなり遊べる製品となっている。ここまでパワフルだと、サーバーとしての利用が面白くなってしまうのだが、あくまでも本製品の本分はルーターとしての利用となる。
なので、メモリが16GBあれば……とか、M.2 SSDがつながれば……などと、思わなくもないのだが、そうなるとOrange Piのようなほかの選択肢も見えてくるし、AliExpressなどにあふれているGemini Lake世代のIntel省電力プロセッサーを搭載した低価格小型PCも視野に入ってくるため、キリが無くなってしまう。
なので、基本的に小型でパワフルな有線ルーターを探している人におすすめしたい製品と言える。OpenWrtベースのFriendryWrtは慣れるまで設定がわかりにくいが、自由度は高いので、かなり「いじる」楽しみがある。