ドローン業界の2022年を振り返る–Zipline日本上陸やACSL海外進出、改正航空法の概要も解説

CNET Japan

 2022年のドローン業界は、1月にKDDIが新会社「KDDIスマートドローン」を設立してドローン事業を継承、4月に豊田通商が「そらいいな」を設立して米スタートアップZiplineの機体とシステムを活用した医薬品ドローン配送事業を開始した。また11月には国産ドローンメーカーのACSLが、インド企業より1.4億円の大型案件を受注するなど、上場企業のドローンに関する動きが活発な1年だった。

 制度面でも、6月に機体登録やリモートID機能掲載が義務化され、12月には改正航空法が施行されて、「機体認証」「操縦者技能証明」「運航ルール」という新たな制度もスタートし、いよいよレベル4(有人地帯における補助者なし目視外飛行)が解禁された。2023年以降のドローン業界の発展に期待を込めて、今年もドローンライターの筆者が2022年を振り返る。

2022年、ドローン企業の動きを振り返る

 2022年は年明け早々、ビッグニュースが報じられた。1月27日、KDDIが100%子会社「KDDIスマートドローン」を設立したのだ。翌2月のオンライン説明会では、日本航空との協業や、上空でのモバイル通信利用と運航管理システム利用などがセットになった「4G LTE パッケージ」を発表した。

日本航空の西畑智博氏(左)と、KDDIの松田浩路氏(右)
日本航空の西畑智博氏(左)と、KDDIの松田浩路氏(右)

 KDDIスマートドローンは、4月1日からKDDIのドローン事業を継承して、多角的に事業を展開中だが、筆者が最も印象に残っているのは、ドローン専用通信モジュール「Corewing 01」を開発した点だ。ドローン物流を手がけるエアロネクストとの対談でも詳しく聞いたが、ドローンはとても狭い筐体(きょうたい)で、多くの制御機器を格納するうえにさまざまなノイズが発生するため、通信品質が悪化してしまうという課題があるという。この解決策としてCorewing 01を開発したところにKDDIの本気を感じた。

(左から)エアロネクスト 代表取締役CEOの田路圭輔氏、KDDIスマートドローン 代表取締役社長の博野雅文氏(右)
(左から)エアロネクスト 代表取締役CEOの田路圭輔氏、KDDIスマートドローン 代表取締役社長の博野雅文氏(右)

 また、KDDIスマートドローンの代表取締役社長に就任した博野雅文氏は、もともと技術畑出身。大学院では無線の研究、入社後も基地局やネットワークの開発、端末の開発を手がけ、モバイル全般の企画や戦略策定にも携わってきた人物だ。技術に精通したリーダーが、就任当時から「いまは競争よりも共創だ」と発信する姿に、個人的には非常に好感を抱いた。

 自律飛行型ドローンSkydioとの協業、セイノーHDとエアロネクストらが推進する新スマート物流「SkyHub」との連携、KDDIが業務提携するスペースXの衛星ブロードバンド「Starlink」の活用など、2023年以降の飛躍に向けて多方面で素地を整えた1年だったのではと期待が高まっている。

 2022年4月、豊田通商が子会社「そらいいな」を設立して、あのZiplineと協業する形で、長崎県五島市で医薬品のドローン配送サービスを開始したことも嬉しいニュースだった。Ziplineは、固定翼ドローンを開発する米国のスタートアップで、アフリカのルワンダでは全国への血液輸送のインフラとして、すでに定着している実力派。今回は、Ziplineが他社に技術提供した初めての事例になったことや、アフリカ以外の第3国として日本が選ばれたことも、注目したポイントだった。

Ziplineの固定翼型ドローン
Ziplineの固定翼型ドローン

 聞けば、豊田通商は2018年に事業会社として初めてZiplineに出資し、両社は約5年かけて信頼関係を構築してきた。また、日本を代表するトップ企業である豊田ブランドへの安心感も、そらいいなへの技術提供に結びついたという。実は、そらいいな代表の松山ミッシェル実香氏は、2018年にZiplineを初訪問した張本人で、プライベートでは出産も経ながら、同社との新たな事業創造を手がけてきたということも取材で知った。せっかく新産業を創造するのだから、女性をはじめ多様な視点を当初から織り交ぜてほしいとかねてより感じていた筆者は、松山氏の活躍にも心が弾んだ。

 一方で、五島にドローン活用への社会需要性がすでにあったことは、五島市が離島振興の文脈で進めてきたスマートアイランド構想の成果ともいえる。そこには、2018年に地域おこし協力隊として五島に赴任し、市役所に在籍して数々の実証実験を手がけてきた、現在はそらや 代表取締役の濱本翔氏や、ANAドローンチームをはじめとする、五島のプロジェクトに関わった多くの事業者の尽力があったと認識している。社会を変えるのは、やはり人の想いだ。

 思えばきっと、2018年は1つの大きな転換点だった。千葉大発スタートアップのACSLが、ドローン専業企業として初めて東証マザーズに上場を果たしたのも2018年だった。2021年の振り返り記事では、スタートアップであるACSLが国家プロジェクトをリードして、小型空撮機「SOTEN(蒼天)」を製品化したことを伝えたが、2022年の同社の動きで筆者が最も注目したのは、海外展開の加速だ。

 2022年11月、ACSLは米国においてSOTENのデモンストレーションを実施して、高い評価を得たというリリースを出した。公共施設のインフラ点検用ドローンの販売などを手がけるGeneral Pacificをはじめとするいくつかの事業者を訪問したという。前段として、9月にラスベガスで開催された「COMMERCIAL UAV EXPO」に出展し、セキュリティの高さが経済安全保障のニーズに対応しているという点で、米国企業からの高い興味関心を得たようだ。

 また同月、ACSLはインド企業から1.4億円の大型案件を受注したというリリースも発表。インドも脱中国メーカーを図る政策方針を打ち出しており、ACSLは2021年9月に現地合弁会社のACSL Indiaを設立、インド国内でドローンを生産して型式認証を取得し販売する道筋を模索していた。

 筆者は、ACSLという海外展開を加速“できる”スタートアップが、日本のドローン業界に存在することを頼もしく感じる。代表取締役社長の鷲谷聡之氏のキャリアや現地でプレゼンもできる英語能力、CTOのクリス・ラービ氏率いるエンジニアチームの日英飛び交う開発環境など、グローバルにオファーできるカルチャーがある。

ACSL 代表取締役兼COOの鷲谷聡之氏
ACSL 代表取締役兼COOの鷲谷聡之氏

 余談にはなるが、2022年3月に本誌CNET Japanの取材で、トヨタ傘下のウーブン・キャピタルのキーマン、George Kellerman氏へのインタビューに同行したとき、「日本のスタートアップも、日本国内だけで十分な市場規模があると考えず、会社を立ち上げる段階からグローバル企業として思考することが重要」との気づきを得た。鷲谷氏とラービ氏のコンビが、海外展開をどのように舵取りするのか、引き続き注目したい。

 2022年は、上場企業がメディアを賑わせたほかにも、さまざまな取り組みを取材したが、上空でのモバイル通信活用が広がりつつあることも印象的だった。

 たとえば、Team ArduPilot Japanは、3年ぶりに北海道上士幌町で開催された、ドローンを活用した山岳救助コンテスト「Japan Innovation Challenge 2022」で、5km離れたリモート会場から機体を遠隔操作するために、オープンソースのフライトソフトウェア「ArduPilot」をベースにLTEとクラウドサービス、赤外線カメラを活用して、ロングレンジで運用可能な捜索システムを構築し、機体へのコマンド送信、状態モニタリング、カメラ映像の受信をフルリモートで実施し、見事課題を達成していた。NTTデータ社員ら、日本を代表する技術者が有志で集まって、企業の枠に囚われない仲間として技術を磨く点は非常に興味深い。

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夜間遭難救助模擬イベントへのチャレンジを説明(出典:YouTube)

 いよいよレベル4が解禁されて2023年以降は、LTEの上空利用や遠隔操作の取り組みが増加することが見込まれる。また、1操縦者が複数機体を同時に管理するための技術やシステムの開発、環境整備も進んでいくだろう。本記事後半は、2022年12月から始まった新制度の概要について抑えておきたい。

2022年12月、いよいよレベル4解禁–新制度の概要解説

 制度面の動きは、大きくは2つある。最初に、2022年6月20日に機体登録が義務化され、登録していない100g以上のドローンやラジコンなどの無人航空機は飛行禁止となった。また、機体に物理的にシールを貼るなどして登録記号を表示することと、識別情報を電波で遠隔発信するリモートID機能を掲載することも義務化された。リモートID機器から発信される情報は、機体の製造番号や登録記号、機体の位置や速度や高度などで、個人情報は含まれない。もし対象機体を登録せずに飛行した場合は、1年以下の懲役または50万円以下の罰金だ。

 機体登録は、従来であれば登録対象外だった100〜200g未満の小型機も対象となったり、事前登録期間中(2021年12月20日〜2022年6月19日までの間)に登録申請を完了した場合はリモートID機器の搭載が免除されたりしたことなどから、2022年前半は登録や混乱も相次いだ。他方、DJIが日本国内向けに販売している機種について、ファームウェア更新による内蔵リモートID機能対応を進めるなど、メーカー側の対応も目立った。ちなみに、リモートIDは内蔵型と外付け型がある。12月の展示会では、1円玉サイズの外付けリモートIDがお披露目され小型化が見られた。

 次に、2022年12月5日、いわゆる「レベル4飛行」が解禁となった。2021年6月に公布された「航空法等の一部を改正する法律」が施行されて、いわゆる有人地帯、第三者上空での補助者なし目視外飛行を実現するための3つの新制度「機体認証」「操縦者技能証明」「運航ルール」がスタートした。

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 「機体認証」は、第一種と第二種がある。それぞれ、メーカーが設計、製造する量産機を対象とした型式認証と、1機ごとの機体を対象とする機体認証がある。第一種機体認証は、国土交通省が、第二種機体認証は、登録検査機関である日本海事協会が、検査を行う。

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 「操縦者技能証明」も、一等無人航空機操縦士と二等無人航空機操縦士の、2つの区分がある。いずれも、学科試験、実地試験(実技)、身体検査を受けて、合格者が技能証明書を取得できる。試験は、指定試験機関である日本海事協会が行い、国の登録を受けた講習機関(スクール)の講習を修了すれば実地試験が免除される。

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 第一種機体認証と第二種機体認証、一等無人航空機操縦士と二等無人航空機操縦士の違いを把握するためには、航空法において定められた「特定飛行」を理解する必要がある。特定飛行とは、国土交通省大臣の許可や承認が必要となる空域や方法での飛行のことだ。具体的には、「空港周辺」「人口集中地区の上空」「高度150m以上の上空」の空域を飛行する場合や、「夜間」「目視外」「第三者との距離が30m未満」などの方法で飛行する場合を指す。国土交通省が分かりやすく整理しているので、こちらも参考にしてほしい。

 このたび解禁となったレベル4飛行は、一等無人航空機操縦士の技能証明を受けた者が第一種機体認証を受けた無人航空機を飛行させ、また飛行の形態に応じたリスク評価結果に基づく飛行マニュアルの作成を含め、運航の管理が適切に行われていることを確認して許可、承認を受けることで、可能になるというわけだ。

 ただし、機体認証も操縦ライセンスも、ドローンを飛ばす時に「絶対必要」というわけではない。まずは、必須となる飛行とは何かを理解することが求められる。また、業務発注元の要件に、機体認証や操縦ライセンスに関する決まりがあれば対応する、個別の許可、承認を省略して申請業務の負荷低減を図った方が合理的であれば対応する、などのような状況判断も求められるだろう。

 「運航ルール」は、ドローンを飛行させるにあたって遵守するべきルールが明確に示されたものだ。レベル4飛行と、レベル4未満の飛行いずれにも適用される「共通運航ルール」が創設され、レベル4飛行で求められる運航管理体制も定められた。

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 2022年にスタートした各種新制度については、賛否や戸惑いの声も多く聞こえる。しかし、官民協議会がここ数年、ドローンに関する政府の取組を工程表として取りまとめた「空の産業革命に向けたロードマップ」を策定、公表しながら、着実に進めてきたレベル4が実現できたことは、日本のドローン業界にとって大きな一歩。そして2022年8月には、「空の産業革命に向けたロードマップ2022」が示され、レベル4実現の先の未来についても解像度が上がってきた。2023年も、ドローンの社会実装に向けた新たな動きをお届けしていきたい。

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