世界初、“世紀単位”でのゲノムデータ管理を想定した「個別化ヘルスケアシステム」の実証に成功。東芝ら4者 

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 株式会社東芝、東北大学東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo:トモ)、東北大学病院、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)の4者は12月8日、量子セキュリティ技術と個人認証技術を連携させた「個別化ヘルスケアシステム」を世界で初めて構築し、実証に成功したと発表した。

 今回実証された技術により、ゲノムデータを情報理論的に安全で将来にわたり盗聴の脅威のないかたちで管理しながら、いつでも個人認証と連携して復号・復元して活用可能となり、個別化ヘルスケアの実現や普及への貢献が期待できるとしている。

個別化ヘルスケアの全体シーケンス。

子孫の世代にも影響するゲノムデータは「世紀単位」の保護が必要

 個別化ヘルスケアシステムとは、個人のゲノムデータなどを生活習慣などの環境因子と共に解析し、個人ごとに病気の罹患リスクなどを計算し、最適化した健康リスク管理を行うもの。ゲノムデータ解析技術が近年著しく進歩するのに伴い、こうしたシステムの実現への期待は加速度的に高まっているという。

 その実現には、ゲノムデータの解析技術だけでなく、ゲノムデータを安全に伝送・保管して利用する技術が必要となる。ゲノムデータは、一定の条件を満たすと改正個人情報保護法において個人情報と同等とされる個人識別符号に位置付けられる。加えて、そのデータは複数の世代・家系にわたって影響するリスクに発展する可能性がある。そのため、ゲノムデータは世紀単位で保護する必要があるという。

 そこで、今回の研究では、2030年ごろに実用化されると言われている量子コンピューターによる攻撃にも対応できる「量子セキュリティ」技術と、当事者によるアクセスを認証する個人認証技術を連携させ、多数の個人のゲノムデータを複数拠点に分散保管し、医療や健康管理に活用できるシステムを構築した。

 ゲノム解析したデータを、「シェア」と呼ばれる、それ自体では意味をなさない複数の情報として生成し、これを分散管理する。そして、認証できた個人からのアクセスに応じてゲノム解析データとして復号・復元するシステムだ。

 このシステムの実証実験を、ToMMoおよび東北大学病院のオペレーションで実施。安全で、現実的な個別化ヘルスケアシステムを構築できることが確認されたとしている。

実証システムの構成イメージ

2021年の実証実験における課題を新開発のシステムで解決

 今回の研究に参加した4者は、2021年7月に量子セキュリティ技術による「データ分散保管技術」を開発した。そして、大規模ゲノム解析データを複数拠点に分散してバックアップ保管し、その後復元する実証実験に世界で初めて成功している。

 しかし、この技術は大容量データを一括伝送・保管することに主眼を置いた方式のため、多数の個人のゲノムデータを個別に扱うことが困難だった。また、「量子暗号技術」と「秘密分散技術」の機能を独立して実装・運用するため、大規模システムとしての統一的な運用が難しいという課題もあった。

 そこで今回は、量子暗号・秘密分散・個人認証を統一的に管理運用できるプラットフォーム「統合鍵管理システム」と、各分散拠点の量子暗号鍵の残量情報からシェアを保管する最適な拠点を決定し、個人IDと関連付けて保持する「シェア制御システム」を新規に開発。ゲノムデータの安全な一括保管・復元に続き、随時、多数の個人データを分散保管し、個人認証と連携して必要時に復元するユースケースの実証に取り組んだ。

 実証実験においては、個人のゲノムデータのシェアの利用にマイナンバーカードによる認証を組み入れ、カードを保有する本人の利用許諾がない限り、医療拠点においてもゲノム解析データの復元ができず、情報流出が起こらない仕組みを実現した。このシステムでは、拠点の一部が災害などでデータを喪失しても、ほかの拠点に格納しているシェアからデータを復元できるという。

 この研究において、東芝は量子暗号通信システムと個別化ヘルスケアシステムの開発・構築・運用を担当し、NICTは高速ワンタイムパッド(OTP:一度使用した暗号鍵を何度も使い回さずに、一度使用したら破棄する方式)技術および高速秘密分散技術の開発・運用を担当した。ToMMoと東北大学病院は、検証拠点の提供、個別化ヘルスケアユースケースの具体化、オペレーション、および適用可能性の確認を担当した。

 今後の展望として、東芝は、秘密分散技術と組み合わせたシステム実証を含むさまざまな量子暗号通信技術の研究開発を加速するとしている。

 NICTは、引き続き量子通信分野における先端的・基礎的研究開発と、産業への貢献に向けた量子暗号・光量子制御などの技術の研究開発に取り組む。そして、ToMMoおよび東北大学病院は、ゲノム情報に基づく未来型医療の実現に向け、ICT技術の活用を進め、個別化ヘルスケアの実現を推進するとしている。

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