オンド・マルトノ。
オンド・マルトノという楽器がある。オンドというのはフランス語で「電波」の意、そしてマルトノは製作者の名前だ。なので直訳すると「マルトノさんの電波」となるらしい。そんな謎の楽器が奏でる音楽を聴いてきました。
※2007年4月に掲載された記事を、AIにより画像を拡大して加筆修正のうえ再掲載しました。
難解です
今回聴きに行ったコンサートはピアノ、ボーカル、テルミン、オンド・マルトノという構成だった。テルミン(ロシアで発明された世界初の電子楽器。乙幡さんの記事参照)の時点ですでに普通ではないが、さらにオンド・マルトノだ。どうなっちゃうんだろう。期待に満ちた観客を前にして、いよいよコンサートは始まった。
みにょーん、びょーん、ぽあーん、ひゅーおーひゅーおー、ゆやああああん
圧倒的な難解さだ。音を言葉で表すのは難しいが、簡単にいうと、わけがわからない。最初に演奏されたデュオという曲は、チェロをオンド・マルトノで、のこぎりをテルミンで表現しました、と言っていた。のこぎりて。オンド・マルトノは例えるならば中国の二胡みたいな音色がしていた。記事の最後に紹介するHPにサウンドファイルがアップされているのでぜひ聞いてみて欲しい。
ひとつ曲が終わるとまず舞台裏から拍手が起こる。そして我に返ったように会場も拍手をする。初めて聴く人にとってはどこで拍手していいのかすらわからないのだ。
「次の曲は、暗闇からモンスターが現れた時をイメージして作った曲です。」
にょーん、きゅきゅきゅ、もにゃー、いにょあああー、じょびーん、じょびじょびーん
難解すぎて眠くすらならない。しかしそれでもすばらしい演奏は本能に訴えかけてくる。曲が進むにつれて我々観客も徐々に不思議な世界へと引き込まれていった。
オンド・マルトノとは
そもそもオンド・マルトノというのはどのような楽器なのだろうか。コンサートの後に「質疑応答」という時間があったので(そんなコーナーのあるコンサートも珍しい)いろいろ教えてもらった。写真は演奏者の市橋若菜さん。国内には数えるほどしかいないという奏者の一人。
オンド・マルトノは1928年、フランスで開発された。鍵盤があるのでオルガンのようにも見えるが実際は全く異なり、弦楽器の演奏をイメージして作られているのだという。演奏者はリボン(弦だと思います)へと繋がるリングと呼ばれる部品を右手の指にはめて鍵盤に沿って左右に動かす。これが弦楽器でいうところのフレット(弦を押さえる部分)にあたるのだとか。鍵盤はあくまでもリングの位置の目安ということだ。
楽器自体はあまり知られていないが効果音的に使われていることが多く、普段知らずに耳にしていることがあるらしい。たとえば水戸黄門の弥七の登場の音(ひゅーんという音)とかゴーストバスターズのお化けが飛び回る音とか、実はオンド・マルトノで演奏されているのだという。
そして左手でスイッチを操作して音を出す。要するに弦楽器でいうところの弓の役割だ。「引き出し」と呼ばれる操作部には小さなスイッチがずらっとレイアウトされていた。
ぜひとも実際に触らせてもらいたかったのだけれど、この楽器、現在は製造されておらず大変に貴重なのだ。今回は残念ながらここまで近づくのが精一杯だった。カメラのストラップとか引っ掛けて倒したりしたら、僕はもうここにはいない。
個性的な出力部
次に音の出る仕組みだ。弦の操作で発生した音波は音としてこちらのメタリックと呼ばれる装置から出力される。見た目銅鑼(ドラ)だが、やはり銅鑼らしい。周波数の異なる音波が共鳴して銅鑼を震わすということだが、原理はよくわからない。
そんな正体不明の出力場所は銅鑼の他にもあと二つある。
そのひとつがこちら、パルムと呼ばれる装置。ますます難解になってきた。構造はよくわからないが、裏表に弦が張られた琵琶みたいな物体だ。内部で共鳴した音が弦を揺らす。
そしてその下にあるのがプリンシパルと呼ばれる装置。これも出力装置だ。内部に大きなスプリングが仕込んであり、それが震えることにより音が出る。
これら三つの出力装置から発せられる音が渾然一体となって不思議な音を作り上げるのだ。
オンド・マルトノ全景がこちら。
総重量は100キロを超えるが、今回の演奏者市橋さんはツアー中は一人で移動させているのだと言っていた。はじめは市橋さんがなぜこの楽器を選んだのか不思議に思っていたのだが、説明を聞いているうちに自分でも欲しくなってきた。でも売るなら5億、と言われて僕の場合あきらめた。
新しい楽器、始めませんか
世の中には僕たちの知らないものがたくさんあり、それらにはそれぞれの専門家がちゃんといるのだ。まだまだ世界は個性に満ちているのだと思った。はじめるなら他の人がやっていない楽器を、という方、オンド・マルトノなんてどうでしょう。