2022年6月から日本でも広告事業(パートナー企業からの広告をPinterest内に表示)をスタートさせた「Pinterest(ピンタレスト)」。写真や動画を共有できるサービスとしてInstagramなどと並べられることも多いが、同社CRO(Chief Revenue Officer/最高収益責任者)のビル・ワトキンス氏は、他のソーシャルメディアとは異なるユニークなポジションのサービスであり、かつブランドにとってポジティブで安全なプラットフォームだと強調する。
広告媒体として見たとき、Pinterestはどのような特徴を持つサービスなのか。日本でのビジネスの進捗やマーケットへの期待をワトキンス氏に聞いた。
最高収益責任者(CRO)のビル・ワトキンス氏
――改めて、Pinterestとはどのようなサービスなのでしょうか?
Pinterestは人々がインスピレーションを得るために訪れる場所です。本当に欲しいものを見つけて、買い物をするために訪れる場所でもあります。私は約10年この会社にいますが、この2つの軸はずっとぶれることがありません。
私たちがPinnerと呼んでいる月間アクティブユーザーは、すでに世界で4億人を超えています。彼らは今日の夕食や、明日オフィスに着ていく服といった、毎日の暮らしに関わるものから、子供が生まれる、家を建てるといった人生の大切な瞬間に必要なもの、あるいは次の旅先のアイデアといったものまで、様々なインスピレーションを求めて、日々Pinterestを訪れています。フード、ファッション、ホーム、ビューティー、トラベルは特に人気のカテゴリーで、PinnerはPinterestにある多くのイメージからインスピレーションを得て、また欲しいものを見つけて買い物を楽しんでいます。
――2022年には日本でも広告事業が始まりました。なぜこのタイミングだったのでしょうか?
まず事業を始めた背景として、私たちは長年にわたって日本でのユーザー体験をより良いものにし、エンゲージメントを築けるように取り組んできました。小規模ではありますが日本にチームを置き、日本のPinnerのためにコンテンツのローカライズに注力してきました。
私たちが新しい市場に参入する際には、ユーザーの伸び、 市場のニーズ、そしてビジネスのモメンタムという3つのことを考えます。昨年、日本市場にその条件が整ったと感じ、カントリーマネージャーを採用しました。以来この1年の間に、東京のオフィスは5倍に拡張されています。
とてもエキサイティングな1年であり、日本は今、私たちにとって最優先の市場のひとつになっています。先ほどの3つの要素、ユーザーの伸び、 市場のニーズ、モメンタムを後押しするために投資を続け、成長を継続させる態勢も整いました。その上で2022年、日本で広告事業をスタートできたことは私たちのビジネスの大きな節目であり、マイルストーンだと考えています。
――これまでに日本の広告主からは、どのようなフィードバックがありましたか?
広告事業を開始して以来、すでに何百社もの企業、ブランドが大小様々なビジネスにPinterestを活用してくださっています。最初のモメンタムとしては、非常に成功していると言えます。そうした中で、いくつかの共通するフィードバックもいただいています。
1つ目はPinterestが、他のソーシャルメディアと比べてユニークなポジションにあるということ。 ブランドにとってポジティブで安全なプラットフォームであるということです。実際に米国の調査会社のeMarketerは、Pinterestを最も信頼できるソーシャルアプリの第1位に選んでいます。世界的にもそうですが、日本国内でも同じことが言えます。
2つ目は私たちのユーザーであるPinnerは、とても具体的な商業的意図を持っているということです。彼らはインスピレーションを得るためにPinterestへやってくると同時に、買い物のためにやってくるのです。
また4億人を超える月間アクティブユーザーの97%は、最初の検索をブランドを指定せずに行っています。彼らは意思決定をするために、ブランドからの助けを求めているのです。実際に10人中8人はブランドから情報を得て、それを活用しています。つまりブランドにとっては、大きなチャンスがあるということです。
Pinterestで買い物の計画を立てているPinnerは、発見したブランドをボードにプロダクトピン(※)として保存しています。つまり、ブランドは歓迎されているのです。広告はときにユーザーにとっては邪魔なものですが、Pinterestでは広告が邪魔になることはありません。広告はPinnerのユーザー体験の一部になっていますし、日本のクライアントもそのことを実感し、評価してくれています。
※編集部注:商品名や価格、在庫情報などを保存した画像や動画と一緒に表示できるピン
3つ目に、かなり早い段階から言われたのが、私たちのパフォーマンスについてです。Pinnerは商業的意図を持っているという点で、他のソーシャルメディアのユーザーとは根本的に違います。実際に彼らの購入金額は他と比べて2倍高いですし、ショッピングの際のバスケットは85%も大きい。日本でも83%です。また10回中6回は広告をクリックします。日本のPinnerは広告を見て、その商品をチェックするためにブランドや小売業者のサイトへアクセスしています。私たちはこうした成果にとても興奮しています。国際的な成長はPinterestの優先事項ですが、日本市場はその大きな一歩です。
――Pinterestは他のソーシャルメディアと何がどう違うのでしょうか?
人々はニュースや政治、それらについての意見といったようなものを求めて、Pinterestに来るわけではありません。繰り返しになりますが、彼らは日々の暮らしや人生の大切な瞬間に、インスピレーションを得るために来ているのです。Pinterestは発見し、刺激を受け、それを自分たちの生活の中に活かすための場所なのです。
これは、従来のソーシャルメディアの使われ方とはかなり違うと思います。Pinnerは自ら意図を持って、能動的にインスピレーションを探しています。ただ受動的に親指でスクロールしているわけではありません。言わば身を乗り出しているユーザーなのです。
さらに技術的な側面として、私たちは何年も前から世界最高クラスのサービスを構築してきました。4億人のPinnerによる3000億に及ぶピンの蓄積をもとに、機械学習のエンジニアリングチームがユニークなデータセットに基づいて、最も洗練された人工知能を構築しています。また、Webから収集されたオブジェクトは、私たちがボードと呼んでいる70億以上のコレクションに整理されています。そのデータ資産は巨大で、他の伝統的なソーシャルメディアと比較しても、実にユニークなものです。
人工知能が画像や動画の中身や、そこに含まれる商品を理解することで、買い物がよりやりやすくなります。あるいはユーザーの興味の傾向をもとに、よりパーソナライズされたフィードも提供しています。さらにそうしたユーザーの傾向から、毎年Pinterest Predictsと呼ばれるトレンド予測も発表しています。
多くのソーシャルメディアから、前年に何が流行ったかを知ることができるでしょう。しかし私たちは、来年のトレンドをお伝えすることができます。このデータ資産によって、真にパーソナライズされた体験を生み出すことができるのです。ユーザーの積極性、商業的意図、そしてテクノロジーとデータ資産が、私たちのサービスを際立たせているのです。
――日本でもShopifyと提携してサービスを提供されていますが、その狙いは?
Shopifyは私たちの戦略的なパートナーで、世界中の170万のマーチャント(ネットショップ)がPinterestとつながり、自社商品をPinnerに紹介できます。商品カタログや広告はPinnerにとっても役立つものですし、実際に非常にポジティブに受け入られています。特に動画のコンテンツは、Pinterestの中でも最も早く成長しているもののひとつです。
私たちはこれまで4年以上にわたって、広告に投資をしてきました。パートナー企業が商品カタログを取り込む際、タグを簡単に設置できるようにしました。また効果測定ができるシステムにも多くの時間を費やしてきました。世界でも日本でも、商品カタログや広告は私たちにとって重要な優先事項であり、今後も力強い成長を見込んでいます。
――今後、注力していきたいことを教えてください
私たちの使命は、人生を創造するためのインスピレーションを、すべての人に届けること。その使命を果たすために、主に3つのことに注力しています。1つ目はコンテンツ・クリエイターのエコシステムを構築すること、2つ目はショッピング体験、3つ目は収益化です。
私たちがコンテンツ・クリエイターにフォーカスするのは、クリエイターがPinnerを刺激する原動力となるからです。今後の成長とエンゲージメントを高める意味でも、欠かせない存在だと考えています。また10人中9人のPinnerがPinterestで買い物をしてることからも、ショッピング体験を向上させることは必然です。そのために積極的に投資を続けていきます。最後の収益化ですが、これはとても重要なことです。広告事業を通じて地域の企業がグローバルにリーチできるなど、パートナーの収益化を後押しできると考えています。
日本でのビジネスはまだ始まったばかりで、今は本当にユニークでエキサイティングな時期です。私たちはこの数ヶ月で何百もの新しい広告主を獲得し、Shopifyのようなサードパーティともパートナーシップを結びました。手応えを感じる一方で挑戦は始まったばかりであり、まだまだやるべきことがたくさんあります。これからそれを実行に移すことに、とてもわくわくしています。